ep3
「ただいま。」
帰宅した瞬間、荒れた両親の声が飛び交った。
「あなた、毎日飲み歩いてばっかで仕事もしないじゃない!」
母の怒声。
「あ?お前、うるせえんだよ!誰のおかげで生きてこられたと思ってんだ!」
父の罵声。
「やめてよ!風太と草太の学費はどうするの!?」
「知らねぇよ!」
――僕の顔は、この最低な父に似ている。
そのことが心底嫌だった。自分もこの男みたいに「顔だけ」の人間になるのではないか。
それが、何より怖かった。
風太は靴を履き直し、家を飛び出した。
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公園
夜風に揺れるブランコに腰を下ろし、友人のたけしに電話をかける。
「あいつ、こんな時に限って電話出ないんだよな……」
すると背後から声がした。
「君、何してるの?」
振り返ると、スーツ姿の男が立っていた。
「いや、何も。」
「ちょっと時間ある?」
「いや、もう帰るところです。」
「芸能界に興味あったりする?」
「芸能界?」
「うん。君、カッコいいから素敵な俳優になれると思うんだよね。」
――その言葉に、ほんのわずか胸がざわついた。
「俳優?僕がですか?」
差し出された名刺には「小林」と書かれている。
「うちの事務所は怪しくないよ。一ノ瀬けんとって知ってるかな?彼も僕がスカウトしたんだ。」
「そ、そうなんですか……俳優って、いっぱいお金稼げるんですか?」
「もちろん。一般人よりはるかにね。」
「弟の学費、稼げますか?」
「もちろん。」
「顔しか取り柄のない俺でも?」
「それが最大の武器だよ。この世界では。」
――僕は決意した。
「僕、やってみたいです。」
こうして、俳優・一ノ瀬風太が誕生した。