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「でもいーなー、あたし達も部長のこと『お姉ちゃん』って呼びたーい!」

「ねー!」

 二来と双葉が、妙なことを言い始めた。

「なにその願望。」

「だって上原部長って、ほんとにおねーちゃーんって感じだもの!うちらが呼んじゃだめですか、部長ー?」

「いいわよー。」

 外野姉妹のなかなかな申し出を、部長があっさり受託した。部のおさとしてそれでいいのですか。

「え?!だ、だめだ!それはだめ!禁止!」

 すると、なっちゃん先輩がパズルを中断して立ち上がった。

「えー、なんでですかー?」

「なっちゃん先輩ばっかりずるいよー。」

「な、なんでって、それはほら、一応部活動としてのけじめっていうか……。」

「ごめんなさいね、二来、双葉。この人は、千秋さんを自分だけのお姉ちゃんにしたくて仕方がないの。許してあげて?」

「そっかー。」

「じゃーしょうがないねー。」

「ちょちょちょ、ばっ、ばばば馬鹿お前そんなそんなそんなこと……」

 なっちゃん先輩が軽いパニックを起こした。真冬さんに図星を突かれたらしい。

「あらあら、そうなのー?嬉しいなー。じゃあお姉ちゃんは、一生ずーっとなっちゃんだけのお姉ちゃんでいてあげるからねー?うふふー。」

「ほげはぎゃふが。」

 部長の甘やかなささやきに、なっちゃん先輩の言語中枢がバグった。興奮しすぎたのだろう。

 だけど冷静に考えたら、「ずっとお姉ちゃんでいてあげる」って、いまいち意味わかんないセリフだ。言われた本人は、まるで気にしてなさそうだけど。

「でもね、なっちゃん。それはそれとして、パズルピースから手を放しちゃだめよ?トレーニングなんだから。」

「あ、はい。ですよね……。」

 声のトーンを落とした部長の注意に、先輩はたちまち正気に戻った。よかった。

 そのあいだ、二来と双葉はひそひそ内緒話をしていた。「それすっごくいい!」「グッドアイデアだよー!」とか。もちろんパズルは続けつつ。

 なんだかこうしてみると、経験者組は本当に、無意識レベルでパズルをやっている感じだ。すごい。すごいんだけど、すごすぎて正直ちょっと引く。申し訳ないけど。

 一方心春は、やっぱり苦戦していた。話を聞いているうちに手が止まっている自分に気付き、「ああもう」と小声で苛立っていた。

「くそー、どーもだめだなー。全然ついてけないわー。」

「レフトアジャストメントが普段より甘くなっているわ、心春。ペースが遅いのはそのせいでしょう。私達に合わせようとせずに、自分のパズリングを大切になさい。」

「あっ、そうか。確かにレフトアジャストメント雑だったかも。あんがと。」

 真冬さんのアドバイスに、心春が笑顔でお礼を言う。その様子を見て、部長がうふふと微笑する。

「的確な指導ねー。まーちゃんが親切だから、なんだか部長のあたしが出る幕ないみたい?」

「ご冗談。」

「いや、けどさ。うちの妹が、こんなにビギナーにいろいろ教えるところなんて初めて見るかも。前は後輩に『教えてくださーい』とか言われても、すげなく断ってたのにさ。よっぽどお気に入りなんだな、姫川心春のこと。」

「へっ、あ、そ、そうなん?ふうん……。」

 なっちゃん先輩の言葉に、心春が唇をきゅっと噛んだ。にやけそうになっているのを我慢しているようだった。

「また姉さんは、ふざけたことを。私は別に……でもまあ、そうね。お気に入りと言えばお気に入りかしら?珍しいタイプの女の子だから、見ていて飽きないもの。毛並みの変わった猫みたいで。」

 くすくす笑いながら、真冬さんが言った。

 馬鹿にしたような口調。

 だけど、なんだろう。

 その奥に、私はなんだか、照れ隠しみたいなニュアンスがあるのを感じた。

「はー?同級生をペット扱いかよー?むかつくー。」

 真冬さんのセリフに、心春が反発してみせた。

 でも明らかに、まんざらでもない感じが見て取れた。

 なんだか、もやっとした。

「戸成さーん。手、手。」

「あ……。すみません。」

 しゃべってもいないのに手を止めた私を、部長が注意した。

「ねーねー部長ー!」

 不意に二来が、大きな声を出した。その明るい声で、私の根拠のないもやもやは消えた。どうせいつもの考え過ぎだ。

「なーにー、二来ちゃん?さっきの話の続き?」

 部長が、にこやかに応対する。

「そーです!部長のことお姉ちゃんって呼ぶのは諦めるけど、じゃあママって呼ぶのどうですかー?!」

「うちらの学校でのママになってください、ぶちょー!」

 外野姉妹が、さっきよりもうワンランク上の要求をし始めた。

 横で聞いていた私は、思わず「マジか」とつぶやいた。その声に、外野姉妹がこっちを振り向いた。

「んー?マジだよー?」

「いや……。妥協案みたいに言ってるけど、もっとヤバめの話になってない?」

「そんなことないよ、友香ちゃんのいじわるー。」

「いじわるというか……。ねえ?」

 と、周野に同意を求める。

 でも彼女は、「あー、うん……。」と、はっきりしない返事をするだけだった。なんだよもう。

「えー、ママって呼んじゃだめなんですか、部長ー?」

「いいわよー。」

「いいんだ。」

 上原部長の果てしない懐の広さに、私は圧倒されるばかりだった。勘弁してください。

「わーい!今日から上原部長はうちらのママだー!」

「やったーママ大好きー!」

 大喜びの外野姉妹は、その勢いでしゅぱぱぱっとパズルを完成させた。波に乗ったときのパズリングは真冬さん以上だ。

「うふふー。ママも、二来ちゃんと双葉ちゃんのこと大好きよー?」

「ねえあの、部長、二来、双葉。お願いだから、せめて部室の中だけのノリにしてね……。」

 ぽちぽちとパズルをはめながら、私は三人に頼んだ。もしこれを部外者に聞かれたりしたら、「なんかやべー部活だ」と誤解(?)されてしまう。

「ああもう、いくらアットホームな部だからって、限度ってものが……。てゆうかなっちゃん先輩も、これ黙認しちゃっていいんですか?副部長として、ビシッとひとこと言っていただけませんか?」

「……うらやましい!」

「また手が止まっているわよ、お姉様。」



 こうして集中力アップのトレーニングは終わった。

 で、結局、真冬さんと心春の試合はとり行われなかった。

 今日中にでも、周野の夢をかなえて見せる。調子に乗ってそう意気込んでいた私だけど、二人がその気になってくれなきゃ何も始まらないことを忘れていたのだ。

 そして一週間経っても、その機会は訪れなかった。

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