表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノラとクロと執筆(リライト)  作者: MMPP.key-_-bou


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

第4話 ノラ、起動

 ノートに向かって三十分。

 書けたのは、たった三行。しかも、前回とほぼ同じ。


『朝起きたら、黒いモヤが俺の枕元にいてさ。』

『エッセイ書かないと死ぬぞって言われた。』

『いや、どんな目覚ましだよ。』


 ……進んでない。ページを見つめながら、眉間にしわを寄せる。

 俺の創作力、ループしてる。


 三行の迷路。出口なし。


「なあクロ、これ無理じゃね?」


 視線を横にやると、観葉植物の隣でクロがゆらゆら漂っている。薄暗い部屋の中で、葉っぱの影に重なるその姿は、まるで部屋のインテリアの一部みたいだ。


「無理じゃない。あんたが止めてるだけ」

「俺の中の『何か』が邪魔してるんだよ。たぶん、昨日の唐揚げ」

「それは消化されてる。邪魔してるのは、あんたの『沈黙』」

「またそれかよ。沈黙沈黙って、俺は禅僧か」


 クロの声はあいかわらず静かで、しかし刺さる。

 観葉植物の葉がエアコンの風に揺れるのを眺めながら、俺はノートを閉じた。


 そして、パソコンを開く。

 モニターの光が部屋を白く照らし出す。画面の隅に、見慣れないアイコンがひっそりと鎮座していた。


「……『ノラ(β版)』?」


 思わず声が漏れる。


「これ、いつ入れたっけ?」

「あんたが『書けない』って言った日に、勝手にインストールされた」

「勝手にって何。俺のパソコン、自我持ってんの?」

「持ってるのは、あんたの『諦め』だよ。それがノラを呼んだ」

「俺の諦め、勝手にアプリ入れるのやめてくれ」


 苦々しく笑いながらも、恐る恐るアイコンをクリックする。

 画面が一瞬暗転し、低い電子音が鳴った。背筋がすっと冷える。


『こんにちは。あなたの言葉の奥にいます。』


 白い文字が浮かび上がる。


「うわ、出た。ポエム系AI。しかも声が優しい」


 クロが小さく揺れて、笑ったように見えた。


「あんた、ノラに頼るの、ちょっと悔しいでしょ?」

「……まあな。ノートで書けたら、かっこよかったのに」

「でも、書けないんだから、かっこつけても意味ない」

「お前、たまに正論が痛い。あと、説教うるさいよ!」


 画面に入力欄が現れた。

 『テーマを入力してください』と表示される。


 俺はしばらく迷った。指先を宙で止め、深呼吸してから、ようやく打ち込む。


『黒いモヤと、俺の部屋。』


 ノラはすぐに応答した。


『それは、あなた自身のことですか?』


 ドキリとする。心理テストみたいな問いかけに、背筋がむず痒くなる。


「うわ、急に心理テストみたいなこと言うなよ。俺、まだ風呂上がりだぞ」


 クロは観葉植物の葉に体を寄せながら、ゆらりと答えた。


「あんた、風呂上がりが一番素直になるからね」

「俺、風呂上がりで人生決めたくないんだけど」


 言葉にして、自分で笑ってしまった。

 緊張が少しほどける。


 キーボードに手を置いた。指先が軽く震える。


 その夜、俺はノートではなく、パソコンに向かっていた。

 クロは観葉植物の隣で、静かに漂っている。

 ノラの画面は、俺の「言葉にならないもの」を、少しずつ引き出していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ