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「ねえ、落ちついて考えて、心春!ひょっとしたら、その美容院で勝手に金髪とかにされちゃうかも知れないのよ?!そしたらもう、クラスでヤンキー扱いよ!」
ひじをぽりぽり掻きながら、私は言った。前に取り決めした合図だ。周野に打たせるためのトスだよ、という合図。さあどうだ。これで、「おーい、それあたしディスってんのか」とか「昭和みてーな偏見持ってんじゃねー」とか、いくらでも話に入ってこれるだろう。
どきどきしながら、私は周野を見た。
ところが彼女は、組み合わせた指をモジモジさせるばかりだった。「やっぱりいざとなったら、ちょっとなんか……。」みたいな感じで。おい。
「勝手に決めるなんて愚かな真似はしないわ。きちんと事前に心春の確認を取るわよ。当たり前でしょう?」
周野が何かしゃべる前に、真冬さんがきっぱりと断言した。それはそうでしょう。ええ、ええ、そうでしょうとも。わかってますよ。でもそれを言ったら、話終わりじゃないですか。
「いやあの、だから……。そ、そう、心春だけにペナルティがあるなんて不公平よ!心春が勝ったら、真冬さんが金髪にしてよ!」
焦りだした私は、わりと無茶なことを言い始めた。髪の話題に固執していたのだ。冷静に考えれば、ここはいったん流して、また改めて周野を割り込ませる機会を狙えばいいだけだったのに。これは、いつもの盛り上げ役からは逸脱した行為だ。
気付いたときにはもう遅く、うっすらと「今日の戸成さんちょっと変ネ」的な空気が流れ始めていた。……ような気がした。
でもまあ、いい。最終的に周野が会話に入ってくれれば、それで万事オッケーなのだ。「金髪を罰ゲーム扱いすんな」でも、「真冬さんが負けるわけねーだろ」でも、好きに入ってきてくれればいい。そう思って、ひじをボリボリボリボリ掻いた。
「なんだよ友香ー。さっきからのその、パツキンに対するこだわりはー。」
ところが心春が、第一声のツッコミを奪ってしまった。ああ。
「どうしたんだい?わが部の常識人担当の戸成くんが、今日はやけにグイグイいくじゃないか。金髪の女の子がお好きなのかな?」
更になっちゃん先輩がいらんことを言った。私の話はいいんだよ。
「でもでも、ゴールドバージョンの真冬ちゃん見てみたいかもー!」
「ねー!きっととっても素敵だよー!」
「うふふ、そうねー。だけど、まーちゃんには金より銀の方が似合うんじゃないかしら?」
「あ、それいい!きっとヴァンパイアのお姫様みたいになるよー!」
「ナイスだよママー!銀髪の真冬ちゃんぜったい見たーい!」
「いや、待った。ぼくと同じ赤いメッシュを入れて、姉妹おそろいにするってのはどうかな。」
「あなた達、勝手な注文をしないでいただけるかしら。」
話題がずれてきた。
「つーか、先輩の赤メッシュってエクステっしょ?最初会ったとき外し……あっ、やば!これ内緒のやつだったっけ?!」
「ん?いいさ別に、大したアレでもないしね。」
もっともっとずれてきた。完全に忘却していたなっちゃん先輩の秘密の件が、今更明らかになったりした。
これはだめかな。今日はもう無理かな。と思っていたところ……。
「お、おい戸成!い、いい加減にしろよお前!」
けっこうずれたタイミングで、ついに周野が会話に参入してきた。
やった、来てくれた。という嬉しさと、ほんとに大丈夫?という不安が交錯する。頑張れ周野、とにかく頑張れ。
「お、お前よ、そもそも真ふりゅしゃんが負きゃるわきゃねーだ、ろうが……。」
噛んだ。
噛みまくった。
やっちまった、という表情の周野。
私はもう、目をふさぎたい気分だった。
みんなどうか、噛んだことはスルーして。意味はだいたい通じたでしょ。「真冬さんが負けるわけない」って、そう言ったの。だからお願い、どうか……。




