26
私の知らない心春が、そこにいた。
きれいだった。
純白のブラウスと、紺色のプリーツスカートを着た心春は、まるで年上のお姉さんのように見えた。
幼稚園の頃から一緒だったから、私の中で彼女はずっと、ちんちくりんな子供のまんまのイメージだった。だらしなくて、ズボラで、でも腕っぷしは強くて、男子とケンカしても負けない腕白なお子様。
でも実際は違った。
心春はもう、「女の子」から「女性」の体格へと変わり始めていた。そのことを、私は初めて理解した。セーラー服を身にまとった彼女を見て。
心春は発育のいい方で、この頃からもう背は高く、手足はすらりと長く成長していた。稽古で引き締まった身体は、健康的で美しいボディラインを形作っていた。
「ど、どっすかね……。」
頬をほんのりと赤く染めて、心春が自信なさげに言った。おでこに垂れた前髪を、せわしなくいじっていた。ずっとショートヘアだった彼女が、髪を伸ばし始めていることに、このときやっと気が付いた。ぐっと大人びた印象は、どうやらそのせいでもあった。
「いい。すごく。」
反射的に答えた。
それ以上言えなかった。
沢山褒めてあげよう。さっきはそう思ったのに、何も言葉が出てこなかった。胸の中に渦巻いている感情を、うまく言葉にできなかった。
今までに経験したことがない気持ちだった。きゅっと心臓を締めつけられるような、切ない感情。そして、体の奥に火がついたような、衝動的な感情。その二つが入り混じり、とぐろを巻いていた。
その気持ちを口にするのはなぜかはばかられた。これはきっと、「友達」に伝えてはいけない気持ちだ。そんな予感が、すでにうっすらとあった。
だから、「いい。」としか言えなかった。
でも、私のそんなつまらない誉め言葉でも、心春は「そっかー」と喜んだ。にこっと白い歯を見せて笑った。
「うん、本当いい……。違う人みたい、いい……。」
「ははっ、どもども……。て、照れちゃうなぁ、なんか……。」
更に「いい」を連発すると、心春は耳まで真っ赤にしてうつむいた。初めて見る表情だった。
私はそんな彼女の顔に、ぽうっと見惚れた。体の奥にともった火が、更に燃え上がった気がした。なんだか熱かった。微熱があるような感覚だった。
「てか、久しぶりに履いたらさ、やっぱ慣れないっつーか、下すーすーすんね……。」
恥じらいながら、心春がたわむれに、スカートの両脇のすそをつまんだ。
そして、上の方へと持ち上げた。
特に意味のない、手遊びみたいな動作。だったのだろう、きっと。彼女にとっては。
だけどそれは、その仕草は、私の運命を決定的に変えてしまった。
まくれあがったスカートの襞からのぞいた、白い太もも。
それを見た瞬間……。
火のついたような気持ちが、あっという間に私の全身を支配した。
締めつけられるような切ない気持ちは、どこかに押し込められてしまった。ただただ、熱い衝動が私の中で脈打っていた。
欲望。
その衝動の名が欲望だということに、私は気付いた。
気付いてもなお、押しとどめられなかった。
ほとんど無意識に、手を差し伸ばしていた。
心春に向かって。無二の親友に向かって。
そして……私の右手が、そっと彼女の肩に触れた。
温かかった。
真新しいセーラー服越しに、彼女の体温が伝わってきた。
呼吸が荒くなっていくのが、自分でもわかった。
「んー、なに?ゴミ付いてたん?」
心春が、小首を傾げて聞いた。
全くいつもと変わらない調子で。
何もわかっていない、純真無垢な瞳で。
押し倒したい。押し倒して制服をはぎ取り、むちゃくちゃにしたい。そんな私の薄汚い欲望なんて、まるで知らずに。
いけない!
弾かれたように、私は手を放した。
「……あっ、私帰んなきゃ!あの、その、に、二時に帰ってこいって、お母さんが!」
「え、マジで?もう過ぎてんじゃん。」
「うんだから帰る、じゃあね!ごめん、ごめんね!ごめんなさい!」
「あ、うん。気ぃつけてねー?」
私は脱いだ服をかき集めて、転がるように階段を降り、靴を乱暴につっかけて逃げ出した。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。何度も声に出さず謝りながら。
それが私の初恋で、それが私の……性の目覚めだった。




