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「ここで待ってて!僕は着替えてくるからっ!」
公爵邸に着き、ローズガーデンに通された途端にユイリルはそう言ってどこかへ行ってしまった。
残されたステラはというと、メイドが次々に運んでくるお茶菓子の質に恐れ慄いている。
パッと見ただけでわかるほどの有名パティスリーの品々。どれも王室御用達の高級品。
「こんなに簡単に手に入るものなのかしら...?」
「こちらはユイリル様が殿下にお願いなさった結果です」
「そうなのですね...え?」
メイドも既に出払い、ガーデンには自分一人だとばかり思っていたステラは、独り言に返答が来たことに驚き、びくりと肩を揺らす。
そこに居たのはユイリル付きの侍女であった。
「ユイリル様のおそばにいらっしゃる...」
「ベリーと申します」
「ベリーさん、その、いらっしゃったんですね」
声をかけられるまで気配すら感じなかった。
「申し訳ありません。驚かせてしまいました。忍足が趣味でして」
「こ、個性的ですね...?」
「いえ、それほどでもありません....リスティア様、先程こちらの菓子が気になっていたようですが、ご説明いたしましょうか?」
「おっ、お願いしますっ!」
王室御用達のパティスリーのお菓子。何も知らずに食べてしまうのは失礼な気がする。
そんな義務感に駆られて食い気味に返事をする。
「でしたら軽くですがご説明を。まずはじめに此方のショートケーキですが、王室御用達としては最古の歴史を誇る、パティスリー・フィラリウムの定番商品でして───」
「以上が此方の菓子の説明になります。長々と申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございます!素晴らしいですねっ!」
全てのお菓子に想いがこもっている。
食べるのが勿体無いなど思えない。食べてこそのこの菓子たちだ。
と、そんなところで、お着替え中のユイリルが戻ってきた。
「あー!ベリーお話してたの?ずる~い!!僕も話したい~!!!」
駆けてくるその姿は、まさに天使であった。