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床話(安定期)  作者:
6/6

明君と教育実習生

クリスマスイブですってよ。

 桜の花びらが茶色く浮かぶ湿った水たまり。その隣。

 ディスカッションの授業が嫌で体育館の裏に座っていた。木の枝拾って地面をほじくる。

 今学校時間に帰ったら、ユーグにサボりを馬鹿にされるだろうし、取り敢えずこうやって時間を潰すしかないけど。

 本でも持っておけば良かった…

 ユーグが学校に来れば、一緒にいてくれるのかな。

 でも、ユーグは学校にいたら、ぼくみたいに1人でいそう。

 窓際の後ろの方の席で窓の下を眺めて、ため息ついて、ぼくがそれをずっと見てたら、その視線に気づいて、振り返って微笑んでくれる。とか。放課後、少し教室に残って、少し話をしたり、隣の席で宿題したり。とか。

 ユーグが学校いれば、いいのに。

「あれ、君はここで何してるの?」

「……!」

 ふと上から声がかかる。知らない、人。ユーグのこと考えてたら、気づかなかった。

「名前聞いてもいい?私、教育実習生なんだけど。」

 教育実習生……ぼくのこと知らない外部の人だ。大きめのバインダーを胸元に抱え、スーツを着ている。知ってる人よりはマシだけど、1人にして欲しい。

「…ほっといてください。ぼくに関わらない方がいいですよ。」

と、突っぱねた。でも、先生は隣にしゃがんで、引いてくれなかった。

「実習生だから、何言ってもいいよ。大丈夫。」

 微笑んでくれたけど。…鬱陶しいな。

 サボってること、この人に怒られるのも嫌。

 教室に一緒に戻るなんてしたら、目立つし、わざとぼくを避けて無視するみんなの視線も、怖い…もっとやだ。

「ぼくは…」

「うん」

 何を言おうか…。別にぼくの現状を知ってもらいたい訳じゃないけど、でも、あっち行ってほしい。

 ぼくには、ユーグだけで十分だ。

「ぼくは、人殺しだ。ぼくが、ほんとに、やったんだ。だからっ…」

 違う。ぼくはやってない!なんでみんなそんなこと言うんだ!という自分の中の叫びがぼくを苦しめる。

 苦しい、助けてよ。ユーグ。

「えっ?大丈夫?」

 お前じゃない。

「先生も殺しますよ。今、校庭の影で誰も見てないからバレずにできます。あの時みたいに…ね。」

 やろうと思えばできるんだろうな、と言ってて思う。だって、あの時の真相は隠されてそのままだし。先生は、静かにその場に立ち上がって、困って苦笑いした。

「……私、わかんないから、先生、呼んでくるね。」

 そう言って、少しぼくのことを気味悪そうにして、走ってどっか行った。

 よかった…。安心して、落としていた木の枝を拾ってまた遊び始める。

「レディに対して、あんまりじゃないかい?」

 ?!

 どこ…あ、いた。

 目の前のフェンスにユーグが背中向けてもたれかかっていた。見られてたんだ、全部…。なんか、恥ずかしい。

「たまたま通っただけだよ。」

「ユーグ」

「んふふ。誰も見てないし、ボクも寝起きで油断してる。ボクのことも殺せる?」

 顔を見せてくれない。怒ってるのかな…?それとも、ユーグの好奇心の延長?

 ぼくの答えとしては、まぁ、決まってる。そんなことするわけ、ない。それに、凶器も持ってない。できない。

「…先生、やだったから。言っただけ。」

「ボクは嫌じゃないんだ?」

「…うん」

 ユーグは顔を下に向けた。どんな顔してるかはわかんないけど。

 ユーグの動きに連動して、ぎし、とフェンスが鳴った。

 沈黙。

 ユーグはこっちに向き直った。楽しそうないつもの笑みを浮かべていた。

「ボクと帰ろうよ。そこいても退屈だろ?」

「いいの?」

 あまりに嬉しい誘いだった。今まで通りだったら、サボりを馬鹿にして、笑ってたのに。

「今日は機嫌がいい。ここで待ってるから、荷物取ってきなよ。」

「わかった。」

 ユーグの気まぐれに感謝しつつ、ぼくは教室に戻った。

 丁度終了のチャイムが鳴る。

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