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 十五才の頃、私は親友に片想いをしていた。


 子供の頃から、ずっと仲良しの女の子がいた。

 姫川心春ひめかわこはるという名前の娘だ。

 私と心春は幼稚園児の頃に知り合い、小学校中学校とほぼ同じクラスで、私立聖柊せいしゅう学園を一緒に受験して、一緒に受かった。

 そんな心春は、「あたしって平凡だからさー」が口癖だった。

 なんの取り柄もない、いたって普通な女の子。それが彼女の自己評価だった。

 成績は中の上。ルックスは、親以外に褒められたことないけどけなされたこともない。性格は、よく言えばマイペース、悪く言えばてきとうでいい加減。可もなく不可もなく、それがあたしだ……と、彼女はよく言っていた。

 よく知らない人だったら、「そうかもね、確かにあなたは平凡な女の子よ」と頷いていたかもしれない。

 でも、ずっと隣にいる私は、そうじゃないって知っていた。彼女を平凡な女の子というカテゴリに入れるのは、わりと無理な相談だった。


「あたしと友香(戸成友香となりともか、というのが私の名前だ)ってさー、平凡同盟だよねー。」

 中学生のとき、心春がそう言ったことがある。

「なにそれ。」と私が聞くと、

「お互い平凡でモテたりしないのにさー。いーっつも二人でばっかいるから、ますます出会いのチャンスがなくなってくっていう?」と心春が答えた。

「はいはい、そうですか。悪かったわね、私が四六時中隣にいたばかりに、いろどりに欠ける中学時代を送らせちゃって。」

「まあまあ、いいってことよー。平凡な人生も平穏で楽しいしね。それに高校生になったら、急にモテまくるかもわからんし?」

「ああ、そう。」

「ちゅーわけで、許してやんよー。感謝したまえよ?」

「うざ。」

 でも、私は知っていた。窓際の席の小林君が、しょっちゅう心春の横顔を盗み見ていることを。B組の高田君が、廊下ですれ違うたび、心春を目で追っていることを。

 彼女は冗談で言ったのだろうけど、私がべったり付きまとっているせいで、出会いの芽を摘んでいるのは確かだった。

 わかっていて、私はやっていた。


 オシャレに無頓着なだけで、心春は本当はきれいだった。甘いものが好きじゃないから体型がスラッとしていた。目は切れ長で美しかった。お手入れをサボるから、長い髪はボサボサだったけど、ていねいに櫛ですくとたちまち艶めき輝いた。性格はてきとうだけど大らかで、裏表がなく、根は優しかった。球技が下手で体育の成績はずっと真ん中くらいだけど、おじいさんから古武術を習っていて、腕を曲げたりとかする技をいっぱい身につけていた。

 ようするに……。

 心春は、「自分は平凡だ」と思い込んでいる残念美人なのだ。凄いポテンシャルを秘めた隠れ美少女なのだ。

 姫川心春は平凡な女の子じゃない。いつか物語の主人公になるような少女だ。そう私は思っていた。

 しかるべきときが来たら、彼女に相応しい、めくるめく物語が始まるだろう。そしたらきっと、心春は「平凡」の隠れ蓑を捨てて、その秘めた輝きを存分に発揮するだろう。本当に平凡な私を置いてけぼりにして。

 そんなふうに思っていた。ずっとずっと。


 わざわざ言うまでもないだろうけれど、私は心春に恋をしていた。


 けれど、彼女が私のことを、友達としてしか見ていないことも知っていた。なんでも知っている幼なじみだから、わかってしまうのだ。幸か不幸か。

 でもせめて、ずっと隣にいたかった。

 せめて一番の仲良しとして、肩と肩が触れ合う距離で、並んで歩いていたかった。それが私の願いだった。

 物語なんて始まらなければいい。そう願っていた。


 だから、高校入学初日、私は絶望した。

 ついにこの時がきた、そう思った。


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