28
四月の終わり。
少し春の遅い私の町で、ようやく桜が散り始めていた。
私達は全員、ジグソー部に入った。すねたようにしていた周野英子も含めて。
初日は逃げ出したなっちゃん先輩こと八王子夏生副部長も、部室に顔を見せるようになった。「千春さんと部活できるのは今年が最後」と、妹に説得されたらしかった。少し不安だったけど、でもやっぱり、心春との仲は深まりそうにない感じだった。心配は杞憂に終わりそうな気配がした。
ちなみにジグソー部の顧問は、鬼山先生という、やけに厳しいことで有名な女性教諭だ。真冬さん目当てのナンパ男とかが入部してこなかったのは、たぶん彼女のおかげなのだろう。でも他のクラブも兼任していて、めったに部室に現れなかった。そのためだいぶ自由で気楽だった。
何も問題ない高校生活。……のはずだった。
でも私は、近ごろ少し憂鬱だった。
あんなに楽しみにしていた朝の時間。心春との登校時間。それが、あんまり楽しく感じられなくなってきたのだ。
はっきり言えば、息苦しかった。心春と二人っきりの時間が。
「……んでさー、パズリングの基本はフレームメイキングだって、部長言うんだよねー。いや、わかるよ?わかるけどさー、あくまで基本じゃん。律儀に守る必要ある?ってあたし思うわけよ。友香もそう思わん?」
「……まあ、うん。どうかな。」
「そりゃ実際、フレームメイキングの特訓したら、ジャストピクチャの時間は短縮したよ?でも、ゆーて一、二秒じゃん。だったらさー、あたしの得意なストレートツリーの練習した方が有意義なんじゃないのーって。それか、まだマスターしてないファイブフィンガーのピスピクとかさー。ねー、あたし間違ってるかなー?」
「さあ……。私初心者だから、ちょっとわかんないかな……。」
入部してからというもの、心春はずっとこんな感じだった。
あっという間に彼女は、競技ジグソーに夢中になっていった。居残り特訓はもちろんのこと、トレーニング用パズルを借りて、家で自主トレまでしているらしかった。口を開けばそのことばかりになった。
私は正直、ついていけなかった。
部室内ではどうにか、空気を壊さないよう会話に加わっていた。でも依然として、競技ジグソーに対する興味も熱意もまるで持てなかった。
心春への執着、友達としての義務感。それだけのために部活をやっていた。
だから、学校以外のところで競技ジグソーの話を聞くのはウンザリだった。もはや苦痛だった。ジグソーの話題に比べたら、忍者の話の方がまだ興味を持てた。
でも何より辛いのは、心春が私と話しているとき、物足りなさそうな顔をすることだった。
それはそうだろう。無理もない。競技ジグソーに無知な私ときたら、気の抜けた当たり障りのない返答しかできないのだから。
だったらじゃあ、完璧な受け答えができるようになればいい。競技ジグソーについて勉強すればいい。そうは思うのだけど、実行には移せなかった。面倒でしょうがなかった。ジグソーパズルなんて、見るのも嫌になっていた。
……ていうか友達なんだから、私が興味ないことに気付いてよ。もっと別な話してよ。
そんな勝手なことを思うようになっていた。最初に興味あるよう装ったのは私なのに。




