7話 ベルザの依頼
ベルザの街――北方交易の要所として栄える、中規模の城塞都市。
ユウマとルディアが街門をくぐると、騒がしくも活気のある光景が広がっていた。
行商人の叫び声、鍛冶屋の金槌の音、馬のいななき――それらすべてが、二人にとって新鮮だった。
「おお……すごい、人が多い……!」
ユウマは目を丸くしながら辺りを見渡す。
ルディア・ヴァレーンは得意げに胸を張った。
「ふふん、これが北の拠点、ベルザの街さ。ここなら情報も依頼も山ほどあるよ」
二人は宿を取り、軽く荷を下ろした後、さっそく冒険者ギルドへと足を運んだ。
***
ギルドは、街の中央広場に面した立派な建物だった。
中へ入ると、カウンター前は依頼を受けようとする冒険者たちで賑わっている。
「……にぎやかだね」
「ま、冒険者の街だからね。あたしも昔、何度かここで依頼受けたことあるし」
ルディアは慣れた様子で掲示板へと向かう。
ユウマはその後をついていく。
掲示板には様々な依頼が張り出されていた。
討伐、護衛、物資の運搬――中でも目を引いたのは、最近頻発しているという物資の襲撃事件についてだった。
「……これ、最近の盗賊団か魔物の仕業だって話だけど」
ルディアが紙を指差す。
「北の街道を通る商隊が、次々に襲われてるんだ。依頼主は、このベルザの商会みたいだね」
ユウマは眉をひそめた。
「街道が襲われてるって、僕たちが通ってきた道も……?」
「ああ。タイミングが悪けりゃ、あたしたちも危なかったかもね」
そう言ってルディアはカウンターに向かい、依頼を受ける手続きを始めた。
「よし、これにしよう。ちょっと危険だけど、腕試しにはちょうどいい」
ユウマは緊張しつつも、頷いた。
「わ、わかった……ぼくも頑張る!」
***
翌朝、二人は依頼主であるベルザ商会の倉庫へと向かった。
出迎えたのは、がっしりとした体格の中年商人だった。
「おう、お前たちが新しく来た護衛か。助かるぜ、最近は物資を運ぶにも命がけでな」
男はため息をつき、続けた。
「ここから北の村まで、荷車を運んでほしい。途中で盗賊どもが現れたら、遠慮なくぶっ倒してくれや」
ルディアはにやりと笑う。
「任せといて。剣士の名にかけて、しっかり護衛するよ」
ユウマは少し不安そうに荷車を見つめたが、心の中で拳を握った。
(ぼくだって、少しは役に立たなきゃ……)
こうして、二人の初めての公式な依頼が始まった。
***
街を出発し、北へと進む道すがら。
ユウマは時折、空を見上げていた。
「……何だか、風が冷たくなってきたね」
「北はもうすぐ雪の季節だからね。でも、それだけじゃない。なんか……空気が、ぴりついてる」
ルディアも、手を剣の柄に添えたまま警戒を強める。
そんな矢先――茂みの奥で何かが動いた。
「……来た!」
ルディアが叫んだ瞬間、数人の盗賊が道を塞ぐように飛び出してきた。
「へっ、カモが来たぜ!」
ユウマの胸がどくん、と高鳴る。
(また……戦いだ。でも、ルディアさんはきっと……)
ルディアは一歩、前に出る。
「いい加減、こういうのも慣れてきたよ。ユウマ、下がってて!」
「……うん!」
彼女の剣が、再び風を切った。
***
戦いは激しかったが、ルディアの剣技は冴えわたった。
だが、今回は敵の数がこれまでより多く、手ごわかった。
ユウマは荷車の陰で、震えながらも懸命に荷物を守った。
(ぼくにできるのは、これだけかもしれないけど……絶対に通さない!)
やがて、ルディアが最後の盗賊を倒し、戦いは終わった。
「……ふう。ちょっと、きつかったかな」
ルディアが汗をぬぐい、振り返る。
ユウマは駆け寄り、彼女の腕を掴んだ。
「ルディアさん、大丈夫!?」
「うん、なんとか。でも……」
彼女は倒れた盗賊たちを見下ろし、険しい表情をした。
「やっぱり、ただの盗賊じゃない。統率が取れてたし、装備も妙に揃ってる」
ユウマの胸に、またあのざわめきが広がる。
「……もしかして、北で起きてることと関係が……?」
ルディアは唇をかみ、静かに頷いた。
「たぶんね。でも、まだ断定はできない。でも――」
彼女は遠く、北の地平線を見つめた。
「この先に、何かが待ってるのは間違いないよ」
***
依頼を無事に終え、ベルザの街へ戻った二人は、報酬を受け取った。
商会の男は、満足そうに頷いた。
「ありがたい。最近は本当に、物騒な連中が増えて困ってたんだ」
ルディアは礼を言い、ユウマとともにギルドを後にする。
その背中は、わずかに疲れながらも、確かな決意を宿していた。
「ユウマ」
「……うん?」
「明日、もう少し北へ進もう。ベルザに留まってるだけじゃ、真相は見えないからさ」
ユウマは、その瞳に迷いなく頷いた。
「……わかった。ぼくも、一緒に行くよ」
星がまた、夜空で瞬いていた。