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どうにか空気を壊さず、会話に参加することができたかな。場を盛り上げることができたかな。
そう安堵した私は、戦い終えて盛り上がっている輪から静かに抜け出した。そしてカバンからペットボトルを取り出した。
心春が、新たな物語に身を投じようとしている。熱く激しく、変てこりんな物語の中に。そのことを、私は感じ取っていた。
ま、いいか。と私は思った。
部活に夢中になってくれれば、恋からもおのずと遠ざかるだろう。私が隣にいれる時間も、自動的に延長されるというわけだ。そんなみじめで姑息な算段を、心の中でこっそりつけていた。
「……ところであなた達。人の動きに、勝手な技名をつけないでくれる?」
「えー、エンゼルハイロウ、だめー?可憐なまーちゃんにぴったりって思ったんだけどなー。」
「うんうん!真冬ちゃん天使様みたいだもんねー!」
「やーでも、あたしゃ拒否る真冬の気持ち、わかんなくもないかなー?天使ってなんか弱そうじゃんか。どうせ自分の技に名前つけるなら、強そーなのがいいよ。『超絶悶絶地獄グルマ』とかさ。なー?」
「何もわかっていないのね、あなた。」
戦い終えた真冬さん達は、なごやかにわいわい雑談をしていた。
「……ジグソーバトルって。パズリングって。なんなんだよ……。」
壁にもたれている周野英子が、ぼそぼそと小声で言った。
とてもノリについていけない。
そんな感情が見て取れた。気持ちはよくわかるけど、だからって共感を示す必要もない。私は無視してペットボトルのふたを開けた。
「……なあ。戸成っつったっけ、あんた。」
「は?」
「あんたがあんな、ノリノリで参加するとは思わなかったぜ。絶対興味ないくせに。部長が手本やってるとき、つまんなそうに見てたくせに。切り替えすげーのな。」
不意に、周野英子が嫌味を言ってきた。
なるほど。きっと彼女は、疎外感を覚えているのだろう。一人だけ仲間外れにされている気分になったのだろう。だからこんな口の利き方をする。
それはわかっていた。わかっていたけどでも、からまれてスルーできるほど私も大人じゃなかった。
「興味ないからこそ、よ。大事な友達と一緒にいるために、この場にいるために、せめて空気は壊さないようにしようって。そういうこと。あなたも真冬さんの子分なら、少しは喝采とか送るべきだったんじゃないの?」
挑発するように言って、水を一口飲んだ。
子分扱いされて、きっと怒るだろう。そう思ったけど、意外にも彼女は「痛いところを突かれた」みたいな表情になった。
「……あたしには、あんな真似できねーよ。」
私の言い分を認めたのか、悔しそうにつぶやいた。自分が子分みたいな振る舞いをしている、という自覚があるらしい。
「そりゃあたしだって、確かに真冬さんのことは好きだけど、けどよ……。」
「知らないわよ、そんなこと。」
わざと冷たく言い放ち、ペットボトルをカバンに戻した。そして私は輪の中へ戻っていった。
少しイライラしていた。周野英子に対して。
言い訳ばかりしてやろうとしないから、じゃない。確かに人間誰だって、得意不得意はある。どうしても無理なら仕方ない。
私が腹を立てたのは、簡単に友達のことを「好き」だなんて言ったからだ。
私は、言えなかった。
うらやましかった。




