表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱暴者が書きあぐねる学生日誌  作者: 二十四時間稼働
1/55

ボクとゴキブリくん

 ボクは小学生の頃、昆虫に異常な興味があった。それは、無論ゴキブリも例外ではない。

 ある日、一匹のゴキブリに出会った。そのゴキブリは弱っていた。ボクは可哀想に思い、ゴキブリを掌にのせて、机の上に置いた。

 餌を取りにいくため、一階に降りて、冷蔵庫の中を探った。ボクは冷蔵庫の中から、大切にしていたチョコレートを取り出した。冷たい。それではっとして、一瞬躊躇したのだが、ゴキブリのあの姿を思い浮かべると、どうしても可哀想にと感じてしまう。

 チョコレートを持ちながら、自分の部屋まで駆け上った。自分の部屋に着いたとき、ゴキブリは半分死にかけていた。その様子にさらに、可哀想だと思ってしまう。ボクは急いで、チョコレートをゴキブリに食べさせた。ゴキブリは少しずつ食べた。その姿は、少し可愛く思えた。多分、ゴキブリが小さかったからだろう。チョコレートを食べ終わったときには、すっかりよくなっていた。

 「助けてくれてありがとう」

 ゴキブリが突然喋った。ボクはあまりのショックで、驚きを抑えられず、尻餅をついてしまった。

 「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。でも、僕も不思議に思っているよ。チョコレートを食べて、元気になったら、なぜか喋れるようになってたんだ」

 そんなことってあるのかなと思ったが、あんまり深くは気にしないことにした。

 「それじゃあ、僕はもう帰るよ。だって、君人間だし・・・・・・、でも、助かったよ、ありがとう。さよなら」

 もう、かえるの? ボクと遊ぼうよ。と、言うとゴキブリは一瞬戸惑っていたが、すぐに、何か悟ったような仕草を見せた。それから何度も、何度も深く頷いた。

 ボクたちは色々な遊びをした。トランプ、将棋、にらめっこ・・・・・・ボクは、普段できないことをしたかったのだろう。

 「ボ~ク! ご飯できたよー!」

 ゴキブリと遊んでいたら、いつの間にか晩ご飯ができたみたいだ。ゴキブリもそのことに気がついたようだ。名残惜しそうな様子を見せた後、すぐに急いで帰ろうとした。

 待って、君のことをゴキブリくんって呼んでいい? と訊くとゴキブリはなぜかうれしそうだ。そして、こころよくいいよとまで言ってくれた。

 その晩、ボクはゴキブリくんを連れて、一緒に晩ご飯を食べることにした。ゴキブリくんは反対したが、ボクが初めて会った記念にと言うと、ゴキブリくんは今回だけならと言ってくれた。

 晩ご飯を食べながら、ゴキブリくんと会話を楽しんだ。

 ねぇゴキブリくんってどこで生まれたの? と囁いた。

 「君の家で生まれたんだよ」

 ボクはその言葉に驚いて、つい飛び跳ねてしまった。そのせいで、ゴキブリくんはボクの膝の上から落こちってしまった。しかも、ゴキブリくんが落ちた場所は、運悪く、母のすぐ足元だった。母はゴキブリが大嫌いなのだ。

 母はキャーとボクの耳が裂けてしまうほど叫んだ。この悲鳴を止めるため、父は新聞紙を持ちゴキブリくんを殺そうとする。ボクはゴキブリくんを素早く手に移し、自分の部屋へ持って帰った。

一安心して、ゴキブリくんを机の上に置いた後、ゴキブリくんに少しだけ待っていてねと言い残した。階段を何段かとばしながら、下へ降りて、両親がいる部屋へと戻った。

 「どうしたんだ? 食事中にどっか行って。そういえば、ゴキブリがさっきいたな。あとでゴキブリスプレーでもばら撒くか。ついでにおまえの部屋にもばら撒いとけよ」

 とりあえず、わかったという風に頷いておいた。

 母は食事中にもかかわらず部屋中にゴキブリスプレーをばら撒こうとする。ボクはゴキブリたちのことが可愛そうになり、母が手にしているゴキブリスプレーを奪い取った。

 「なにすんのよ」

 ボクは食卓に並ぶカレーライスを指差した、母はしばし肩をすくめた後、すぐに諦めて、椅子に腰かけた。

 食事が終わった後、ボクはすぐにゴキブリくんのもとへと走って行った。

 ゴキブリくんは机の上で動かず、ずっとボクを待っていた。

 「待ちくたびれたよ。はやく遊ぼうよ」

 なにして遊ぶ? 

 「トランプをもう一回やろうよ」

 ボクとゴキブリくんはトランプで神経衰弱をやり、五勝四敗でゴキブリくんが勝った。ゴキブリくんは勝ち誇っていて、とてもうれしそうだった。惜しかったな。あそこで間違わなければ勝っていたのに。ボクはゴキブリくんには聞こえないように呟いた。 

 その夜、ボクはトイレに行きたくなり、一階に行き、用をすました。トイレに行った後、なぜだか、いつも以上に喉が渇いていた。ゆっくりと、冷蔵庫を開けてジュースを取り出した。瞬時に、一気に飲み干す。ボクはチョコレートを手にし、部屋へと戻ろうとした。そのとき、隣の部屋が気になった。変に耳に障る、奇妙な呻き声が聞こえたからだ。そっとドアを開けると、母の姿があった。母はゴキブリスプレーをばら撒き、新聞紙で辺りかまわず床を叩きつけている。母の呻き声は、まるでゴキブリのように、ボクの頭の中を、かさかさと這い回り続けた。

 ボクは途端恐ろしくなり、一気に自分の部屋まで駆け上った。ボクは部屋の鍵を掛けて、すぐさまベットのなかでうずくまる。

 すると、ボクの耳元でカサカサという音がした。ボクはさっきのことがあったからか、目をつぶって、両手で耳を激しく塞いだ。

 数十分後には、あのカサカサという音も無事治まっていた。だが、ボクの手には、細い糸で触れられたような、こそばゆい感覚があった。もしかすると、ゴキブリくんではないのかと思い、手を見ると、たしかにゴキブリくんが張り付いていた。

 「どうしたんだい?そんな怖い顔をして」

 まさか、母があんな呻き声をだすなんて。と言うとゴキブリくんは驚いた顔をした。だが、ゴキブリくんは深い内容を訊いて来なかった。

 ボクは自分の左手にチョコレートがあることに気がつき、それをゴキブリくんにあげた。

ゴキブリくんは懸命に、少しずつチョコレートを食べている。ゴキブリくんがチョコレートを食べ終わった後、ボクたちはまた、にらめっこをした。

 そのおかげか、ボクはすっかり夜中の出来事は、忘れることができた。

 次の朝、ボクはゴキブリくんに起こされた。設定した目覚まし時計よりも、五分はやい。ボクは起きてすぐに、クローゼットから学校の制服を取り出した。できるだけ、素早く着替える。夏休みの宿題をちゃんとチェックして、かばんのなかにこまめに入れた。

 ボクは今日から久しぶりに学校に登校するのだ。ということは、夏休みの自由な時間はもうない。しかも、ゴキブリくんと出会ったのは運悪く、最終日だった。だからこれからは、冬休みが来るまで、午前の間は、ゴキブリくんには会えないことになる。ボクはゴキブリくんを連れてこようと思ったが、昨日のこともあったのでやめることにした。

 ボクは朝飯を食べて、冷蔵庫の中からチョコレートを取り出した。それから、自分の部屋に戻って、チョコレートをゴキブリくんに食べさせた。

 おいしい? 

 「もちろん」

 ゴキブリくんは、たしかに、美味しそうに食べている。

 少し様子を見た後、ドアを開けた。不意に、振り返ってみると、ゴキブリくんは寂しそうな顔をしていた。

 登校中、色々な昆虫に出会った。けれども、子供たちは、遊ぶために掴んで殺してしまっていた。大人たちは、まるで虫には気づかない様子で、何匹も踏み殺している。ボクはそれをみて、昆虫たちが可哀想だと思った。しかし、僕にとめることはできない。

 ボクはふと一匹のセミを眺めていた。そのセミは全身震えるほど、声を張り上げ、一人懸命に鳴いていた。その鳴き声はまるで泣いているかのように聞こえた。ボクは話しかけてみた。

 ねぇ、君ってどこで生まれたの?

 セミは何も反応しないようだ。ボクは何回も話しかけたが、結果は同じだった。

 学校に着いたとき、靴箱に一枚の手紙が入っていた。ボクは中身をみて、すぐに破り捨てた。

 教室はとても汚かった。ぼろくて、立て付けも悪い。シミもあり、いかにもゴキブリが住んでいそうな空間だった。

 ボクの席は窓際の一番後ろだった。この席はとても気にいってる。誰にも目立たないところなので、誰とも話さないで済む。たぶん、そのせいで静かである昆虫に興味がいったのかもしれない。

 今日は一時間目から理科だった。しかも、外に行って昆虫を探す授業だ。もちろん、ボクは一人行動だった。

 ボクは昆虫を掴まず、じっと観察している。昆虫には色々な模様や形があり、それらが昆虫のイメージをつくっている。

 テントウムシは赤と黒の斑点で、明るい色と暗い色が可愛い。形も丸いのがまたいいところだ。女の子とかは結構、好きかもしれない。

 カブトムシとクワガタは茶色ぽく少しゴキブリの色に似ているが、雄雄しい角がついている。それは男の子たちにはとってもかっこよくて、収集欲や闘争心をかもし出す。

 一方、ゴキブリは全身茶色のせいで汚くみえる。それに、カブトムシやクワガタのようにかっこいい角もない。そして、ゴキブリは汚いところにいるイメージがあり、みんなから気持ちが悪いと思われている。

 そんなことを考えていたら、いつのまにか授業が終わりかけていた。ボクは急いで教室に戻り、授業の感想を書いた。書き終えたときにはもう授業の終りのチャイムが鳴っていた。

 号令をした後、次の授業の準備をして、トイレに向かう。トイレのなかにはたくさんの人が集まっていた。ボクは気になって、みんなが注目しているなにかを見た。そこには、叩き殺されたゴキブリの山があった。耳障りな、歓声が沸いている。

 その後、ゴキブリたちはゴミ箱に投げ捨てられた。ボクはみんなが出た後、そっとティッシュで優しく包んで、土の中に埋めた。

 あとの授業はだらだらして、退屈な時間を過ごした。

 昼休み、特に話す人はいない。図書室に行って昆虫図鑑を読んだ。昆虫にはたくさんの種類がある。一匹、一匹、おもしろさ、独特さがあり、そんな特徴を見つけるのが楽しかった。

 昼休みが終わった後、また、同じようにだらだらと過ごした。

 気がついた時には、放課後だった。すぐに、かばんを背負って、走って家へと帰った。

 家に着く。ボクは冷蔵庫から、チョコレート取り出し、自分の部屋へ向かった。

 ドアを開けてすぐに、ゴキブリくんが目に入る。ゴキブリくんは机の上で眠っていた。ボクは起こさないように、そっと部屋を後にした。そのままにしておくと、チョコレートが溶けてしまうので、一旦冷蔵庫の中にでも、しまうことにする。

 そのあとはゴキブリくんが起きるまで、宿題を延々とやっていた。

 あれから、二時間くらいたって、ゴキブリくんは、やっと起きた。ボクはすぐに一階に降りて、冷蔵庫からチョコレート取り出した。未だ小さいゴキブリくんに、チョコレートを食べさせる。

 相変わらず、ゴキブリくんは少しずつ食べていた。それは、何回見ても飽きを感じさせない。

 ゴキブリくんが食べ終わった後、ボクたちはまた一緒に遊んだ。そして、夜になるとゴキブリくんとボクは一緒に寝るのだった。

 それから、ボクたちは一番の仲になった。

 ある日、ボクは喉が渇いていた。一階へ降りて、冷蔵庫のドアを開けた。ドアを開けてすぐに、ゴキブリがいることにボクは気づかない。実のところ、このときゴキブリを踏み殺してしまっていたのだ。そんなことすら気づかず、ジュースを一息に飲み干して、そのまま部屋へ戻った。

 部屋に戻ってきたとき、ゴキブリくんの姿はなかった。ゴキブリくんを部屋中探し回ったが、見つからない。部屋のどこにもいないので、まさかと思い、スリッパを脱いだ。そのスリッパの裏をみると、小さなゴキブリの死体があった。ボクはすぐに土に埋めて、墓をつくった。ボクは一日中泣き続けた。

 それから、一年程経った。ゴキブリくんのことはすっかり忘れている。ボクは空を見上げていた。空を見ていたら、何もかも忘れることができた。いいことも悪いことも、全部。空はどこまでも続いていて、世界中を覆っている。ボクの心も、きっと何かで覆われていて、だからこんなにも、何にもなくて。

 ボクは夜中に家へ戻った。父は心配そうな顔をしていたが、なぜだか怒りもしなかった。昔から父は、そうゆう人なのだ。

 ボクは冷蔵庫からチョコレートを取り出して、部屋へ戻った。チョコレートを食べながら、宿題をする。ぽろぽろとチョコレートのかすが落ちた。そのせいか、ゴキブリが現れた。ボクは気持ちが悪いと思い、スリッパで叩き殺した。何度も何度も叩き続けていたら、変な液体が出てきた。糸を引いていて、さらに気持ちが悪くなった。だからといって、そのまま置いておくわけもいかない。ティッシュを何十枚か使って、ゴキブリを包んだ。その後、ゴミ箱の中に投げ捨てた。

 その夜、ボクの耳の中でカサカサという音が広がっていた。その音はずっと鳴り止まないまま、頭の中を何度も何度も這い回る。

 ボクはあまりにもうるさいので、起きて、母にこのことを伝えた。すると母は、明日は学校を休んでもいいから、はやく病院で診てもらいなさいと言った。

 ボクは仕方なく、自分の部屋へ戻った。その音のせいで眠ることはできない。

 次の日の朝、父は心配した様子で、耳は大丈夫なのかと訊いてきた。ボクは父が遥か彼方で話しているような気がした。父はそのことに気づいたのか、すぐに病院に行くようにと母に言った。

 ボクは母と一緒に病院に行った。もちろん、その間もカサカサという音は治まらなかった。医師はボクの耳を見て、驚いた顔していた。

 「君の耳の中には無数のゴキブリが入っているんだ」

 母はその言葉を聞いて、戸惑いを隠せないのか、急に泣き始めた。

 母はボクが耳の聞こえが悪くなったのに泣いているのだろう。父と同様、ボクの思いを分かろうとせずに、身体的な外傷を、ただ泣いてるだけ。それはなんだかおかしかった。ボクッテアナタタチノナンナノ? 久しぶりに笑みが漏れた。

 するとボクは突然とゴキブリくんのことを思い出した。同時に、ゴキブリくんの復讐ではないのかという考えが浮かんできた。あのときゴキブリくんは死んだのではないのか。死んでいるのなら、復讐なんて不可能だ。でも、ボクは今こんな状況になっている。

 ボクは家に戻った後、ゴキブリくんの墓を掘ってみた。掘っていくと、白いものが現れた。ボクはそれを手に取った。軽い。見た所、それはティッシュだった。中を開けてみると、ゴキブリの死体があった。ゴキブリくんとこのゴキブリの姿を重ねてみる。ゴキブリくんの方が少し小さい気がした。たぶん、ゴキブリくんは生きている。しかし、なぜこの死体はあのときのままなのだろう。不思議だ。

 その夜、自分の部屋でゴキブリくんがやって来るのを待ち構えた。そうすると、ゴキブリくんは、ほんとうに姿を現した。

 ボクはゴキブリくんが現れたと同時に許してもらえるまで、必死に謝り続けた。ゴキブリくんはひどく泣いている。

 「もうしないのなら、許してあげるよ」

 ゴキブリくんのかぼそい声。

 ボクはそれが、なぜだか自分のように思えた。

 誰しも、弱いものには傲慢なのだ。つい、なんでボクだけなの? 他の人だって、ゴキブリを殺してんじゃないの? と問い詰めていた。

 「・・・・・・一度結ばれた仲だからこそ、裏切られたときの痛みは大きいし、それは決して許すべきことではないんだ、だから・・・・・・」

 ゴキブリくんは、今にも消えそうな声で、そう呟いた。

 その夜以来、姿を消した。ボクはゴキブリくんがいないのにもかかわらず、忘れないようにと、半年間、ずっと謝り続けていた。まるで神様を祈るかのように。そして、ゴキブリくんはいないときよりも、ずっとそこにいた。神様だってそうなの? それはボクに分かるようなことではなかった。

 中学生になった頃。ボクはまたもすっかりとゴキブリくんのことを忘れてしまった。ボクは虫の研究をしている。研究のために何匹の虫たちを殺した。

 ボクは少し疲れたので、保健室に行った。保健室はいつも静かで、誰もいない。ここもひとつのお気に入りの場所である。ボクは放課後になるまで、保健室で時間を過ごした。

 ここはどこだろう。ボクはどこにいるんだろう。そしてボクの居場所は、ドコナンダ?

 それから家に帰った。自分の部屋へ行くと、二匹のゴキブリが交尾している光景が飛び込んできた。ゴキブリが増えたら、困るのでボクはこのゴキブリたちを殺すことにした。ボクは新聞紙を丸めて、ゴキブリたちに気づかれないように近づく。ボクはおもいっきり新聞紙を振り下ろした。すると、ねちゃねちゃとした精液となにかが糸を引く。もう一度、もう一度、もう一度・・・・・・ボクはゴキブリたちが死んでも叩き続けた。この光景は以前にも見た気がするけど、気のせいかな? そんな疑問を抱えたまま、ボクは叩き殺し続けた。

 それから正気に戻るまで、相当の時間がたった。ボクは数十枚のティッシュを使って、ゴキブリ二匹を包んだ。その二匹のゴキブリをゴミ箱のなかに投げ込んだ。部屋に戻ったとき、一匹のゴキブリがボクの右足の側を通り過ぎた。ボクは教科書を使って、殺そうとしたが、そのときにはもうゴキブリの姿はなくなった。

 その夜、ボクは夢をみた。

 ボクは自分の部屋のベットで眠っていた。突然、外でガタンという物凄い音が鳴った。ボクは驚いて、ベッドから転げ落ちた。立ち上がり、慎重に窓を開ける。目に入ったのは、なんとも変てこなものだった。まるでゴキブリが人間のように、楽しそうに食事をしているのだ。それはなんだかおかしくて、つい笑ってしまった。そのせいでボクはゴキブリに見つかった。

 「ニンゲンが出てきている。ニンゲンスプレーでもばら撒くか」

 ボクはそのゴキブリにスプレーをかけられた。全身に麻痺するような毒が回る。ボクはまるでゴキブリのようにのたうち回ったのだった。

 ボクはそこで目を覚ました。ゴキブリくんのことを思い出す。ゴキブリくんはボクのことを呪っているのではないか。

 そのとき、蠢くような奇怪な音が聞こえた。ボクはその瞬間、耳が爆発するのを感じた。それは燃える様に熱く、耳を押さえると赤い液体がどろりとこぼれ落ちた。ボクは母の元へ夢中で走っていた。

 母さん、助けてボクの耳が、耳がなくなっちゃったんだ!

 ボクは夜中にもかかわらず、叫んでいた。母はその叫びに驚いて、すぐにボクのもとに来た。父は驚きながらも、急いで救急車を呼んだ。母はボクになにか話していたようだが、全然耳に入らなかった。

 救急車に運ばれ、病院に着いた。医師はボクに色々な検査を施した。その結果、医師は一枚の紙に、ボクの聴覚が失われていることを伝えた。母と父は以前に、耳の調子が悪くなったときよりひどく叫んで泣いていた。そんなことは、どうでもよかったけど、昆虫を調べるのには不便になるだろう。ボクは腸の煮えたぎる思いを隠すことはできなかった。このことをやったのは、ゴキブリくんだろう。このことを両親に伝えた。すると父はボクを相手にしなかったが、母はなぜか納得したような顔をしていた。

 聴覚を失ったことのほとぼりが冷めてから、母とボクは、山ほどのゴキブリスプレーやらを買い込んだ。

 ゴキブリくん、君のことを許すことはできない。たしかにゴキブリを殺したことは悪いかもしれないが、ここまでする必要はないではないか。

 そう呟きながら、自分の部屋にゴキブリスプレーをばら撒いた。

 ボクはその夜、両親の部屋で寝ることにした。両親と一緒に寝るのは嫌だったが、スプレーくさいあの部屋で眠るのはもっとごめんだ。瞳を閉じると、すぐ眠気が襲ってきた。だが、夜が深まったとき、あの嫌な蠢く音が聞こえた。その音に耳を傾けてみると、ブツブツと呪文のようなものが聞こえた。ボクはその音が恐ろしくて両手で耳を塞いだ。それでも、あの嫌な音は治まらなかった。

 次の日、ボクは寝ることができなかった。両親を起こすために叫んだ。それでも、起きなかったので、体を揺らした。そしたら、母は起きてボクの顔を見た。その瞬間、母は突然叫んだ。

 母はボクの首に力強い力で両手を回した。ボクは必死に母の手を払い、部屋を出て行った。ボクは洗面所で顔を洗った。さっきのは気のせいだ。きっとそうだ。ボクはもう一度両親の部屋に入ることにした。階段にあがっていく途中、所々赤い液体がついていた。ボクはドアを開けて、歩いたら、サッカーボールのようなものに当たった。よく見るとそれは生首だった。

 心臓が止まりそうになった。父の生首。ボクはなにがなんだか分からなくなる。誰が何のために、どんな目的で? そんなことはどうでもよかった。ただ今のこの状況は夢としか考えられなかった。とにかく叫ぼうと思ったが、声はかすれて出なかった。ただ呆然と、父を見つめ・・・・・・

 さっきから、和室の方に視線を感じる。ボクはゆっくり、視線を上げていった。

 小さな穴の開いた襖から、ひどく血潮の張り付いた目玉がこちらを睨んでいた。心臓が飛び上がるのを感じる。ボクはもう呼吸をすることはできなかった。それが誰だか、ボクにはすぐ理解することができた。母だ。父を殺したのも、今からボクを殺そうとしているあの目も、母だ。

 ボクの意識は、そこで途切れた。

 ボクは目を覚ました。目を覚ました場所は病院だった。ボクは驚いて飛び起きた。そしたら、体中が痛み始めた。ボクの体は傷だらけになっていたのだ。だれかが、ボクの前に立って、紙にその傷は君の母親にやられたものだよ。と書いてあった。よくみると、彼は警察官だった。ボクは警察がなんのようなだろうと不思議そうな顔をしていたら、それを察した、警察が紙に母のことで少し聞かせたいことがあるだけだよ。と書いたが、それでも、ボクがまだ不思議そうな顔をしたので、紙に自分の意志で殺ったかもしれないんだ。と書いた。それから、警察は長々と紙に文字を書いていた。その紙をボクに渡した。どうやら君の母は君と同じように両耳を失ったようだ。そして彼女はその原因がゴキブリだと感づいた、それは君の時もそうだったからだろう。さらに彼女はゴキブリに一種のトラウマを抱えていたことが明らかになっている。実は彼女も幼い頃、ゴキブリに聴覚を少しくらい奪われたんだ。そのこともあって、今回ので彼女の気はおかしくなってしまった。それは君のことや夫のことなんかの家庭問題と相まって、より強くなったということさ。警察官の僕が言うのもなんだけど、実は僕もさ・・・・・・

 ボクは警察官の様子がおかしくなったことに気がついた。顔が変色し始めていたのだ。茶色へと、輪郭もぐにゃぐにゃと丸こっくなっていき、おまけに触角が生え始めた。それはもうまったくもってゴキブリだった。

 ボクは恐ろしくなって、逃げた。傷が痛みながらも、ボクは外へと走っていった。警察がボクの後に追っていたが、そのうち追いかけてこなくなった。ボクはそれでもただ走り続けた。ボクはいつのまにか、町外れの場所に来ていた。人がおらず、家も全くなかった。

 だが、花がたくさん咲いていた。とても綺麗な花だ。僕の住んでいる場所でこんなに綺麗な花は見たことがなかった。ボクはその花をちぎった。その花を持ちながら、少し歩くことにした。

 そのうち、異常に大きな建物を見つけた。だんだん近づくにつれて、建物の大きさは増すばかりであった。

 ボクは目の前で家の周辺を見て、驚いた。庭の草の手入れをしていなくて、ゴミ袋の山ができてたりしていた。ここは、人間が暮らせるような環境には見えなかった。しかも、生の肉が腐ったような臭いがした。ボクは一応、人がいるのかを確かめるためにチャイムを鳴らした。・・・・・・誰も反応しなかった。ボクはもしかしてと思い、ドアノブを手に掛けた。引いてみると、扉は開いた。玄関にもゴミ袋の山ができていた。それをどかして、家の中に入ってみた。その家はボクの家と全く一緒だった。ボクはあらゆる部屋を見て回ったが、家具もすべて一緒だった。ボクは最後に自分の部屋と一緒のところを開けてみた。そしたら、無数のゴキブリたちがボクを待ち構えたかのように一斉に襲ってきた。

 だが、ボクはそいつらを殴ったり、蹴ったりして、殺した。ゴキブリを殺すたびにゴキブリの体内から、血のようにぷしゅと液体が溢れ出てきている。ただ前に進んでいった。

 いつしか、前に光らしきものがあった。ボクはそれを通るため、ゴキブリを振り払い、走った。走る間、ゴキブリたちは人間のように情けない声で鳴いていた。それに構わず、光の方へ行った。・・・・・・ 

・・・・・・病室だった。ボクはどうやって、ここに戻ったのかが分からず、ただ、ボッーと窓を眺めていた。そのうち、医師が来て、紙に、君の聴覚は失ったと書かれていた。警察が来ることはなかった。僕はさっきのことは夢に思えていた。だが、なぜかボクの手には、夢で取ったあの綺麗な花が持っていた。

 ボクは家に帰っていた。医師には特に体は大丈夫だから退院しなさいと言われた。

 家に帰ったら、部屋には明かりがついていた。ボクはおかしいと思った。母は警察に行っていて、父は死んでいるはずなのに、と思い、急いで家に入った。明かりがついていた部屋には、父と母が座っていた。

 どうやら、ボクはいままで夢を見ていたんだ。ボクはホッとし、部屋に戻って、部屋で寝に入った。

 次の日、ボクはいつもよりはやく起きた。ボクは朝ごはんを食べるために、食卓の方に降りていった。

 食卓に着いたのだが、誰もいなかった。ボクは両親を一生懸命になって探した、が、見つからなかった。所々、ゴキブリが通っていくのは見えた。最後に両親の部屋に入った。そこには、両親二人が寝ていた。ボクは両親二人の所にそっと近づいた。両親の顔の方の布団の隙間から、虫のような触角が出てきた。不思議に思い、布団をめくると、なんと、それは両親ではなく、ゴキブリだった。ボクは恐ろしくなり、そこらへんにあった鈍器でそのゴキブリたちを殴った。何回も何十回も何百回も気が済むまで殴った。僕が気づいたときはゴキブリたちは変な液体が体内に出てきて死んでいた。まるでその死体は人間の死体に見えてきた。ボクはすぐに両親の部屋を出た。

 その出た先には、見覚えのない部屋があった。

 目が覚めたら、見覚えのない歳をとったおじさんと見覚えのある警察の服装をした若い男がいた。その警察は、ボクが病室にいたときに両親の事件のことで聞いてきた奴だった。その警察は紙をボクに見せた。その紙にはこう書いていた。

 君がいきなり病室に飛び出すから、僕は一生懸命に君を追いかけたんだ。そして、君を捕まえて、病室に戻らせようとしたら、君はいきなり僕を殴ったり、蹴ったりして、僕を殺そうとしたんだよ。でも、僕は警察だからなんとか君の攻撃から、逃れることができて、君を腕で締め付けようとしたら、君が僕の腕を噛み付いて、何処かに行ってしまったよ。僕は他の警察の人を呼んで、皆で君を探したんだよ。そしたら、君はこの人の家の前にいたんだよ。

 長々と書いてあった。ボクはこれを聞いて、今までのことは夢だと判断した。そして、あの見覚えのないおじさんの部屋で、ボクはたまたまここにいることが分かった。

 その夜、ボクはなぜか見覚えのない叔父さんの家に泊まることになった。警察が君の家は取り調べ中だから、この叔父さんの家に泊まりなさいと言われたからかもしれない。だが、ボクが思うにはこの叔父さんの家に泊まると言うよりも、両親の事件が起こってから、この叔父さんの家で暮らしていなければならない。

 この叔父さんはボクが飯を食べているとき、険しい顔でボクを睨みつけていた。ボクはそれで、緊張しご飯を落としてしまった。そのとき、叔父さんはボクに借金取りみたいな口調で言った。

 ボクはぶっ叩かれた。その強い衝撃が頬に当たり、口から血が出ていた。さすがに、叔父さんはヤバイと思い、応急処置をするのかと思いきや、僕の腕を鷲づかみ、もう片方の手で箸を握らせた。

 叔父さんが恐ろしくなった。ボクは体を震わせながら、血を吐きながら、飯を食った。血の味しかしなかった。

 ボクが飯を食べた後、叔父さんはボクの吐いた血を懸命に拭いていた。ボクはその間、洗面所に行って、口を濯いだ。そこまでひどい傷ではなかったので、もう、ほとんど血が止まっていた。

 洗面所から出たら、叔父さんはもう、ボクの血を拭き取るの終わっていた。見事に血の跡もなく、綺麗になっていた。叔父さんは血が止まったことが分かって、ボクに皿洗いをするように指示する。ボクは逆らうことができないので、仕方なく皿を洗う。

 叔父さんは新聞を読んでいて、そのときの顔は悲惨だった。何かあったのかと気になり、皿を持ったまま、叔父さんの読んでいる新聞を見ようとした。そのとき、ボクは後ろ歩きで行っていたので、左の肩に何かが当たり、皿が落ちて割れてしまった。叔父さんはその音を聞いた瞬間、立ち上がり、ボクに近づいた。そして、ボクの頬を拳で思いっ切りに殴った。前よりも相当な衝撃がボクに喰らった。口からまたもや血が出ており、歯が二、三本折れた。

 冷酷な目でボクを睨みつけた。ボクはさらに恐ろしくなり、外に出た。

 ボクは自分の家に帰るため、全力で走った。どう行ったら、自分の家に着くかも分からないが、それでも、とにかく走り続ける。ボクはだらだらと口から血が流れて、強烈な痛みを襲った。だが、今のボクにはそんな痛みなんかよりも、普通の生活に戻りたかった。だから、そのためにはこの痛みに耐え続けることがいいと思っていた。

 いつのまにか、ボクは叔父さんの玄関の前にいた。ボクは扉をドンドンと叩いた。叔父さんは少しだけ扉を開いて、ボクだということを確認すると、玄関の扉を開いて、ボクを迎えてくれた。叔父さんは少しだけ僕のことを心配してくれた。

 ボクは叔父さんに布団を敷いてもらった。その後、叔父さんは障子を開いて、別の部屋へと行こうとしていた。叔父さんとボクはどうやら別々の部屋で寝るそうだ。障子を閉める前に僕の顔を見た。それで、叔父さんはボクの頬を指した。痛いのかと言っているのかなと思い、ボクは静かに頷いた。

 今度こそ、振り返らず障子を閉めて、何処かに行ってしまった。

 ボクは叔父さんが殴ったのは僕のせいだと思った。ご飯を落としたのも、皿を割ったのも、ボクの不注意で起こったことなので、ボクが気をつけてやれば、叔父さんは怒らなくても済む。

 そんなこと思っていたら、障子が開く音がした。僕はその音がした障子のほうを見たら、叔父さんがいた。叔父さんの右手には、タオルを持っていた。それを僕に向けて投げた。ボクは見事にそれをキャッチをすることができた。そのとき、冷たい感触がした。よく見ると、タオルに何かが巻かれていた。それを見ると、袋の中に氷水が入ったものがあった。

 叔父さんは僕のほうを振り返らずにそのまま障子を閉め、また何処かへ行った。ボクは嬉しかった。この叔父さんはとてもいい人だ。何も悪いことをしなければ、叔父さんは優しくしてくれるんだと思った。だが、そういう風に思ったのはこの日だけだった。

 翌日、ボクは叔父さんに起こさせてもらった。やっぱりいい人だなと思った。朝ごはんも叔父さんが作ってくれた。叔父さんの作った料理は、鮭を焼いたものと玉子焼きと味噌汁とごはんというどこにもあるような朝ごはんであった。ボクはこういう和食のものは好きで、ゆっくりと味わって食べていた。

 そしたら、叔父さんはいきなり切れ始め、何かを叫んだ。それで、殴ろうと手を挙げた。

 ボクはまた殴られてしまうのかと思い、手で自分の顔を守ろうとした。叔父さんはそれを見て、殴るのを止めて、それから、箸を持って、ご飯を猛スピードで食べるフリをした。たぶん、早く食べろと言いたいのだろう。

 ボクは叔父さんに言われた通り、はやく朝ごはんを食べた。

 朝ごはんを食べた後、叔父さんがボクを野菜を育てているところに連れて来た。

 叔父さんは畑のほうを指して、その後自分のほうを指した。どうやら、この叔父さんの畑のようだ。

 この畑は、ボクがいままで見た中で一番広い土地だった。野菜の種類もたくさんあった。きゅうり、トマト、ピーマン、にんじん、キャベツ、などがあった。どれも新鮮で美味しそうだった。叔父さんは嬉しそうに野菜たちを眺めていた。僕もそれを見て、嬉しくなった。叔父さんはそれを少し眺めたら、どこかに行こうとしていた。ボクは叔父さんについていったら、小屋みたいなところに着いた。

 そこには、さまざまな動物達がいた。鶏、豚、牛、馬、羊、兎、などを飼っている。ボクはあまり、動物は好きではなかったが、叔父さんがボクの怖がっている姿を見て、兎を持ってきた。そして、叔父さんは兎をボクに無理やり抱っこさせた。

 ボクは少し怖かったが、触ると毛がもふもふしていたので、ボクはそれが気持ちよくて、何度も触っていた。兎は触れて、気持ちよさそうに目を細めていた。そんな顔がボクは可愛かったので、また触った。そんな光景を見ていた、叔父さんはにやりっと微笑んだ。

 どうやら、叔父さんはボクが動物嫌いと勘付いて、可愛い兎を抱っこさせたんだ。ボクは叔父さんの優しさが感じるようになった。

 動物が好きなって、ボクは色々な動物たちと触れ合った。どれもこれも可愛かった。

 豚は顔がバカっぽく見えて、凄く可愛いし、鼻だけが、色が違うのがとても面白かった。

 牛は顔が豚と同様、バカっぽく見えて、可愛かった。豚と違うのは、模様だった。牛には色々な模様があり、それが面白く色々な牛の模様を眺めていた。世界地図のような模様や子供がお漏らししたみたいな模様やテントウムシのような斑点の模様など、様々な模様があった。

 鶏は触ろうとすると、突付いてきて、コケッと威嚇を始めて、結構、強暴だった。でも、突付かれてもたいした痛みもないし、威嚇されたら逆にこっちにとっては可愛く思えた。ボクは何故か少しだけ、ゴキブリと重なって見えた。

 ボクはゴキブリを思い出してしまって、少し気分が悪くなった。そんなときに叔父さんが鍬を持って、僕に近づこうとした。ボクは咄嗟のことだったので、頭をかばおうとして、手を頭を隠した。そのボクの行動を見て叔父さんは不思議な顔をした。 

 あれっ、攻撃してこないなあ。あっそうか、よく考えたら、畑の道具を取りにここに来たんだよなあ。と思い、ボクは叔父さんに近づき、二つ持ってあった鍬を一つ取った。叔父さんはそれを見て、不思議そうな顔をやめ、仕事モードの顔になった。

 それから、畑に戻り用意した鍬で、土を掘っていた。どうやら、また新しく畑を作るのだと思い、ボクも叔父さんと同じように鍬を使った。ボクは鍬を使ったのが初めてだったので、慣れない手つきで土を掘った。時々、深く掘ってしまった土もあった。それを見て、叔父さんは僕のほうに近づき、鍬を持ってどのくらい土を掘ればいいのかをボクと一緒に鍬を持って、教えてくれた。ボクは結構自分で言うのはなんですが、器用なんです。一回説明されたら、なんでもこなすことが出来る。だから、ボクはさっきよりも、丁寧に土を耕すことに成功した。

 畑仕事というのは、意外にも大変だということに気がつきました。これをよく一人で畑仕事をこなすなんて、叔父さんはやっぱ凄い人なんだなあと思って、尊敬している自分がいました。

 ボクは耕すの終えて、家に帰ることにした。否、叔父さんがもう帰りなさいと言ったから帰ることにした。もう少し、やりたかったが、そこまでわがままを言う必要はないだろう。ボクは家に帰って、すぐに飯の支度をした。叔父さんは疲れて、飯を作る気力が無くなるだろう、と思って感謝の気持ちを込めて、料理を作ることにした。だが、何を作ればいいのかボクには分からなかった。だから、料理本を探し出して、それを見ながら作ることにした。ごはん、味噌汁、焼き鮭、肉じゃがでいいだろう。ボクは料理本を見ながら、味見をせずに作った。そして、二時間ぐらいかけて、やっと出来た。初めてのわりにはよく出来たほうだと思う。自分が作った食事を皿に移して、机の上に置いた。ボクは叔父さんが疲れて帰ってくるのが楽しみだった。たぶん、叔父さんが机の上に置いてある食事を見て、これはお前が作ったのかと指で示すはずだ。それでガツガツと食べてくれるだろう。そして、親指をボクに向けて立てるだろう。ボクは楽しみで、はやく時間が経って欲しいと願っていた。

 そして、数十分後叔父さんは疲れた顔をしながら帰った。机の上に置いてある食事に目が入った。そこで、ボクは食事を指し、そのあと自分の方に指した。自分が作ったということを分かってもらいたかった。だが、叔父さんは無反応。叔父さんはボクの作った食事とボクに軽蔑の目を向けて、キッチンの方に行って、自分の分の食事を作り始めた。ボクは不思議に思い、食材を包丁で切ったいる途中に叔父さんの腕を揺らした。そのせいで、叔父さんの手はぶれて、間違えて指を切ってしまった。その瞬間、叔父さんの頭がぷつんと血管が切れる音がした。ボクはまた叔父さんを怒らせてしまったのだろう。叔父さんはボクの作った食事が置いてある机を持ち上げて、それを壁に投げつけた。それで、ボクの作った食事は台無し。ボクは涙を流しながら、床に落ちている食事を拾う。拾ったものは皿に載せて、ある程度拾えたら、叔父さんの目の前に立って、それを見せ付けた。ボクは自分で作った食事を叔父さんに食べてもらいたかった。だから、涙を流しながらも、精一杯の笑顔を叔父さんに向けて、美味しく食べてくださいと示した。でも、叔父さんはそれをボクの手から奪って、壁に投げ捨てた。あ、そうか。叔父さんは肉じゃがを食いたくないんだ。じゃあ、焼き鮭ならどうだ。ボクは落ちている焼き鮭を皿に載せて、叔父さんに渡そうとした。叔父さんは同じように壁に投げ捨てた。じゃあ、ご飯は。ボクは皿に残っていたご飯を叔父さんに渡した。でも、叔父さんはまた同じように壁に投げ捨てた。最後は味噌汁。味噌汁は液体なので、すぐに畳に染み付いて、取り出すことは出来なかった。

 ああ、折角苦労して作ったのに。なんでだよ、叔父さん。ボクが何をやったってんだよ。一口でも食っても良いじゃないか。なんで、叔父さん、ボクがまたいけないことをしたの。教えてよ、叔父さん。

 ボクは落ちている食事のことをあきらめ、叔父さんの方に振り向いた。は! 一瞬だけ触角のようなものが見えた。そうか、そういうことだったんだ。今の叔父さんはさっきまでの叔父さんとは違う。ゴキブリによって操られているかゴキブリが変装しているのか分からないけど、叔父さんがこうなったのも全部ゴキブリのせいなんだ。

 うわあああ。ボクは叔父さんじゃない叔父さんに突撃した。そして、何度も殴った。気が済むまで。そこで、ボクはあること思った。この殴った感触はあのゴキブリを殴り殺したときの感触と一緒だった。矢張り、叔父さんじゃなかった。ゴキブリが変装しているに違いない。許さない、叔父さんをこんな風にしたゴキブリを。ボクは死んだのを確認した後、家から飛び出た。それから、小屋みたいなところに行った。そこに本当の叔父さんがいるに違いない。そこには叔父さんはいなく、動物たちがいた。そして、ボクのお気に入りの兎を抱っこして、叔父さんはどこにいるのだろうか? と考えた。その瞬間、兎の耳の近くから、触角みたいなものが見えた。この兎もゴキブリによって変装しているんだ。ボクは兎を腕から離し、立ててあった鍬を持ち、兎に攻撃をした。否、八つ殺しにした。原型が分からなくなっていた。僕にはゴキブリの死体に見えた。矢張り、ゴキブリだった。やっと本性を現しやがったな。

 そう思った矢先、そこら辺にいた 鶏、豚、牛、馬、羊などの動物がボクに攻撃してきた。それで、その動物たちの耳の近くには触角がついていた。こいつらもゴキブリなんだな。許さない、僕たちの周りにいる動物やら叔父さんに危害を加えたことを。ボクは全てのゴキブリを殺した。動物の姿をしていたはずなのに、死んだときにはゴキブリの姿をしていた。

 そして、ボクは唐突に走り出した。あの叔父さんや動物たちを探すために。そうすると、前方に誰かがいた。ボクが近づくと、そいつも一緒に同じくらいの距離まで近づいてくる。そして、顔が見えたとき、ボクは驚いた。その顔は剣幕な顔をしていて、この世のものではなかった。次の瞬間、そいつの頭のところから触角のようなものが見えた。こいつもなのか。こいつもゴキブリなんだ。ボクは鍬をそいつの頭に目掛けてやった。そうすると、バリンという音が鳴る。そこで、ボクは気づく。これは鏡だったんだ。ボクを映していたんだ。

 はっはっはっはっはっは・・・・・・ボクは割れた破片を拾った。それを目に刺そうと思ったのだが、何故かボクは耳を持って、その破片で切ろうとしていた。僕は迷いも無く、使え物にならない耳を切った。一つ、二つ、とボクの耳は完璧になくなった。辺りは静寂が続いている。否、元々続いていたか。急激に切ったところが痛み始めた。

 うわあああ、ボクは走り続けた。痛みを和らげるために。ふらふらしながら、歩いていると、何かに躓いて、無様に扱けてしまった。辺りを見上げると、そこにはいつの日か見たあのたくさんの綺麗な花が咲いているところだ。ボクは一つだけあの綺麗な花を取ろうとしたが、やめた。そんなことをしても意味がないから。ボクは一人、夜な夜な苦しげに叫んで歩いている。どこに行けばいいのだろうか? あの大きな建物を見つけなければならないのだろうか? ボクにはどうすればいいのか分からなかった。とにかく、ボクは歩き始めた。その瞬間、耳の中からカサカサという音がした。耳がなくなったはずなのに、まだそれは続いていた。ボクはゴキブリと闘わなければならないのだろうか? ボクの生きる場所はあるのだろうか? ボクは幸せになれないのだろうか? ああ、戻りたい。あの優しい日々に。

 誰も救ってくれないのだろうか? こんな弱々しいボクを。ああ、救ってください。なんでもいいんです。一杯の水でもいいです。少しでもボクのために恵んでください。お願いします。まだ生きたいんです。死にたくないんです。こんなところで。お願いです、米一粒でもいいんです。ああ、許してください、ゴキブリくん。もう、二度とあんなことはしません。なんでもしますから、だから、あの日常を戻してください。耐えれません。ボクには荷が重すぎです。もう、ゴキブリくんの苦しみが少しだけでも分かったから。だから、返してください。戻してください。僕の日常を。

 ・・・・・・ボクは目を覚ました。そこはボクの部屋であった。ボクは起きようとしたが、体が言うことを聞かず、ボクは動けなかった。でも、安心した。下には母と父の声が聞こえている。はあ、安堵の息を吐いた。

 ボクはただ父と母が帰ったことに素直に喜んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ