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「……あのさ。あたし思うんだけどよ。」

 私の代わりに、英子が話し始めた。

 さっきとは違う、落ち着いた声音。

 私の感情を荒立てないように、気を使っているようだった。

「口にしない方がいい想いっての、確かに場合によっちゃ、あるかもしんねえよ。そりゃ、性欲向けられたらしんどいって人もいるだろうしさ。それはしょうがねーよ。」

「うん、だ、だから……。」

「けどよ。だからって何も、てめーの気持ちをてめーで卑下するこたあねーだろ?ダチだからってさ、好きになったら下心ありで見ちまうのは普通だし、それが恋ってもんじゃねーの?その気持ちを、自分で汚いなんて言わないでくれよ。な?」

 慰めるような、さとすような英子の口調。その言葉の奥に、何か、強い気持ちがあるのを感じた。

 思わず私はハンカチを顔から取った。

 裸眼と涙でぼやけた視界に、英子のつらそうな顔が映った。

 ああ、そうか。

 そういえば彼女はさっき、真冬さんを見て妄想をしている、と言った。

 つまり……。

 私は自分自身を卑下しているつもりだったけど、結果的に英子も侮辱することになっていたのか。自分の感情に手いっぱいで気付かなかった。やっぱりバカだ、私は。

「そっか、そうだよね。私、英子のことも否定しちゃってたよね。ごめん……。」

 そう謝ると、英子は大きく首を横に振った。まるで見当違いな謝罪だと言うように。

「いや、そうじゃねーっつうか、別に責めてるわけじゃなくてよ……。そういう気持ちが許される場合もあるって、それを許す女もいるって、そう伝えたかったっつーか……。」

「……?」

「ああもう、なんでわかんねーかなぁ?だからあたしが言いたいのは、つまりさぁ……!あたしはさっきお前にエロい目で見られても、全然嫌じゃなかったってこと!だから元気出せよ!」

「……えっ?」

 信じられない言葉が、彼女の口から飛び出した。

 耳を疑った。

 そんな都合のいい話があるのか、聞き間違いじゃないか、そう思った。

 でも考えてみれば英子は確かに、私が胸元を見てしまった後も態度を変えなかった。私のために怒ったり、心配したりと、優しい彼女のままだった。じゃあ。じゃあ。

「い、いいの……?ほんとに……?ほんとに嫌じゃない……?」

「当たり前じゃんかよ。相手が友香だったら、嫌どころじゃねえよ。むしろ……まあとにかく、あたしのこと、たくさんやらしい目で見ていいからさ。」

「と、友達なのに……?」

「友達でも。つーか、親友な。」

 そう言って、英子が笑った。

 そうか、そうなんだ。いいんだ。英子は大丈夫なんだ。私が友達にこっそり欲情する女でも、友達でいてくれるんだ。

 彼女は真冬さんに対して同じような感じだから、それできっと、私を許してくれるのだろう。共感してくれるのだろう。そう私は理解した。

 だから、よかった。

 英子が私とおんなじでよかった。女の子が好きな女の子でよかった。英子が真冬さんを好きでよかった。

 淀んでいた暗い心のもやが晴れてゆく。ようやく涙が止まり、私はハンカチをしまった。

 自分の根本的な部分を、受け入れてくれる人がいる。それがこんなに嬉しいことだなんて思わなかった。

 抱きしめたい。

 英子を抱きしめたい。そう思った。

「お前さ、自分のこと欲望まみれだなんて言うけど、逆に禁欲的じゃねーのって気ぃするよ。自分に厳し過ぎっつーかさ。人間なんてたいがいエロい生き物なんだから、もっとゆるく考えても……えっ?」

 私は両手で、英子の手を握った。

 恋人でもないのに、抱きしめるなんてできない。その代わりだった。

 彼女の手は、滑らかで、熱かった。

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