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「そう、姉。スラックスを履いているけれど、あれは身も心も正真正銘女の子よ。あなた達、朝からずっと勘違いしていたみたいだけど。」

「あ、そーなん?ごめんごめーん。」

「ごめんなさい。プリンスってあだ名だから、てっきり。そうだったのね。」

 まあどうでもいいけど、と私は心の中でつぶやいた。心春と恋仲になる可能性が低くなった以上、男だろうが女だろうがどうでもいい。

 だけど言われてみれば、みんなが八王子夏生の噂をするときは、「男だったら」「男よりも」的なフレーズが飛び交っていた気がする。興味がなかったので、あまり気にしていなかった。私と心春以外はみんな知っていたのだろう。

「恥をかく前に知れてよかったわね。ちなみに、『すぱぷり』のセシル様も女の子よ。」

「それはどうでもいいわ。本当に。」

 今度は声に出していった。知らない漫画のキャラ情報は、他人が見た夢の話くらい興味が持てない。

 ああ、でも、そうか。

 ということは、なっちゃん先輩はいろんな意味で、私の先輩というわけなのか。ガチ百合で友達に片想いしている私の。あらためてそう考えると、少し親近感が湧いた。

 今度、相談とかしてみようかな。そんなことを思う。

 でも、相談しても全然まともなアドバイスくれなさそうだな。なんの参考にもならなさそうだな。そんなことも思う。

「だけど、姉さんに意中の人がいるということは他言無用よ。」

 真冬さんが不意に真面目な表情になり、私と心春を見据えて言った。

「わかってるってー。」

「もしあなたがそんな噂をたてたら、逆上した子猫ちゃん達が、何をするかわからないからね。『よくも夏生さんのあらぬ風説を流布したな』って。」

「こっちに矛先むくんかい。こわっ。」

「大丈夫よ。私も心春も噂話なんて好きじゃないし。」

 本当のことを言えば、私はゴシップの類が嫌いではなかった。心春が嫌な顔をするから控えているだけだった。彼女が隣にいなかったら、自分はもっと低俗な人間になっていたかもしれない。

「ならいいのだけど。あなた達も、わかったわね?」

 真冬さんが、振り向いてとりまきABCに告げた。外野姉妹は「はーい」と声をそろえて手を挙げ、周野英子は黙って頷いた。

「でもそんな人気者じゃ、先輩はおちおち告白もできないわね。嫉妬されて、部長がどんな目に合うかわからないし。あ、もしかして……。先輩が幽霊部員なのは、そういう嫉妬から部長を守るため?」

「わあ!自分の恋心を犠牲にして、部長さんを守ってるんだ!」

「先輩すてきー!」

 私の仮定の話に、双子が歓声を上げた。

 でも真冬さんは、静かに首を横に振った。

「意外とロマンチストなのね、戸成さん。でもそんな甲斐性、あの人にあるわけがないわ。二人っきりになるのが気恥ずかしくて、部室に来れないだけ。」

「あ、そう……。」

「まー守ってるんだとしたら、そもそも入部しなけりゃいーじゃんて話だしねー。」

 聖柊のプリンスは、けっこうヘタレということが判明した。

 それはさておき。

 なんだか、いい感じかもしれない。競技ジグソー部。

 私は俄然、この部に入りたい気持ちが高まった。

 先輩方も他の一年も、性格の悪い子は概ねいなさそうだ。

 性格のいい女の子だらけの部活。競技ジグソーにはなんら興味がないけど、この部に入るのは悪くなさそうだ。そんなことを、私は考えた。

 ただ、不安材料はあった。

 ほとんどしゃべらない周野英子だけは、まだどんな人なのかわからなかったからだ。

 見た目は好みだけど、愛想のないヤンキーっぽい娘。

 そんな最初の印象のままだった。


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