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完成させる速さを競う競技ジグソーパズルは、私達の市オリジナルのスポーツだ。十年くらい前に、地域振興の一環として考案された。
市はどうにかはやらせよう、定着させようと必死になった。しかし(というかやはりというか)、まったくと言っていいくらい流行らなかった。手を出すのは、ごく一部の変わり者だけだった。
その変わり者の巣窟であろう競技ジグソー部に、心春と私は向かった。
私がついていったのは、当然心春と離れたくなかったからだ。競技ジグソー自体には、一ミリも興味を持ってなかった。
「こんにちはー、見学したいんですけどー。」
部室のドアを開けて、心春が言った。
中には、八王子真冬とオマケABC……改め、周野英子と外野姉妹がすでにいた。八王子夏生はいなかった。その代わり、三つ編みおさげで丸メガネの三年生がいた。
三つ編み先輩は、両方の手のひらを合わせてにこやかに笑った。
「あらまあ、今日はなんだか大にぎわいねー?おいでおいで、歓迎するわー。」
のんびりした声で、先輩が言った。
優しそうな人だなと、私はホッとした。部の内容に興味がないうえ、先輩が嫌な人ではたまったものじゃない。とても耐え切れないだろう。この人なら大丈夫そうだ。
「し、失礼しまーす。」
私は軽く会釈して、心春と部屋の中に入った。
「へえ?意外な展開ね。」
八王子真冬がこちらを一瞥して、軽く肩をすくめた。
「社交辞令のつもりで誘ったのに、まさか本当に来るなんてね。部に誘われたっていうの、作り話だったんでしょう?」
「別に来たっていいじゃん。先輩かんけーなしに興味あったんだよ。つーか気付いてたんかよ、作り話って。」
「まあね。」
いたずらっぽく真冬が微笑した。
彼女は、脚を組んで椅子に座り、片手で頬杖を突き、先輩よりも偉そうだった。だけどその尊大なポーズが、やけにしっくりきていた。大げさに言えば、玉座に座るクイーンのような風格があった。彼女が首を傾げるたび、長く美しい髪がさらさらと揺れた。
そしてやっぱり彼女は、部の勧誘が嘘だと知っていた。ということは、今朝のあれは、推測通り心春を助けるためだったのだろう。
「高校から競技ジグソーを始めたいだなんて、少し変わってるわね。それともあなた、経験者だったの?大会で見かけたことがないのだけれど。」
「きっと真冬ちゃんに会いたくなったんだよー!」
「またファンが増えたね、わーい!」
双子が、真冬の両肩にひっつきながら言った。
「うえっ?や、その、そーゆーわけでもないけどさ……?なんつーか、高校で新しいこと始めるのもいっかなーって?」
双子のセリフに反応して、心春が目線をそらした。何かごまかしている顔だ。
なるほどそうか、双子の言っていることは図星か。
どうやら心春は、美しい同級生に興味を覚えて、この部に入る気になったらしい。その興味が、彼女個人に対してのものか、「プリンスの妹」としてのものなのかは不明だけど。
「……。」
壁際にいる周野英子が、スカートのポケットに手を入れてそっぽを向いた。「けっ」という感じで。心春に対する反感は、まだ収まっていないようだった。
彼女はまだ入学二日目だというのに、制服のタイを外して着崩していて、ガラが悪かった。金髪もいわゆるプリン頭になっており、「きちんとするのダセーし」的な意識が見て取れた。
ただ改めて観察すると、ルックスはわりと私の好みだった。
目付きは鋭く、顔立ちはシャープ。背は高くてスタイルがよく、ネコ科の肉食獣のような雰囲気があった。手を出したら噛みついてきそうな気配含めて。
それでも、仲よくなりたいとは思わなかった。ヤンキーっぽい娘とは正直、あんまり話したくなかった。
そもそもあっちも、私達と仲よくしようって気は全然なさそうだった。きっとこの部に入っても、彼女と友達になることはないんだろうな。そんな予感がした。




