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 その日の放課後。

 私と周野は二人で下校して、ファミレスに寄り道した。そこで、ドリンクバーの祝杯を挙げた。

 何もかも首尾よく運んだ。第一声に成功し、緊張がほぐれた周野は、試合中も「いけー」「負けるな」等のガヤを飛ばすことができた。悪目立ちすることもなく、自然とみんなの声援の中に溶け込んでいた。大成功だ。

 ドリバで各々オレンジジュースとコーラを汲んできた私達は、硬いソファーに腰を下ろした。昼休みのときの習慣で、横並びに座った。

「じゃ、ガヤ成功を祝して。」

 そう言って、私がコップを目の高さに掲げた。

「おー、祝して。」

 周野が同じようにして、乾杯をした。

「かんぱーい。」

 プラスチックのコップは、ぶつけるとカコッと間の抜けた音がした。浮かれた私達は、それだけで妙におかしくなって、体を寄せ合うようにしてクスクス笑った。

「ふふふっ……。ありがとな、戸成。あんたのおかげだよ。」

 コーラを一口飲んだあと、あらためて、という感じで周野がお礼を言った。

「別に私は、そんなたいしたあれじゃ……。うまくいったのは、あんた自身が頑張ったからでしょ?」

 手を横に振りつつ私は言った。謙遜とかじゃなく、実際そう思っていた(多少は、いいパス出せたなーといいう自負もあったけれど)。どっちにしても晴れやかな気分だった。

 私達がこんなに喜んでいるのは、他人には理解できないかもしれない。もし仮に、知らない人が周野の話を聞いたら

「ガヤが上手にできたぁー?あ、そう。だからどうしたの。それでなんかいいことあんの。」

と首をひねるかもしれない。

 でも私は、周野がいかにすごいことを成し遂げたか、十分にわかっていた。

 彼女が今日やったことは、自身の殻を打ち破る挑戦だったのだ。

 周野と友達になって数週間。

 この短いあいだに、私は彼女の隠されていた部分をいろいろと知った。

 周野英子は、つっぱっているけど、すごくナイーブな娘だった。他人がどう思っているか、他人の目に自分がどう映っているか、そういうことが気になってしまう繊細な娘だった。それなのに媚びたりするのが嫌で、自縄自縛で動けなくなってしまう……そんな不器用な少女だった。

 そんな女の子が、好きな子と仲良くなるために一歩踏み出した……それがどんなに勇気のいることだったか、私にはよくわかった。

 わかるのだ。子供の頃から、好きな子に対して一歩も踏み出せないでいる私には。

 だから私は、自分の殻を破った彼女を賞賛せずにはいられなかった。

 とはいえ、泣きそうになってたのにはさすがに驚いたけれど。ピュアにもほどがあるでしょ。私がもらい泣きしかけたのは、共感したというより、そのあまりの純情無垢さに胸打たれたからだった。

「でもまあ、どうしてもお礼をしたいっていうんなら、ここの料金おごられてあげるけど?」

「ああ、おごるおごる。そりゃそんぐらいするよ。」

 任せとけ、というように、周野が胸をどんと叩いた。普段はあんまりやらない、おどけた仕草だ。当たり前だけど、だいぶご機嫌のようだった。

「けどこれでもう、次からは普通にガヤできるわね。」

「だな。そのうちもっと親密んなって、いつか『英子さん』、なんて呼ばれたりして……。へへっ。」

 にやにやしながら、周野が新たな野望を語った。またずいぶんかわいらしい野望だな、と私は思った。

「ふーん、名前で呼んでほしいんだ?」

「ん?そりゃそーだろ。やっぱこう、『周野さん』じゃ距離を感じるっていうかよ。」

「なるほどね。」

 そういえば。

 よく考えたら私は、周野のことを名字でも名前でも呼んだことがなかった。いつも「あんた」で済ませていた。周野は何も言わないけど、ひょっとしたら、不快に感じていたのかもしれない。

 じゃあその埋め合わせも兼ねて……という思いで、私は彼女にある提案をしてみることにした。


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