35
校門前で、いったんみんな足を止めた。
ここで私達は二手に分かれる。周野と外野姉妹は、私達と逆方向の帰り道なのだ。
口々に、またねーとかバイバイとか声をかけあう。三人と親しい真冬さんが、きちんと足を止めて挨拶する。
「二来、双葉、それじゃあごきんげんよう。……そういえば今日は、叔母様が家にいらっしゃる日じゃなかった?違ったかしら?」
「あ、そうだったー!忘れてた!」
「大変、走って帰ろーよ双葉!」
「うん!みんなまたねー!」
外野姉妹が、ばたばたと大慌てで駆け出していった。
「ちょっと、車に気を付けるのよ。やれやれ、困った子達ね。ふふっ。……ああ、周野さんもまた明日ね。」
「ん、ああ……、じゃあ……。」
チラチラと憧れの人の顔をうかがいながら、周野がもごもごと挨拶らしきものを言う。
「あっ。ちょ、ちょっと待った……。」
と、不意に周野が、真冬さんの髪に向かって手を伸ばした。
見ると、真冬さんの耳の後ろあたりに、花びらが一枚くっついていた。周野はそれを取ってあげようと思ったようだ。
けれど、真冬さんはわかっていないみたいだった。少し怪訝な表情になった。
「……周野さん?」
澄んだ瞳が、まっすぐ彼女の顔に向けられた。
そのまなざしを受けて、周野の手が、一瞬だけ静止した。ひるんだように。怖がるみたいに。
でも勇気を振り絞るように、再びゆっくりと手を伸ばし、栗色の美しい髪に触れた。
周野の細長い指先が、可憐な花びらを摘まんだ。
「こ、これ、ついてたからさ、ほら……。」
たどたどしく、周野が言う。
「あら、ちっとも気が付かなかったわ。ありがとう。」
軽くお礼を言い、真冬さんは髪を優雅にかき上げて微笑した。
「お礼にその花びらは、あなたに差し上げるわ。大切にしてね、なんて。ふふっ。」
「あ、ど、ども……。」
憧れの人のジョークに、周野はギクシャクした変なリアクションを返した。
真冬さんは一瞬、困ったように笑った。それから上品にひらひら手を振って、彼女にくるりと背中を向けた。
上原部長、八王子姉妹、心春。四人がまた雑談を始めながら、かしましく歩いていく。その個性際立ったグループの後ろを、遅れないようにひっついていく。
私はなんとなく周野が気になって、後ろを振り返った。
彼女は……手のひらに残った花びらを、じっとみつめていた。
みつめながら、静かに独りたたずんでいた。
そして……。
桃色の小さな花弁を、両手で包み込むように握りしめた。壊れやすい大切な宝物みたいに、そっと、優しく。
ああ、そうか。そうなんだ。
そのとき、鈍い私もようやく気付いた。周野英子の「好き」は、私と一緒の……。
不意に、彼女が顔を上げた。
視線が合った。
涙ぐんでいるように見えた。でも、気のせいかもしれない。
「……。」
周野は、気付いたみたいだった。私が気付いたことに気付いたみたいだった。
周野英子は、八王子真冬に片想いしている。
彼女を見て私はそのことに気付き、そんな私を見て周野も、私が気付いたことを察した。
じゃあ私は、今どんな顔をしていたのだろう。
友達にずっと片想いしている私は、いったいどんな顔をして、今の光景を眺めていたのだろう。




