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『現実恋愛』短編集

ぼくは僕に、きみは君に。

作者: pan

 いつもより早い夕暮れ。ゆったりと動く雲が反射したさざ波。青いはずの海は(だいだい)色に染められている。


 まるで夏の終わりの知らせるような空模様。


(しゅう)くんって、好きな人いる?」


 振り返りざまにそう言ってきた『きみ』の顔も(あか)かったことを憶えている。


 そう、あの日。

 青かった僕らに訪れた青い春。急に言われた時は驚いたけど、すぐに『ぼく』は好きな人いるよって返した。


 そうしたら、『きみ』は私も、なんて言って微笑んでいたっけ。


 いつも通りの下校。いつも通りの帰り道。


 だけど、この日はいつもとは違った。

 だって、好きな人から好きな人いるかなんて聞かれたら戸惑うよ。


 聞かれた後は、笑う『きみ』が愛おしくて直視できなかったな。

 見てしまったら無くなってしまいそうな気がして。


 でも、記憶に刷り込んでおけば無くなっても思い出せば良かったのかな。そう考えたら、少し後悔してきた。


 家に帰ってからも忘れられなかったよ。

 『きみ』とのトーク履歴を見返す度に思い出して、その度に『ぼく』は恥ずかしくなって枕に顔を埋めたものさ。


 でも、『きみ』は恥ずかしさとか不慣れさとかを感じさせない素振りを見せていた。

 平然といれる姿に驚いていたよ。


 『ぼく』はずっと緊張していたんだからね?


 なんて、こんなこと言っても動じなかったよね。

 むしろ調子に乗ってみんなに伝えてたよね。


 あれは本当に恥ずかしかった。早くいなくなりたいとさえ思ったよ。


 あ、そういえばその時って学校祭があったんだっけ。

 一緒に回ってる時に、口いっぱいに食べ物を頬張る『きみ』を思い出して、笑っちゃいそう。


 写真もいっぱい撮ったね。残ってるかな。

 あ、これは『ぼく』が初めて自撮りしたやつだ。

 手ブレが酷すぎて大爆笑だったよね、精一杯頑張ったつもりだったんだけど。


 やっぱり不慣れなことはするものじゃないよ。

 でも、『きみ』は嬉しそうに写真を持っていてくれた。

 それでいいのって聞いても大事そうにスマホを抱えて睨みつけてきたよね。


 たまに見せる不思議なところに戸惑うこともあったよ。

 ほら、修学旅行の時のお土産探しでさ。

 男子が買いそうな木刀だったり、熊が鮭を加えてる木彫の置物だったり。


 あの時は『ぼく』の方が女なんじゃないかって思うぐらい『きみ』は元気だったよ。


 それとクリスマスも、『きみ』の家でパーティーを開いた時の豪快さと言ったら。

 プレゼント交換会で『ぼく』のプレゼントが欲しすぎてずっと抱えていたり、食事の時も我先と骨付き肉を頬張るし。


 もちろん楽しかったよ。

 けど、本当に女の子だよなとは思ったね。『ぼく』が女々しすぎるかもしれないけど。


 でも、あの時一緒にいた人に聞いても男みたいだよねって言ってたよ。

 ごめんごめん、でも『ぼく』はちゃんと1人の女の子として見てたから。


 年末年始も一緒に過ごしたっけ。

 あ、その時は『ぼく』が熱出していたのか。


 そうだそうだ。

 確か『きみ』が通話しながら泣いていたんだよね。

 心配だからって死なないでって。


 そんなことでいなくなるような人じゃないよ、『ぼく』はいなくならない。

 そんなことを言って励ましてたけど、正直寝たかった。


 けど、やっぱり『ぼく』は『きみ』を求めてた。

 おかげで体調はすぐに良くなって初詣に行ったね。


 来年は受験だから一緒に頑張ろうって、そうお願いしたよね。

 当時は『きみ』の方が勉強できたから追いつこうとして必死だったよ。


 定期テストはいつも負けるし、模試だって時にはダブルスコアで負けていたっけ。

 さすがにこのままではダメだと思って本気を出してみたけど、やっぱり限界を感じたんだよ。


 でも、そんな時に『きみ』はいつもそばにいた。

 優しい言葉、明るい表情。

 そんな『きみ』にいつも励まされて、頑張ろうって思えた。


 おかげで成績も同じくらいになって、学部は違うけど志望校も同じでA判定も取れるようになっていた。

 本当に感謝しているよ。


 そして受験も上手くいって、大学も一緒になったね。

 それからお互い忙しくなって、なかなか会える時間が減っちゃったけど。


 年に一度、あの時の『きみ』に聞かれたこの場所で会う。


 これでもう10回目か。

 こう振り返ってみると、あっという間だね。


 学校行事や受験勉強もいい思い出。


 それに、大学で一緒に過ごした休み時間。短い時間だけど、近くにいるだけで安心できた。


 無事に単位も取れて、就職活動を始めてさ。

 あの時はお互いつらかったよね、それで泣いた日もあったっけ。


 でも、何とか将来の夢を叶えることができて、その時も一緒になって嬉し泣きをしたよね。


 楽しくても、怒っても、泣いていても。

 どんなときでも『ぼく』と『きみ』は一緒にいた。


 喧嘩した時はすぐに謝って、つらいことがあったら励ましあって過ごしてきたね。


 青い春を追いかけていた『ぼく』と『きみ』は


 いつの間にか大人になって『僕』と『君』になっていった。


 時の流れは残酷だと言うけれど、君と生きていけるならそれでいい。


 あの時は『きみ』から告白してくれたけど、今度は僕から。


「これからもよろしくね。好きだよ、朱里(あかり)






青かったあの日の『ぼく』らは、大人になった『僕』らの中に変わらずいます。

苦い思い出でも、甘い思い出でも、それはあなたの物語の一部。

一度、あの頃に戻ってみてもいいんじゃないんでしょうか。

例えば、高校生の頃仲良かった友人にメッセージを飛ばしてみるとか。

僕は最近それをしてみました。深夜にも関わらず返信が来て、思わず泣きそうになりましたよ。

その友人とは30分ほど会話が続き、帰省したら飲みに行こーぜと約束して終わりました。

短いような長いような、僕にとっては楽しい時間だったので気にしてませんが。


長々と、ここまで読んで頂きありがとうございます。

たまには明るい話というか、ホッコリした話を書きたいなと思いまして……。

僕が書く話はだいたい暗いので笑


とにかく、読んで頂きありがとうございます。

お楽しみいただけたなら幸いです。


pan



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