30
部活の時間になった。
部室では、部長と副部長が練習試合をやっていた。
「秘技!Xフィンガーピースピック!更にフォール&プッシュ!これでフィニッシュさっ!」
「あらあら、なっちゃんすごいわねー。部活に来ないあいだも、一人でこっそり練習してたのね?お姉ちゃん嬉しいわー。」
「たはっ……!え、今の技すごい?くふふっ、いや別に、ふつーだと思うけどなぁー?ぼく練習とかしなくても、なんか自然にやれちゃうんだよナー?くふ、うふふ……。」
「確かに少しもすごくないわね。完全に負けているわけだし。いくらブランクがあるからって、五分も差をつけられるなんてね。妹として恥ずかしいわ。」
「うぐっ……。」
「なっちゃん先輩、どんまーい!」
「ひさしぶりの試合でそこまでできたんだから、なっちゃん先輩全然すごいよー!」
「そーそー。たいしたもんだよ、なっちゃんは。」
「うるさい!ていうか、なっちゃん言うな!せめて『先輩』を付けろ、姫川心春!言っておくけれど、まだ君よりぼくの方が速いからな!」
「お?それって、次はあたしとお手合わせしてくれるってことっすか?」
「は?別にそういうつもりじゃ……けどまあいいさ、やってあげるよ!先輩との実力差を思い知るがいいさ!」
「よしゃ!実は前々からなっちゃん……じゃなかった、なっちゃん先輩に、いっぺん稽古つけてほしかったんだよなー!おねしゃーす!」
できる側のチームはいつも通り、にぎやかで向上心に満ち溢れていた。
でもその日は私も、モチベーションでは負けていなかった。いつになくやる気になっていた。真面目に練習する気になっていた。
自主トレ用の絵なしジグソーを何度もやり、少し暇があれば教習本をむさぼるように読んだ。
「……どうしたんだよ、急に。」
声をかけられ、教習本から顔を上げた。
私と同じ、できない側チームの周野英子。彼女が驚いた顔をしていた。模擬戦で私が心春に声援を送るとき以外は、いつも二人ではじの方に机を並べ、だらだら自習をしていたのだ。
けっして仲良くなったわけじゃない。実力もモチベーションも低い者同士、自然と二人で固まるようになったのである。
そんな落ちこぼれ組の片割れが急に張り切りだしたのだから、それはまあ驚きもするだろう。




