4
髪チェックを終え、私は心春から離れた。
チェックのあいだ、他の生徒は私達の横を素通りしていた。堂々とやっていたため、逆に誰も注目していなかった。
まあそもそも、注目を浴びるような仕草でもないし。私的にはエロティックな行為だったけど、はた目には、髪をちょんとつまんで数秒顔に近付けていただけだ。
やりすぎてバレちゃいけないと、いつも色々気を付けていた。心春が好きだということは、今まで誰にも悟られていなかった。
私の片想いを知っているのは、この世で私だけだった。
「ん、つーかやば。クラス分け見にいかなきゃじゃん。」
「ああ……そう、そうね。」
まだ少し恍惚となったまま、私は生返事をした。
「掲示板あっちみたいだよ。行こ行こ。」
「あ……。」
私の手を取って、心春が走り出した。
「ま、またおんなじクラスになってるといいわね、高校でも。」
手を握られてドキッとした、そのことを気付かれないように、私は普通のことを言った。
「大丈夫大丈夫。あたしと友香は、絶対一緒になるって予感がすんだよねー。五千円賭けてもいーよ?当たったら友香があたしに五千円ねー?」
「ふふっ。なによそれ、もう……。五千円も払うわけないでしょ。ていうか、微妙に金額設定が生々しいんだけど?」
「あー、じゃー、三千円でいいよ。」
「え、冗談、なのよね……?」
クラス分け表を見てひやりとしたけど、結局冗談だった。
つまり、高校最初の一年も、私は心春と一緒ということが確定した。今までと同じように。
入学式は、何事もなく終わった。
クラスのホームルームや自己紹介も、特にハプニングは起きず、平凡に終わった。教室が少しざわめいた娘が一人いたが、その娘とは特に関わりなく終わった。
放課後。
私と心春は一緒に下校し、まだ見慣れない帰り道を歩いた。
「心春、最初のホームルームからいきなり居眠りしてたわね。さすがにどうかと思うわよ。」
「いやー、違くてさー。鼻ズビズビすっから鼻炎薬飲んだら、めっちゃ眠たくなってさー。最悪だよ。入学初日から鼻水たらすなんて!って思って薬に頼ったけど、裏目に出ちゃったわー。」
「あんた自己紹介のときも、自分の番以外はうつらうつらしてたもんね。クラスメイトの顔、全然把握してないんじゃない?」
「そーなんよ。こんなことならむしろさー、鼻水たれ流しキャラとして高校デビューした方がよっぽど……ありゃっ?」
「ん?」
不意に心春が、ポケットに手をやって声を上げた。そして
「しまったー、小銭入れどっかに落としてもうた。どっかっつーか学校だよ。やってもーた。」
と言って、深いため息をついた。
「あらら。入学早々ついてないわね。じゃあ戻る?」
「うん、たぶん体育館横のトイレんとこだよ。戻ってちょいと探してみるよ……あ、いーよいーよ、友香は先帰ってて。」
「そう?」
踵を返しかけた私を、心春が手で制した。
私は頷き、お言葉に甘えることにした。好きな子のピンチという状況だけど、床に落ちた物を探すというのは正直ダルい。できればやりたくなかった。
「じゃあ先に行くけど……。あ、そこになかったら、先生に落とし物で届けられてないか聞きなさいよね。」
「わかってらー。じゃねー。」
そうして私は、一人で下校した。
だけど……。
十分ほど歩いたところで、突然胸騒ぎがした。
心春を学校に一人残してきたのは、とんでもないミステイクだったのではないか?
そんな気が不意にしたのだ。
理由も根拠もない。虫の知らせとしかいいようがない。
私は来た道を戻り、学校に走った。
ばかばかしい。根拠のない不安のために無駄足を踏もうだなんて、心配性すぎる。そう思いながらも、止められなかった。
まあシンプルに、「やっぱり一人で落とし物を探させるのは気が咎める」という気持ちもあったけれど。




