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いけない。私は早足で、心春の元へと急いだ。
「ざけんなよ、こら!真冬さんはなぁ、わざわざてめえのために!」
「周野さん。」
八王子真冬が、オマケA……周野をたしなめた。
それでも彼女は聞く耳持たない感じだった。吊り上がった目で心春をにらみつけていた。心春もそちらの方に顔を向けた。
「なにあんた、なんか後ろの方にいんなーって思ったら急に口挟んできて。かんけーない人は黙っててくんないかなー?!」
「あん?!」
周野の眼光が更に鋭くなった。目力が強い。普通の女子なら、ひとにらみで震えあがりそうな迫力だ。でも心春は、平然とその視線を受け流していた。
「心春。仮にも有段者が、素人に手を挙げちゃだめだからね。」
私はスッと心春の隣に寄り、わざと向こうに聞こえるように言った。彼女が格闘技を習っていることを知れば、ひるんで騒ぎが収まるかと考えたのだ。
「あ、友香。わぁってるって、んなこたーさー。でもあっちが勝手にさー?」
「な、なんだよ……!」
効果はあったようだ。実際、周野は気圧されたような表情になった。意外とチキンなのかもしれない。
そんな彼女を挟み込むようにして、オマケBとCが傍に寄った。
BとCは同じ顔だった。そういえば昨日の自己紹介で双子って言ってたな、名前は確か外野だったっけ、と私は思い出した。
「英子ちゃん、ケンカはだめだよー。」
「大丈夫だよ、真冬ちゃんがすっごく優しいってこと、そのうちきっとわかってくれるよ。ね?」
双子が、周野英子のそでを右左それぞれ掴んで、お願いするように言った。二人は小学生みたいに背が低いので、まるで子供がおねだりしているように見えた。
「……チッ。」
周野英子が、大きく舌打ちをして背を向けた。そしてひとり、自分の席へと戻っていった。
「……?」
彼女らの意味深なやりとりを聞いて、私は「あれ?」と思った。
もしかして八王子真冬は、心春を助けるためにつっかかったのかもしれない……そう思ったのだ。結果的に助けたとか、偶然いい結果になったとかではなくて。
そうだ。妹なら、昨日兄から「姫川って下級生と揉めた」という事実を聞いていたのかもしれない。それで噂が誤解ということにすぐ気付き、助け船を出したのかもしれない。兄発端で、級友がピンチになるのが忍びなくて。
オマケAの後ろ姿に一瞬目をやったあと、八王子真冬は、さらさらの長い髪をかき上げて微笑した。
「とにかく、身内に関する噂がでたらめだとわかって安心したわ。手間を取らせてごめんなさいね、これで話はおしまい。ああ、よければ本当に、競技ジグソー部にいらっしゃい?私も入部するつもりだから、仲間が増えるのは嬉しいわ。ふふっ。」
さっきからちょいちょい出てきている、競技ジグソーという妙な言葉。
これは、「ジグソーバトルを完成させる速度を競う」という、この町オリジナルのスポーツ(?)の名称だ。けっして流行しているとは言えないので、まさか部活になっている高校があるとは思わなかった。
そう言えば昨日、唐突に心春が「競技ジグソー部あるんだって」とか言っていた。あれはひょっとして、八王子夏生とそういう話をしていたのかもしれない。
「はあ?つーかあたしは……」
心春が何か言いかけたのにも構わず、八王子真冬は一方的に話を終わらせ、自分の席へ戻った。




