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 校門前で、いったんみんな足を止めた。

 ここで私達は二手に分かれる。周野と外野姉妹は、私達と逆方向の帰り道なのだ。

 口々に、またねーとかバイバイとか声をかけあう。三人と親しい真冬さんが、きちんと足を止めて挨拶する。

「二来、双葉、それじゃあごきんげんよう。……そういえば今日は、叔母様が家にいらっしゃる日じゃなかった?違ったかしら?」

「あ、そうだったー!忘れてた!」

「大変、走って帰ろーよ双葉!」

「うん!みんなまたねー!」

 外野姉妹が、ばたばたと大慌てで駆け出していった。

「ちょっと、車に気を付けるのよ。やれやれ、困った子達ね。ふふっ。……ああ、周野さんもまた明日ね。」

「ん、ああ……、じゃあ……。」

 チラチラと憧れの人の顔をうかがいながら、周野がもごもごと挨拶らしきものを言う。

「あっ。ちょ、ちょっと待った……。」

 と、不意に周野が、真冬さんの髪に向かって手を伸ばした。

 見ると、真冬さんの耳の後ろあたりに、花びらが一枚くっついていた。周野はそれを取ってあげようと思ったようだ。

 けれど、真冬さんはわかっていないみたいだった。少し怪訝な表情になった。

「……周野さん?」

 澄んだ瞳が、まっすぐ彼女の顔に向けられた。

 そのまなざしを受けて、周野の手が、一瞬だけ静止した。ひるんだように。怖がるみたいに。

 でも勇気を振り絞るように、再びゆっくりと手を伸ばし、栗色の美しい髪に触れた。

 周野の細長い指先が、可憐な花びらを摘まんだ。

「こ、これ、ついてたからさ、ほら……。」

 たどたどしく、周野が言う。

「あら、ちっとも気が付かなかったわ。ありがとう。」

 軽くお礼を言い、真冬さんは髪を優雅にかき上げて微笑した。

「お礼にその花びらは、あなたに差し上げるわ。大切にしてね、なんて。ふふっ。」

「あ、ど、ども……。」

 憧れの人のジョークに、周野はギクシャクした変なリアクションを返した。

 真冬さんは一瞬、困ったように笑った。それから上品にひらひら手を振って、彼女にくるりと背中を向けた。

 上原部長、八王子姉妹、心春。四人がまた雑談を始めながら、かしましく歩いていく。その個性際立ったグループの後ろを、遅れないようにひっついていく。

 私はなんとなく周野が気になって、後ろを振り返った。

 彼女は……手のひらに残った花びらを、じっとみつめていた。

 みつめながら、静かに独りたたずんでいた。

 そして……。

 桃色の小さな花弁を、両手で包み込むように握りしめた。壊れやすい大切な宝物みたいに、そっと、優しく。


 ああ、そうか。そうなんだ。


 そのとき、鈍い私もようやく気付いた。周野英子の「好き」は、私と一緒の……。

 不意に、彼女が顔を上げた。

 視線が合った。

 涙ぐんでいるように見えた。でも、気のせいかもしれない。

「……。」

 周野は、気付いたみたいだった。私が気付いたことに気付いたみたいだった。


 周野英子は、八王子真冬に片想いしている。


 彼女を見て私はそのことに気付き、そんな私を見て周野も、私が気付いたことを察した。

 じゃあ私は、今どんな顔をしていたのだろう。

 友達にずっと片想いしている私は、いったいどんな顔をして、今の光景を眺めていたのだろう。

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