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「とは言ったものの。どうアドバイスしたものやら……。」

「コツとかねーのか?」

「うーん……。空気を読んで、場の流れに沿ったことを言う、って感じ?」

「いやだからよ、それができねーっつーか。苦手なんだよ、空気読んだ発言とかさ……。」

 周野はうつむいて、いじけるみたいに靴のつま先をみつめた。

「だって頭で思ったことと違うこと口にすんの、やなんだよ、あたし。なんかズルみてーじゃんか。で、思ったことそのまま喋るとたいがい空気悪くなっから、自然と『あんま喋んのやめとこ』ってなんだよ……。」

 なるほど、と私は思った。彼女がこれまで、教室でも部室でもあんまり口を開かない理由がわかった気がした。

 よく言えば正直者。悪く言えば不躾で不器用。そういう人なんだろう。

 私とは正反対だ。

 私は空気を読むし、和を乱さないよう努めるし、平気で心にもないことを口にする。要領がいいタイプなのだ。よく言えば調和的性格、悪く言えば偽善者。

 私は自分の性格が、あんまり好きじゃなかった。だから周野に、「私みたいにしろ」だなんて言う気にはなれなかった。

「ねえ、そんな大げさに構えなくても、普通に試合中に思ったこと言えばいいのよ。心にもないこと言えっていうんじゃなくて。真冬さんが負けそうになったら『がんばれー』とか、『負けんなー』とか。どうせ私達の応援なんて、たいしてみんな聞いちゃいないんだから。ね?気軽に気軽に。」

「うーん……。」

 私のアドバイスに、周野はしぶい表情を浮かべた。

「そうは言うけどよ。でも普段なんも喋んねーあたしがいきなり声援送ったら、『え、急に周野さんどうしたの?』みてーな目で見られたりしねーか?」

「そんなことは……んー、まあ……。」

 一理あるかも。

 彼女の危惧に対して、私はそう思った。

 特に二来と双葉が、まったく悪意なく「英子ちゃん、今日ノリノリだねー!」「なんかいいことあったのー?」とか言っちゃいそうだ。想像しただけでいたたまれない。やめてあげてお願いだから、って気分になる。

「ほら見ろよ、やっぱあたしにゃ無理なんだって……。もし真冬さんにそんな顔されたら、あたしぜってー耳まで真っ赤んなるわ……。」

「あー、もう。わかったわかった。わかったわよ。」

「あ?」

「今度試合になったら、あんたが会話に入ってきやすいように、私がいい感じのパス送ってあげる。こう、ひじを掻きながらしゃべるのが合図ね。それに応える感じでなんか言えば、きっとうまくいくと思うから。」

 ほかの人が入りやすいように会話を誘導する。心春に友達を作らせるときに、私がよくやっているやつだ。ジグソー部の会話のテンポはちょっと独特だけど、まあなんとかなるだろう。たぶん。

「マ、マジか?!え、ちょ、それお前、本気で言ってんのか?!」

 私の提案に、周野は目を丸くして驚いた。そんなことをしてもらえるなんて思いもよらなかった、という感じだ。

「なにちょっと、驚きすぎじゃないの。私そんな意外なこと言った?」

「だってよ、あたしに都合よすぎっつーか、至れり尽くせりっつーか……。そりゃ嬉しいよ、嬉しいけど、なんでそんなよくしてくれんだ?お前になんの得もねーのに?いい奴かよ?!」

「なんでって……。それはその、と、友達だからでしょ……。あんたの方から言ったんじゃない、友達になろうって。だったら、友人に親切にするのは普通でしょ。言ってて自分が恥ずかしいけど。」

「でもあたしら、ダチになってから五分くらいしか経ってねーのに……。」

「そう言われると、間抜けなおひとよし感が出ちゃうけど。」

 確かによく考えれば、「まあそのうちどうにかなるわよ」とか、適当にお茶を濁しても文句は言われない状況ではある。

 私も別にいい奴じゃないから、普通な奴だから、他人のためにがんばるのは面倒くさい。他の人だったら、たぶんこんな提案はしなかっただろう。

 きっと私は、嬉しかったのだ。

 周野英子と友達になれたのが。同じガチ百合だから仲良くしようって言われたのが。「どうしたらいいんだろう」って頼られたのが。

 だから、なんとかしてあげたかったのだ。

 そして、なんとかできると思っていた。

 そう、私は浮かれていた。

 友達になりたいと思っていた人と友達になれて。珍しく人から頼りにされて。滅多にない経験に、少し浮足立っていた。

 周野英子のささやかな夢を、今日中にでも叶えてあげられる。そんな気がしていたのだ。

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