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映画館から出た。
私達はハンバーガーショップに寄り、コーヒーとポテトだけを頼んで、格安でまったりした。あーだこーだと映画の感想を言い合った。
「あれ観て気付いたんだけど、私、クズ男が出てくるフィクションってかなり苦手かも。感動してた英子には悪いけれど。」
「いや、感動したっつーかよ……。あれ、歌がずりーんだよ、主題歌が。あれかけたら、そりゃどんな映画でも泣くわ。『ねえ泣きそうになるの 抱きしめたい 抱きしめたい 抱きしめたい そう思うたびに』ってやつ……。」
「いや、歌うまっ。」
小声でもわかる英子の美声に、小さく拍手を送る。
「あーいや、うまさはどうでもいいっつーか……。あたし的に、すげー共感する歌詞だったっていう、それを……まあいいや。」
「は?」
「なんでもねーよ。つーか、友香も悪口ばっか言ってねーで、ちょっとは褒めろよ。せっかく金出して観たんだからよ。無理にでもいいところみっけねーと、丸損じゃねーかよ。」
「えー?ああ、でも、あのシーンよかったわ。失恋したヒロインが、主人公に『唇さみしいから、キスで慰めて』っていうところ。」
「ああ、序盤のやつ……。」
男に振られて人肌恋しいヒロインは、「誰でもいいからキスして欲しい」という理由で、友達の主人公と唇を重ねる。それで主人公は、ヒロインを恋愛対象として意識するようになる。でもヒロインは、すぐにクズ教師に惚れてしまって……という流れになる。
「その後の展開はあれだけど……。女の子同士でキスしたら、相手の口にリップの色が移っちゃうって演出も素敵だったー。唇塗ってキスなんてしたことないから、『そうなるのね』っていう驚きもあったし。」
「そ、そうかよ……。」
キスの話題を出すと、うぶな英子は急にドギマギしだした。
何気なく言ったけれど、そんなリアクションをされるとこちらも気まずくなる。というか、いろいろと不安になってくる。
もしかしたら、「こいつ、キスしてみたいからあんなこと言ったんじゃ」って勘違いされたかも。そんな気がして不安になる。そう思われていたらどうしよう。エッチな女の子だと誤解されてしまう。って、誤解でもないか、よくエッチな妄想するのは事実だし、それはもうバレてるし……。
「そういや、友香も今日してんな、く、口紅……。」
英子が、心なしか緊張したような声で言った。
「あ、うん、気付いてたんだ……。ははっ。」
私は意味もなく、乾いた笑いを漏らした。
「まあその、前に買って使ってなかったから、ちょっと試しにね?口紅っていうか、カラー付きリップだけど。」
「そ、そうかよ、よくわかんねーけど。……つーか、あのさ、いっこ聞いていいか?今、ちょっとすげー気になってることあんだけど。」
「なに?」
内心「『ちょっとすげー気になる』って表現はどうなの」と思ったけど、それは言わずにおいた。たぶん、そんな感じの空気じゃないし。
「お前さっき『口紅してキスしたことない』って言ったけどよ……、じゃあその、ひょっとして……。あ、あるのか?経験……?」
「は?」
「だ、だからよ。口紅とかなんにも塗ってない普通のキスは……あ。」
質問の途中で、不意に英子が口をつぐんだ。
そのままフリーズしたように、横の窓ガラスをじっとみつめる。
窓の外に、何かを見つけたみたいだった。




