15
それはともかく。
競技ジグソーのことはともかく、私は、あることを危惧していた。
今のあれで、心春には若干ネガティブなイメージがついてしまった。
下手したらこのままじゃ、彼女はクラスから孤立してしまうかもしれない。そういう事態は、ほんの些細なことから起こったりするのだ。
ただでさえ心春は、自分から友達作りにはいかないタイプだ。
噂話や芸能人に興味がないので共通の話題が少ないし、そもそもあまり他人に興味がないのだ。
現に隣の席の野沢さんとも、全く口をきいていないようだった。気さくで話しやすそうな感じの人だというのに。
よけいなお世話かもしれないけど、どうにかしなきゃ。そう私は思った。
「……でもさ。八王子先輩って、心春のどのあたりが競技ジグソー向きって思ったんだろうね?」
意識的に声を大きくして、私は言った。『八王子先輩』の部分を少し強調して。
すると狙い通り、野沢さんがちらりとこちらを向いた。
「え、あー、ううん……。な、なんだろねー?」
部に勧誘されたという話はたぶん嘘なので、心春が言い淀んだ。でもそれは、この際関係なかった。
「本人もわからないの?ふうん。でも私が思うに、やっぱりあれじゃない?姫川流実戦武術次期継承者としての身のこなしが、動きの節々に出ちゃってたのよ。きっと。」
「弱ったなぁ。」
「ぶはっ!」
聞き耳を立てていた野沢さんが、私達の発言で吹き出した。極めて真面目な顔で言ったのが、功を制したようだ。
私はわざとらしく「ん?」などと言いながら、彼女の方を向いた。心春も。私達の視線に、野沢さんは気まずそうに苦笑した。
「あ、ごめーん、ちょっと聞こえちゃってさ。え……なに?姫川さんってその、ナントカ武術ってのの伝承者なの?」
「姫川流実戦武術次期継承者ねー。なーんて、ただの町道場の長女ってだけなんすけどねー。」
「あ、じゃあマジなんだ?ナントカ術の伝承者っての、本当は本当なんだ?」
「マジのガチなんすよ、これがー。」
と言って、心春はにこっと笑った。
「えー、じゃあさ……。」
そのひとなつっこい笑顔に気を許したのだろう、野沢さんは身を乗り出して、いろいろと話し始めた。
よかった、これでいい。私はほっと安堵した。
心春はいい人なので、話すとみんなたいてい好感を持つ。最初のきっかけさえあればいいのだ。一人新しい友達ができれば、たぶんそこから交友の輪が広がっていくだろう。
「じゃあ私そろそろ、自分の席行くね。」
「あ、うん。じゃねー。」
軽く手を振って、私は席に戻った。
心春に、いくら友達がいたっていい。恋人さえ作らなければ。
そんなことを、私は思っていた。




