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「ねえ真冬さん、ちょっと聞いていい?」

 私は真偽を問いただすべく、八王子妹の方に向き直った。

「今あなたのお兄さんが、古いラブコメを披露するや否や、風のように去っていたけど……。あの一連の茶番みたいなやつは、見たまんまと解釈していいの?」

 動揺している内心を隠しつつ、尋ねた。

 真冬さんはため息をつき、目を閉じて軽くうつむいた。そうすると、まつげの長さが更に際立った。

「なんのことだかわからないわね……と答えたら、あなたは納得する?」

「なわけねーじゃん。あーんな一目瞭然なベタ惚れ、生まれて初めて見たわ。」

 私が口を開くより先に、心春が言った。まああの場にいたら、百人が百人とも同じように答えただろう。

「ていうか、否定されたら『あんなバレバレなのに否定するって、じゃあもっとやばい秘密が隠されてんの?』ってよけい気になるし。友香もそー思うっしょ?」

「まあね。」

 真冬さんがまたため息をつき、目を開いた。

「……それもそうね。どうあがいても誤魔化しようがないわね、あれは。ええ、お察しの通り。今あなた達が見たままよ。八王子夏生は、長年にわたって上原千秋に片想いしているの。」

 よっしゃあああ!

 と、私は心の中で喝采を上げた。もちろん、あくまで心の中でだ。外見上は、いつも通りの平静を装った。

「友香ー、なんで急にバンザイしてんの?」

「……ちょっと、伸びをしただけよ。」

 つもりだったけれど、少々装いきれなかった。

 だけど、それはしょうがない。喜びを隠しきれるわけがない。ついさっきまで、「結局心春は、最終的には先輩と付き合うんだろう。どうせ。」と絶望していたのだ。

 被害妄想のような思い込み。誰かに話したら、そう呆れられるかもしれない。

 でも、人前で猫かぶってるイケメンが、腹の内を見せられる隠れ美少女と出会ったのだ。物語が始まる予感がする、そう思わない方が逆にどうかしているだろう。

 ところがその確率は、一気にぐんと低くなった。先輩は心春と出会うずっと前から、自分自身の物語を始めていたのだ。喜ばずにおれようか。

「てか友香さー、古いラブコメとかさすがに口が過ぎるんじゃね?にーちゃんをそんなふーに言われたら、真冬さんも気ぃ悪いっしょ。」

「あ……。それはそうね。ごめんなさい。」

 さっきとは逆に心春にたしなめられ、私は真冬さんに頭を下げた。私にとってなっちゃん先輩は「心春泥棒」というイメージがあったので、自然と当たりが強くなってしまうのだ。

「ふふっ……。構わないわ、戸成さんが言ったことは全て事実だもの。それに私は、古いことがイコール悪いことだとも思っていないしね。あと、あれは兄じゃなくて姉よ。」

 目にかかる前髪を耳の後ろにかき上げながら、真冬さんは優雅にほほ笑んだ。全然怒っていない。どうやら彼女は、わりと心が広いタイプのようだった。冷たい目つきや、ツンと澄ました口調とは裏腹に。

「……って、姉?」

 いったん聞き流した部分を、あらためて聞き返した。


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