2話 はじまりの絆
カルナ村は、小さな集落だった。
木造の家々が立ち並び、土の道には子どもたちの笑い声が響いている。
「……なんか、のどかだな」
ルディア・ヴァレーンがぼそりと呟いた。
赤茶のポニーテールを風になびかせ、初めて見る景色に目を細める。
隣を歩くユウマ・アルシオンは、穏やかな笑みを浮かべた。
「こういう場所、好きだよ。静かで、温かくて」
「……あたし、こういう村に来たの、久しぶり」
ルディアは少し遠い目をしたが、すぐに首を振り、歩を進めた。
ふたりは、村の中央にある小さなギルド支部に向かっていた。
建物は石と木で作られ、入り口には「冒険者ギルド・カルナ支部」の看板が掲げられている。
ユウマが扉を押し開けると、カウンターに座る中年の男が顔を上げた。
「……おお、ユウマか。帰ったか」
「ただいま、ラガンさん」
支部長のラガンは、目元に皺を寄せて笑った。
「依頼は達成できたのか?」
「はい。指定されたブラッドベアを倒しました」
ラガンは目を丸くし、椅子から立ち上がった。
「な、なんだと? あの魔獣を、たった一人でか?」
「正確には、この子とふたりで」
ユウマは隣のルディアを手で示した。
ルディアは少し照れくさそうに肩をすくめた。
「ま、まあ、ちょっとだけ手伝ったって感じだけど……」
ラガンはふたりを交互に見て、やがて大きく頷いた。
「……こいつは驚いた。よくやった、ふたりとも!」
カウンターの奥から袋を取り出し、じゃらりと銀貨を数枚置く。
「これが報酬だ。約束通りの額だぞ」
ユウマは銀貨を受け取り、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
ルディアも隣で小さく頭を下げる。
だが、その目はちらりとユウマの顔をうかがっていた。
***
ギルドを出たあと、ふたりは村の広場に腰を下ろした。
石のベンチに並んで座り、ルディアは空を見上げた。
「……あたし、ちょっと不思議だったんだ」
ユウマが首をかしげる。
「何が?」
「さっきのギルドの人、あんたのこと『帰ったか』って言ったよな? まるで、ここの住人みたいに」
ユウマは小さく笑った。
「うん、ここには何度か来たことがあるんだ。前にも依頼を受けててさ」
「……へぇ、やるじゃん」
ルディアは腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。
「でも、レベル1なんだよな」
「そうだよ」
ユウマは穏やかな口調で応じる。
「レベルは上がらない。でも、できることをするだけ」
その言葉に、ルディアはしばし黙り込んだ。
やがて、ぽつりと口を開く。
「あたしさ……」
「うん?」
「……故郷、なくしたんだ」
ユウマの顔が少し曇った。
ルディアは苦笑し、続きを語る。
「村が魔物に襲われてさ。家族も友達も……みんなやられた」
拳を握り、肩が小さく震える。
「だから、あたし、強くなりたかった。あんなこと、二度と繰り返さないために……!」
ユウマは静かにその拳を見つめ、やがてゆっくりと手を伸ばした。
「……ルディア」
「な、なによ」
「僕と、一緒に旅をしないか?」
ルディアは驚き、目を見開いた。
「……え?」
ユウマは微笑み、言葉を続けた。
「君は強くなりたい。僕は、まだ知らない世界を見たい。だったら、一緒に行こう」
ルディアはしばらく黙っていたが、やがて顔を赤くして口を開いた。
「……バカじゃないの?」
「え?」
「いきなりそんなこと言われたら、断れないじゃんか……!」
そして、拳で軽くユウマの肩を小突いた。
「……いいよ。あんた、なんか気に入った」
ユウマは微笑み、その手を差し出した。
ルディアは今度は迷わず、その手を握った。
「……じゃ、仲間だな」
「うん、仲間だ」
ふたりは固く手を握り合い、新たな旅立ちを誓った。
***
その夜。
ふたりは村の小さな宿屋で一泊することにした。
木造の二階建ての宿は、素朴だが温かい雰囲気に包まれている。
ルディアはベッドに寝転がり、天井を見上げた。
「……なんか、あっという間だったな、今日」
ユウマは窓際の椅子に座り、月明かりを受けながら頷いた。
「うん。でも、これからが本当の旅の始まりだよ」
ルディアはくすりと笑った。
「……あたし、ちょっとワクワクしてる」
ユウマも笑みを浮かべる。
「僕もだよ、ルディア」
窓の外には、静かな夜空が広がっていた。
星々が輝き、ふたりの新たな旅を祝福するかのように瞬いている。
こうして——
レベル1の少年と、過去を背負う少女の、冒険が静かに幕を開けた。