9話 黒牙の影
ベルザの街を発ち、ユウマとルディアは北を目指していた。
次なる目的地は、交易の要衝ラディン村。
北方で何が起きているのか――その手がかりを求めて。
「ふぅ……街を出たばかりなのに、もう足が痛いよ」
ルディア・ヴァレーンがぼやきながらも、しっかりとした足取りで進む。
ユウマ・アルシオンはその横顔を見て、苦笑した。
「でも、なんだかんだ元気そうだよ、ルディアさん」
「当然。旅は体力勝負だからね! ほら、こうやって毎日歩いてると、脚とか……引き締まってくるし」
そう言って、ルディアは得意げに腰をひねり、軽く脚を蹴り上げた。
その拍子に、太ももにフィットしたズボンのラインが強調され、ユウマは思わず目を逸らす。
「う、うん……け、健康的だね」
(や、やっぱりルディアさん、スタイルいいんだよな……)
そんなことを考えてしまい、ユウマは赤面する。
***
道中、森の入り口に差しかかる。
「ラディンの森」――近道だが、最近盗賊が出ると噂される場所だ。
「ねぇ、ユウマ。黒牙の盟って聞いたことある?」
ルディアが険しい表情で問いかけた。
「黒牙の盟……盗賊団、だよね?」
「うん。潰れたはずなのに、また活動を始めたらしい。ま、盗賊なんて、あたしにかかれば……ね」
ルディアは剣に軽く触れ、にやりと笑う。
ユウマはその自信に頼もしさを感じつつ、どこかドキリとした。
***
森の中、事件は突然起きた。
「――止まれ、旅人ども!」
木陰から、黒い牙の紋章をつけた五人の盗賊が現れた。
ルディアは即座に剣を抜き、前に出る。
「ユウマ、下がって。今回は、ちょっと本気出すよ」
「……わかった!」
盗賊のリーダー格が嗤う。
「嬢ちゃんが前に出るとは、面白え。骨の一本でも折ってやるか!」
「悪いけど、あたし……骨を折る側なんだよ!」
ルディアが駆け出し、剣が閃いた。
***
盗賊たちの数は多いが、ルディアの剣技は鋭かった。
だが、戦いの最中――
「っ、く……!」
敵の短剣がかすめ、ルディアの服の胸元がビリッと裂けた。
下着こそ見えないが、汗ばむ素肌がちらりとのぞく。
ユウマはそれを目の端で見てしまい、顔が一気に真っ赤になる。
(わ、わわ……い、今それ考えてる場合じゃ……!)
だがルディアは、まったく気にせず敵を切り伏せ続けた。
「服を破ったこと、後悔しな!」
彼女の怒りを帯びた剣撃が冴え渡り、次々と盗賊を倒していく。
***
戦いが終わり、ルディアは剣を収めた。
肩で息をしつつ、自分の裂けた服に目を落とす。
「……ったく、またか。これ、けっこう気に入ってたのに」
ユウマは駆け寄り、視線を泳がせながら声をかけた。
「ル、ルディアさん、大丈夫? け、ケガとかは……」
「平気。かすり傷と、服がちょっと……ね」
ルディアは苦笑しつつ、ビリッと裂けた布地を指でつまんだ。
「ま、また新しいの買えばいいか。……ほら、ユウマ。行くよ」
「あ、う、うん!」
ユウマは必死に顔の熱を抑えつつ、彼女の後を追う。
(……ルディアさん、強いしカッコいいけど、やっぱり……女の人なんだよな……)
胸の奥がざわつくのを感じながら、ユウマは歩を進めた。
***
森を抜ければ、ラディン村はすぐそこ。