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決意をした翌朝の、登校時間。
真冬さんが合流する前に私は、心春を映画に誘おうとした。
でも、できなかった。勇気が足りなくて。
結局もじもじしているうちにタイムアップとなり、真冬さんが合流してしまった。
三人になると、私は後ろに一歩下がった。
前は不本意だったこの位置も、すっかり慣れてしまっていた。今では心春の後ろ姿を見守るのが当たり前だった。
二人の話題は、珍しくジグソーではなく、髪だった。髪切りデスマッチで負けた心春は、約束通り、真冬さん行きつけの美容院でカットすることになったのだ。
心春はおしゃれな髪型になんて興味ない。そう思っていたけど、私の勘違いみたいだった。真冬さんの話に、興味津々でくいついていた。私は後ろで、黙って聞いているだけだった。
「真冬はなんでも知ってんなー。あたし、髪のことなんてなんも知らんからさー。いい機会だから、もっといろいろ教えてくんない?」
「ええ、構わないわ。なんでも知っている、というのは買いかぶりだけれどね。」
「いやさー、前から髪について、一個気になってることがあんの。ちょっとそれだけ聞かせて。質問させて。」
「なにかしら?」
「ボブカットってあんじゃん。あれ、ボブさんが発明した髪型だからボブカットってーの?」
「ええと……。」
「真冬さーん、そういうのシカトしていいからねー。」
こんなふうに、時々後ろから口を挟むだけだった。
「……まあでも、あなたに似合いそうね、ボブ。」
「あ、流された。ひでー。」
「あら。話題転換のためではなくて、本気で言っているわよ?短い髪の心春も、きっとかわいらしいと思うわ。」
「え、あ、そっすか……?ふうん……。んじゃ、思い切ってバッサリやっちゃおうかな?」
(えっ。)
後ろで聞いていて、私は驚いた。
長い髪は唯一の自慢。前に彼女はそう言っていた。
なのに、こんなに簡単に心変わりするなんて。
まあ、でも……。こんな美人に「短いのも似合いそう」と言われたら、老若男女誰でもその気になってしまうかもしれない。
「本当に?嬉しいわ。ふふふっ、土曜日が楽しみね。」
優雅に笑いながら、真冬さんが言った。
心春が髪を切るのは、土曜日らしい。
つまり、見たかった映画の最終日だ。私が心春を誘おうとしていた日だ。
じゃあ、だめじゃない。誘えないじゃない。
というわけで。
こうして私の様子見作戦は、あっさり破綻した。誘う前からご破算になった。
認めたくないけれど、少しホッとしている自分がいた。




