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 私立聖柊学園には、冗談みたいにハイスペックなハンサム様がいる。……という噂は、入学前から耳にしていた。

 八王子夏生はちおうじなつお

 私達の一個上の先輩。セレブのボンボンで顔がよくって成績優秀スポーツ万能と、とにかく人気者になる要素をめいっぱい詰め込んだような人。

 その名声は私らの中学にも轟いていた。彼とお近づきになりたくて、聖柊学園を受験するクラスメイトもいた。

 学園のアイドル。スター。王子様。とにかく、そういった類の人種。いくら同じ高校に行くとはいえ、その他大勢の「平凡な女の子」とは無関係の存在。例えば私みたいな。そう思っていた。

 でも、平凡なふりをした特別な女の子は、やっぱりそうはいかなかった。

 心春と八王子先輩が出会ったのは、高校入学した初日だ。

 というか、出会ったと言うほどのことでもない。わーきゃー言われている横を通り過ぎただけだ。



 入学式の朝。

 私と心春が初登校しているとき、校門前で人だかりができていた。

 一人の男の子が、たくさんの新入生に取り囲まれていたのだ。「あたし先輩に会いたくてここ受験したんです」とか、「本当に会えるなんて夢みたい」とか、そういった感じのキャーキャーを四方八方から浴びせられていた。

 私はメガネを指でクイと押し上げ、男の顔を見た。

 赤色メッシュを入れた髪に片耳ピアス。健康的な小麦色の肌。そして二次元キャラみたいな中性的で端正な顔立ち。

 ああ、あれが噂の。本当にこんな感じなんだな。大変だ。

 それが私の、八王子先輩に対する感想だった。ガチ百合の私にとっては、まあそんなものだ。

 あとついでに、「この学校、校則ゆっるゆる」とも思った。赤髪にピアスって、なんでもありか。無法地帯かここは。それなりに偏差値高いのに。

 それより気になるのは、心春の反応だった。

 アイドル並みの男子を前にして、彼女は一体どんなリアクションを示すのか。不安を抱きながら心春を見ると……怪訝な顔をしていた。

「ちょいと友香。見てよ何あれ。どういう状況?なんの変哲もない通学路で、お祭り騒ぎじゃん。お金でもばらまいてんのかな。」

「は?」

 彼女のリアクションに、逆にこちらが意表を突かれた。

「心春もしかして、あの先輩のこと知らないの?『聖柊の八王子』って言ったらちょっとした有名人よ?どれだけ世間の情報に疎いのよ。」

「八王子?……王族のかた?」

「違うわよ。」

「んー?」

 即座に否定すると、心春は首を傾げた。

「あ、なーるほど。今はまだ一般市民ってーことね。王子候補に選ばれた、八人のうちの一人ってわけねー。了解了解。」

「は?」

「つまり次期王子の座をめぐって、血沸き肉踊る戦いを繰り広げている真っ最中ってことでしょー?他の七人の王子候補達とさ。七王子とさ。」

「それを言うなら、『血で血を洗う』、ね。『血沸き肉踊る』じゃ、戦いを楽しんじゃってるじゃない。」

「あーそうそう、なんか違うなって言ってて思った。でも全然知らんかったよー。普通の私立高校だと思って受験したのに、まさか血で血を洗う抗争の舞台になってるなんてさ……?なんだかワクワクしてきたよ。」

「だから違うっての。」

 そういえば昔、対立する五人の王子に求婚される学園漫画があった。それを心春は思い出したのだろう、きっと。

 心春はわりと抜けているので、よく真顔でトンチンカンなことをほざいた。そういうところもかわいかった。

 何はともあれ、噂話が好きじゃない心春は、八王子夏生のことをまるで知らなかった。

 私がどれだけ人気者なのかを簡単に説明すると、彼女は「ほへー。」と気の抜けた相槌を打った。

「信じらんねー。そんな設定モリモリの人間、ほんとに存在すんだねー。」

「学園内でバトルする八人の王子、よりは信じやすいと思うけど。」

「そっちの方が突拍子ないぶん、逆に飲み込みやすいっていうかさー。顔も頭も性格もよくてお金持ちって、なんだそりゃ。」

 と言って、女子に取り囲まれている八王子先輩を一瞥した。先輩は優しい微笑を浮かべて、登校を妨害するファンに愛想を振りまいていた。

「サンキュー、かわいい子猫ちゃん達。ぼくもキミ達に会えて嬉しいよっ!」

「……。」

 心春の眉間に、深い皺が寄った。かわいい子猫ちゃんというフレーズがアレだったのだろう。

「……まあとにかく、あんたも聖柊に入ったからには、あの人の顔と名前くらいは覚えときなさいね。」

「はーいはいはい、ひょうきん者の八王子先輩ね。覚えた覚えた。」

「人気者ね。ひょうきん者じゃなくて。」


 なんだかこれっぽっちも興味持ってなさそう。

 そう思い、私は密かに胸を撫でおろした。

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