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なっちゃん先輩を取り逃がした部長が戻ってきて、ようやく部の活動が始まった。
私も心春も、競技ジグソーを生で見るのは初めてだった。なので、まずは部長がお手本を見せてくれた。
高速でパズルが組みあがっていくその様は、確かにすごかった。すごかったけど、「素早くパズルを完成させて、だからどうだっていうのですか」という印象はぬぐえなかった。
お手本で興味が湧かなかったのは、でも、私の話だ。
心春は意外にも、「あんな小さな紙屑みたいなのが、アッと言う間に美しい絵になっていく!魔法じゃん?!」とひどく感銘を受けていた。
ちなみに周野英子も、なんだかつまらなそうにしていた。彼女も私同様、ただ友達にくっついてきただけのようだった。
それから、初心者のための個別指導が始まった。
経験者は真冬さんだけじゃなく、外野姉妹もだった。真冬さんのとりまきなのに、周野だけは初心者だった。私には部長、心春には真冬さん、周野には外野姉妹がついて、いろいろ教えてくれた。
そのとき、事件が起きた。
「と、まあ、基本は概ねこんなところかしら。ところで心春さん、あなたパズル全般は得意な方?」
「んー?まー、得意っちゃ得意かなー?」
「あらそう。少し意外ね。」
「いやー、パズルなんて全然やったことないけどさー。あたしサブミッション得意だからさー。」
「……は?」
「じーちゃんが昔言ってたんよ。『関節技はパズルのようなもの』ってさ。なんでまー、パズルは得意って言っても過言じゃないっしょー。だから競技ジグソーも、ちょっとあたしに向いてんじゃないのーって気ぃするんだよねー?驚異の新人になっちゃいそうな予感?知らんけど。」
「……。」
悪意のない、心春の無邪気なひとこと。
なのだけれど、真冬さんにはそうは聞こえなかったみたいだった。パズルをなめ腐った煽り発言と言うふうに聞こえたみたいだった。余裕たっぷりだった顔が、みるみる険しくなっていった。
バン!
と、真冬さんが机を手のひらで叩いた。
「ふざけないでいただけるかしら……野蛮な喧嘩と、最先端知的スポーツである競技ジグソーを一緒にするだなんて!侮辱もはなはだしいわ!」
怒ってもなお美しい顔で、真冬さんが声を荒げた。お姉ちゃんを悪く言われても平気だったのに、競技ジグソーに関しては沸点が低くなるようだった。
心春はポカーンとしていた。悪意がなかったので、何が気にさわったのか気付いていないのだろう。
「謝りなさい。」
そんな心春に、真冬さんが冷たい口調で命じた。
「は?」
「謝りなさい、と言ったの。さっきの発言を取り消して、競技ジグソーに謝罪なさい!」
「はいー?やーだよ、謝れだなんて、なに急に。変なの。」
「変なのはあなたでしょう?そもそも……」
「はーい、まーちゃんストーップ。落ち着いてー。」
部長が、二人の間に割って入った。
「千秋さん、けれど……!あなたはいいの?私達の愛する競技ジグソーをコケにされたというのに!」
「まーまーまーまー。怒りたくなる気持ちはわかるけどー。ここはひとつ、それこそ競技ジグソーで決着をつけるっていうのはどうかしらー?」
「え?」
「まーちゃんと新入りちゃんがバトルして、新入りちゃんが負けたら素直に謝罪。まーちゃんが負けたらもう何も言わない。ってことでどうかしらー?もちろん、うーんとハンデをつけて、だけど。」
部長の提案に、真冬さんがニヤリと笑った。
「なるほどね……。いいわ、私はそれで。心春さん、あなたはどう?みじめに惨敗するのが怖いのなら、逃げてもいいわよ?」
「はあ?そんなの……やったろーじゃん!」
心春が即答した。
「や、正直なんでキレてんのかよくわかんないけどさ?そんな感じで来られたら、こっちも火ぃつくっつーか、ワクワクしちゃうっつーか。まーなんにしても、姫川流実戦武術次期継承者として、挑まれた勝負から逃げるわけにゃーいかんでしょー!」
まあ、ああいう煽られ方をしたらこうなるでしょうね、とは思った。
普段のボケッとした感じとは裏腹に、心春は、緊張感ある勝負ごとが大好きなのだ。なんだかんだ言って、そういうところは武術家のはしくれって感じだった。
そんなやりとりを横で聞いて、私は……わりと引いていた。
なーんだこれ、と思っていた。
何このノリ。部活もの漫画の初回かよ。と思った。
そこで私は、こう言った。
「いけないわ、心春!こんなの一方的よ!相手は経験者で、あなたは完全に初心者、万に一つも勝てる見込みなんてないわ!」
静止しながらも、逆に場を盛り上げるようなセリフ。
私は引いていたけど、でもみんな、この部活漫画ノリにワクワクしている感じは察していた。声にしなくても、「面白くなってきた」って空気はこっちにも伝わっていた。
こういうとき、流れに逆らわないのが私だった。
ぜーんぜん興味ないけど、とりあえず調子合せとこう。盛り上がるようなセリフ言っとこう。そう判断するのが私だった。
「だいじょぶだいじょぶ、心配すんなーって。」
心春がこちらを見て、なんか不敵な笑みを浮かべた。私の静止セリフを聞いて、まんまとテンション上がってるっぽかった。
「そりゃ確かに、あたしゃド素人だけどさ。手の速さにゃー自身あるし、ハンデつけてくれるっちゅーしさ。」
「でも、それは……。」
「それに、さっき言ったじゃん?あたし驚異の新人になれる予感がする、って。あたしの予感って、けっこー当たるんだよねー。」
「心春……。」
なーにが「心春……。」だよ、私。と思ったけど、口には出さなかった。
突如勃発したジグソーパズルを巡るこのいさかいに、私はどこまでも関心をいだけなかった。全く。何一つ。
でも、私の合いの手が功を制して、部の空気は更に盛り上がっていった。ついていけないのは私だけ……と思ったら、もう一人。周野英子も、「なんなんだよ」的な表情をしていた。
ともあれ。
なんやかんやで、ずぶの素人の心春と、前年度中学生チャンプの真冬さんがタイマンで戦うことになった。
心春は大学ノートくらいのサイズ、真冬さんはその六倍くらいのサイズのパズルでタイムを競うハンデ戦だ。
そして、バトルが始まった。
私にとって超どうでもいい、ジグソーのバトルが。ジグソーバトルが。




