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 髪チェックを終え、私は心春から離れた。

 チェックのあいだ、他の生徒は私達の横を素通りしていた。堂々とやっていたため、逆に誰も注目していなかった。

 まあそもそも、注目を浴びるような仕草でもないし。私的にはエロティックな行為だったけど、はた目には、髪をちょんとつまんで数秒顔に近付けていただけだ。

 やりすぎてバレちゃいけないと、いつも色々気を付けていた。心春が好きだということは、今まで誰にも悟られていなかった。

 私の片想いを知っているのは、この世で私だけだった。

「ん、つーかやば。クラス分け見にいかなきゃじゃん。」

「ああ……そう、そうね。」

 まだ少し恍惚となったまま、私は生返事をした。

「掲示板あっちみたいだよ。行こ行こ。」

「あ……。」

 私の手を取って、心春が走り出した。

「ま、またおんなじクラスになってるといいわね、高校でも。」

 手を握られてドキッとした、そのことを気付かれないように、私は普通のことを言った。

「大丈夫大丈夫。あたしと友香は、絶対一緒になるって予感がすんだよねー。五千円賭けてもいーよ?当たったら友香があたしに五千円ねー?」

「ふふっ。なによそれ、もう……。五千円も払うわけないでしょ。ていうか、微妙に金額設定が生々しいんだけど?」

「あー、じゃー、三千円でいいよ。」

「え、冗談、なのよね……?」

 クラス分け表を見てひやりとしたけど、結局冗談だった。

 つまり、高校最初の一年も、私は心春と一緒ということが確定した。今までと同じように。


 入学式は、何事もなく終わった。

 クラスのホームルームや自己紹介も、特にハプニングは起きず、平凡に終わった。教室が少しざわめいた娘が一人いたが、その娘とは特に関わりなく終わった。


 放課後。

 私と心春は一緒に下校し、まだ見慣れない帰り道を歩いた。

「心春、最初のホームルームからいきなり居眠りしてたわね。さすがにどうかと思うわよ。」

「いやー、違くてさー。鼻ズビズビすっから鼻炎薬飲んだら、めっちゃ眠たくなってさー。最悪だよ。入学初日から鼻水たらすなんて!って思って薬に頼ったけど、裏目に出ちゃったわー。」

「あんた自己紹介のときも、自分の番以外はうつらうつらしてたもんね。クラスメイトの顔、全然把握してないんじゃない?」

「そーなんよ。こんなことならむしろさー、鼻水たれ流しキャラとして高校デビューした方がよっぽど……ありゃっ?」

「ん?」

 不意に心春が、ポケットに手をやって声を上げた。そして

「しまったー、小銭入れどっかに落としてもうた。どっかっつーか学校だよ。やってもーた。」

 と言って、深いため息をついた。

「あらら。入学早々ついてないわね。じゃあ戻る?」

「うん、たぶん体育館横のトイレんとこだよ。戻ってちょいと探してみるよ……あ、いーよいーよ、友香は先帰ってて。」

「そう?」

 踵を返しかけた私を、心春が手で制した。

 私は頷き、お言葉に甘えることにした。好きな子のピンチという状況だけど、床に落ちた物を探すというのは正直ダルい。できればやりたくなかった。

「じゃあ先に行くけど……。あ、そこになかったら、先生に落とし物で届けられてないか聞きなさいよね。」

「わかってらー。じゃねー。」

 そうして私は、一人で下校した。

 だけど……。

 十分ほど歩いたところで、突然胸騒ぎがした。


 心春を学校に一人残してきたのは、とんでもないミステイクだったのではないか?


 そんな気が不意にしたのだ。

 理由も根拠もない。虫の知らせとしかいいようがない。

 私は来た道を戻り、学校に走った。

 ばかばかしい。根拠のない不安のために無駄足を踏もうだなんて、心配性すぎる。そう思いながらも、止められなかった。

 まあシンプルに、「やっぱり一人で落とし物を探させるのは気が咎める」という気持ちもあったけれど。

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