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すぐ部室に入ってくるかと思いきや、彼は廊下で子猫ちゃん達と立ち話を始めた。できればそのまま、こっちに来ずに猫と帰宅してほしかった。
「あ、やっと来たみたいねー。昨日がつーんって怒った甲斐があったわ。まったくもう、副部長のくせに、ちっとも顔見せないんだから。」
扉の向こうの声に、上原部長が顔をほころばせた。
どうやら、八王子先輩は幽霊部員らしい。嫌われ覚悟で入部する女子が去年いなかったのは、きっとそれが理由だろう。もしくは、入っても結局辞めてしまったか。お目当ての子が顔を出さない以上、競技ジグソーなんて変な部活に勤しむ意義を見出せなかったのだろう。その気持ちは、まあわかる。
「あの子も二年生になって、ちゃんとしなきゃって心を入れ替えたのかな?だったら嬉しいなー。」
「どうかしら。さすがに初日くらいは顔見せなきゃ、って思っただけでしょう?あの人にあまり期待するべきじゃないわ。」
「そうかなー。てゆうかあの子、まだセシル様のなりきりごっこやってるのねー。布教した私としても嬉しいなー。」
「セシル様?」
急に出てきた嘘くさい人名に、私は首を傾げた。
「漫画よ。漫画に出てくるキャラクターの名前。千秋さんお気に入りの登場人物なの。ずっと昔からね。ほら、あれ。」
部長の代わりに、真冬さんが答えた。そして頬杖をついたまま、壁の方をあごでしゃくって示した。どうにも不遜な仕草だけど、彼女にはしっくりきていた。
言われた通り壁を見やると、額縁に入れられた大きな完成パズルが掛かっていた。赤い髪の爽やかイケメンが、なんかキザなポーズを決めていた。
「もー。まーちゃんってば、前にも教えたでしょー?『すぱぷり』は漫画じゃなくってぇ、メディアミックスを前提とした……」
「はいはい、ごめんなさいごめんなさい。」
何か語り始めようとした部長を、真冬さんが微笑して軽くいなした。
「ほーん、そーなんだ。八王子先輩のあれって、漫画キャラのモノマネだったんだね。ウケる。」
「モノマネって……。せめてロールプレイって言ってあげなさいよ、心春。」
悪気なく言う心春を、さすがにたしなめた。妹が聞いたら気を悪くするんじゃないかと思ったけど、特に気にしている様子はなかった。
「あれ、でも……。部長が好きなキャラをコピーしてるってことは、ひょっとして。」
ふと、私の胸にある疑念が浮かんだ。
疑念……というより、それは希望、願望だった。
そんなおり、ようやく扉を開けて八王子夏生が姿を現した。




