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「おひさ……うわ、なんか沢山いるな?」
素の表情で入ってきた先輩は、新入生でいっぱいの部室を見て軽くのけぞった。
「真冬はともかくとして、姫川心春もいるし、知らない人達もいるし……。え、あー、こ、子猫……じゃなくて、ええと……。」
先輩がいろいろと戸惑っていた。身内と一般生徒が混じっていることで、漫画キャラのモノマネと素の自分、どちらでいこうか迷っているらしかった。
そんな彼の元に、上原部長がついっと寄っていった。
「待ってたわよ、なっちゃーん?今日はお姉ちゃんの言いつけ通り、ちゃーんと部室に来てくれたわね?えらいえらーい。」
「なっちゃん?」
「なっちゃん?」
部長の口にした子供じみたあだ名に、双子が同時に首を傾げた。たちまち、なっちゃんこと八王子夏生副部長が大いに取り乱した。
「ばっ?!だ、だからだから、こここ、子供扱いするなってば!つーか、なっちゃんって呼ぶんじゃないよ!ぼく前言ったよね?!」
「いいから早く、こっち来て来てー。みんなにご挨拶しなきゃ。ぼくが副部長ですよーって。ね?」
「っ!」
部室の中央に連れていこうとしたのだろう、上原部長が、八王子先輩の手を握った。
すると彼は、ほっこり茹で上がったタコの如く顔面を紅潮させ、その手を乱暴に振り払った。予期しないリアクションだったのか、部長は目を丸くさせた。
「わ。びっくりしたー。」
「きっきっ気安く手ぇ握んなってば!」
「なんでー?なっちゃん、お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃった?」
部長が先輩の胸先まで接近し、少し背の高い彼を真下から見上げた。大きな目をうるうる潤ませ、じっとみつめた。あざとい仕草だけど、天然でやっているっぽかった。たいていの男子は、たぶんこれでメロメロになるだろう。
事実として先輩は、キュンとくるやら恥ずかしいやら、という感じで、真っ赤な顔のまま苦悶していた。
「な……!ち……ば……ばっきゃろーぼくは競技ジグソーやる女なんて最初から大っ嫌いなんだよ!あーもーだから来たくなかったんだ、もうこんなとこ二度と来るか!ばーかばーか!全員死ね!」
なっちゃんパイセンが、頭のよくない罵詈雑言を吐きながら部屋を飛び出していった。その姿に、もはや聖柊のプリンスの面影はなかった。
「あ、どこ行くのー?!もーう!」
上原部長が、彼の後を追いかけて部室を出ていった。
「……なんだありゃ。」
壁にもたれている周野英子が、完全にドン引きしつつボソッと言った。心春も、まあ似たような表情をしていた。双子は、「ねねね、あれってあれだよね?」「きっとそうだよーうふふー」と無邪気な内緒話をしていた。




