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「ありがとう……。私ね、英子が友達で、すごく嬉しい。」
一言一言、目を見つめながら、はっきりと言う。思いを込めて。感謝の気持ちを込めて。
すると一拍置いて、彼女の瞳がじんわりと潤みだした。
今度は部活のときみたいには耐えられず、涙の筋がすうっと頬を伝った。
「ねえ、ちょっと……。なんで今度はあんたが泣くのよ?」
「し、し、知らねえよ、自分でもわかんねえよ、あーくそっ、なんだこれ……!」
英子が私の手を振り払うようにし、服の袖で顔をごしごしと拭った。
だけどこの涙は正直、そんなに意外でもなかった。彼女がわりと涙もろいことは、もうわかっていたからだ。ありがとうって伝えたら、英子は泣いちゃうかもしれない。そんな予感はしていた。
それでも、友達が私の言葉で泣いてくれるというのは、胸に迫ってくるものがあった。
私はまたハンカチを取り出した。畳み直して、濡れていない面を表にした。
「袖なんかじゃだめよ。ほら、手ぇどけて……。」
「ん……。」
英子は言われた通りに素直に腕を下ろし、顔をこちらに差し向けた。
(あ……。)
泣いている彼女を間近で見て、私はドキッとした。
普段はちょっと怖い英子の顔が、涙で濡れた今、艶めかしいものに変わっていたからだ。
瞳は熱っぽく潤み、肌は上気し、ボウッとした表情になっていた。それはまるで、(実際に見たことはないけれど)情事の後みたいだった。
私はドキドキがばれないように注意しながら、ゆっくりゆっくり、彼女の目元や頬をハンカチで拭いた。
だけど途中で、そうか、ばれてもいいんだと思い直した。
「……英子の泣き顔、かわいいね。」
思い切って、私は言った。
「よ、欲情、しちゃうかも……。」
言った瞬間、パッと顔を背けた。さすがに直視し続けてはいられなかった。
ハンカチをぎゅっと握りしめ、その手を下ろす。
無言の間が出来た。
私も、そして英子も、黙り込んでしまった。
やっぱり困らせてしまっただろうか。言うべきではなかっただろうか。
「ち、直接言うのは、さすがに違うわよね?ごめんね、あはは……。」
横を向いたまま、ごまかし笑いをする。
英子は黙ったままだ。何も言ってくれない。
静寂。
近くで顔を背けているせいで、彼女の息遣いが耳元で聞こえる。その吐息に、私はまたしょうこりもなく興奮してしまう。
「……いいよ、友香。」
不意に、ささやくように、英子が言った。
恋人に甘えるような、煽情的な声。泣いているせいだろうか。そのぞくぞくする声音に、私の身体の奥がジンと熱くなる。
「もっともっと、いっぱい欲情してよ。あたしの顔や体で、いやらしいこと考えてよ……。姫川じゃなく、あたしでさ……。」
その日の夜、私はベッドの中で、英子のことを思った。かわいい泣き顔や、滑らかな手の感触を思った。
何度も何度も、英子のことを思った。




