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「あら、こちらの二人もお友達?まーちゃんはお友達が多いのねえ?」
私達のやり取りを聞いて、頬に片手を当てながら、三つ編み先輩が言った。まーちゃんとは八王子真冬のことか。
「違うわ、千秋さん。あっちの二人はただのクラスメイトよ。姫川心春さんと、ええと……。」
こっちを見て言いよどんだ。どうやら八王子真冬は、私の名前は憶えていないらしい。まあ、当然と言えば当然か。
「戸成。1年A組の戸成友香です。よろしくお願いします。ちなみに競技ジグソーは未経験です。」
三つ編み先輩に向かって、改めてお辞儀をした。
「はーい、よろしくねー。あ、ちなみに私は上原千秋でーす。部長でーす。」
「部長って言っても、部員は二人しかいないじゃない。今日入る私達を除けば。」
「もう、まーちゃんってば。それはいいっこなしよー。」
八王子真冬がため口をきいても、上原先輩は全くとがめなかった。どう見ても、昨日今日の仲じゃなかった。
「ていうか、あなた達も先輩と後輩って感じじゃないけれど。昔からの友達とか?」
八王子真冬に聞くと、彼女と上原先輩は軽く目を見合わせて笑った。
「ええ。私と千秋さんは幼なじみなの。」
「そうなんだ。」
「ほーん。つーことは、八王子先輩も?」
「……。」
心春が「八王子先輩」と口にするたび、私の心は一瞬ざわついた。ほんの少しでも、彼女が先輩に興味を持つのが嫌だった。気にしすぎだ。そうわかっていたけど、どうしようもなかった。
自分の嫉妬深さに、自分自身が驚き、呆れていた。
そんな私の葛藤なんて当然知らずに、部長はにっこり笑って頷いた。
「もちろーん。二人がこーんなちっちゃい頃から知ってるのよー。その頃から、私達三人とも競技ジグソーに夢中だったの。うふふっ。」
「なるほど。」
八王子先輩は二年生なので、上原部長はひとつ上の幼なじみ、というわけか。
「てかさー、部の中で同じ名字が二組もいるんだね。よく考えたらさ。ちょいとややこしくね?」
手を頭の後ろで組んで、心春が言った。
「名前で呼べばいいでしょう?」
「そっか。んじゃー、今度から真冬って呼ぶわ。」
八王子真冬の提案を心春が受け入れると、彼女は冷たい眼差しでにらんだ。
「呼び捨てにしていいとは言っていないわ。不躾な子ね。」
「はー?別に同級生だしいーじゃん。なんかえらそーなのー。」
「距離感と礼節を心得ているだけよ。偶然同じクラスだというだけで、なれなれしくしないでいただけるかしら。」
やっぱ性格わる、と心春がつぶやいた。それを聞いて、八王子真冬……真冬さんは鼻で笑った。
「もちろん私も、あなたのことは『さん』付けで呼ぶわ。友達でもなんでもない、他人同士ですものね。」
「はーいはい。好きにすればー。」
「ねえねえ、あたし達は呼び捨てでいいよ!ね、双葉!」
「うん、二来!」
少しピリついた空気をほぐすように、外野姉妹が明るく言った。
「よろしくね、心春ちゃん、友香ちゃん!」
「一緒に競技ジグソーの頂点を目指そー!てっぺん取るぞ、おー!」
「あ、よろしくー。おー。」
「ど、どうも……。まあ私達は見学に来ただけで、まだ入部するって決めたわけじゃないけどね……。」
同じ顔なのでまぎらわしいが、髪を右側に結っているのが外野二来、左側に結っているのが外野双葉らしい。
私は朝の時点では、内緒話をしていたこの双子に、いい印象を抱いてなかった。
けれどこうして接してみると、あまり他人を悪く言うタイプでもなさそうだった。あの内緒話も、別に悪口とかじゃなかったのかもしれない。
そうやってみんなで呼び方を決めているあいだ、周野英子は隅の方で居心地悪そうにしていた。こういうワイワイした空気は苦手らしかった。
そのとき、廊下の方から「きゃー」という黄色い声が上がった。
どうやらついに、招かれざる者(私にとって)が来たみたいだった。
「放課後のぼくは捕らわれの身なのさ、子猫ちゃん。今夜また夢の中で会おうぜっ!」
ドア越しに、意味のよくわからないセリフが聞こえてきた。
こんな人が副部長やってる部に入るのか、私は。
そう思うと、少々げんなりした。
やっぱり見学だけにしておこうか、入部はしないでおこうか。心春と離れるのは辛いけど、パズルの早組みなんて何一つ興味はないし。そんな思いが、一瞬脳裏をよぎった。




