クエスト
呼んだのだが……。
「ちょっとアンタ! ぶつかっておいて謝りもしないわけっ!」
呼んだ方向から怒鳴り声が聞こえてくる。
見れば、新人の女が一人ごつい男5人組に絡んでいた。
「なんだ? あれ」
「あの子たち……」
突っかかていた、剣を装備している金髪ロングの女が一人の男の前に立ちふさがる。
「ああん? なんだ」
「なんだ、じゃないわよ。ぶつかってきたんだから謝んなさいっていうのよ!
リファが怪我したじゃないの!?」
「はあ?」
「まって、ルリアちゃん、少し膝を擦りむいただけだから……」
「だから言ってんのよ、リファも舐められて悔しくないの?」
「わたしは別に……」
「アンタはそうやって。とにかく、謝んなんなさいっていうのよ」
どうやら、銀髪ロングと金髪ロングの新人二人が、他の冒険者ともめているようだった。
ていうかおい、あれヤバくねえか。
「るっせーな」
「どうしたんだ?」
「このガキが、ぶつかっただの、怪我しただの、突っかかてきたんだよ」
「へ~」
「お嬢ちゃんたち、オレ達と遊びたいのか?」
「はあ? そんなんじゃないわよ!」
「ああそうかよっ」
「きゃっ!?」
突然男が突っかかっていた女の胸ぐらをつかみ上げた。
「ルリアっ!」
「あ~、くそっ。何やってんだあのガキども」
「ジンさん?」
「うるせえ……」
めんどくさがりながら俺は席を立った。あー、酔いで頭いてえ。
「うっ、っく……」
「新人の癖にそうわめくなよ」
「なんだこいつ、泣きそうじゃねえか、ギャハハハ――」
「そこまでにしとけ」
それで新人を掴み上げていた腕を俺は掴んだ。
「ああ? って、ジン!?」
驚いた男が、新人を放す。
「理由は知らねえけどよぉ、女子供に手は出すもんじゃねえ。こいつらには俺から言っておく。だから行けよ。忙しいだろ?」
「あ、ああ……。行くぞお前ら」
そう言うと、男たちはギルドを出て行った。
「で? お前ら、大丈夫か」
下された方の新人が立ち上がりこちらを睨む。
「別に助けてなんて頼んでないのだけど!」
「ルリア、助けてもらったんだからそんな言い方……」
「なんだか知らねえが、いちいち突っかかるなよ。お前、そんなんじゃ、この先ボコられても文句は言えねぇぞ」
「し、知らないわよ」
「………」
なんなんだ、コイツは。
「ジンさん、酔いが回ってるところありがとうございます」
「ああ」
ナイルさんも近寄って来ていた。
「それで、先ほどの話なのですが……。この二人について行ってあげてほしいのです」
「はあ? お前、ついてあげて欲しいって、こいつらに?」
「はい。この通り、癖がある子たちで。他の方には断られてしまったのです。お願いします」
「………」
頭を下げられてしまった。
「ちょっと待って、ナイルさん。嫌よこんな野蛮原人。それに同行がなくたって私たち二人で大丈夫よ。ねえリファ」
「わたしは別に……」
「ダメです。ルールですから」
金髪の方がほほを膨らませている。
もう片方はオドオドしているし。確かに問題ありだな。
「いや」
「ダメです」
「いや」
「ダメですって」
なんか言い争ってるし。
「だあっ、るっせえな! 分かったよ、ついて行ってやるよ。おら、依頼書渡せ」
二人を遮って、手を差し出した。
「だから嫌だって」
「これです」
銀髪のもう一人のほうが渡してくれる。
「山に行ってドラゴンの討伐だぁ?」
渡された依頼書を見て、びっくりだ。ドラゴンの討伐。それもAランクの印が押されている。
こいつら新人じゃないのか。
「あっ、勝手にこんなの取って。いいですか、アナタたちはFランクです、しっかりと自分のものを選んでって言いましたよね?」
「別に、いいじゃない。別にドラゴンぐらい余裕よ。ね、リファ」
「わたしは、無理だと思うな……」
「リファ」
ただのバカだったらしい。
「はあ……。ちょっと待ってろ」
俺は、依頼書が張られているクエストボードへと行き、Aランクの依頼書を張り直し、代わりFランクのものを持って来る。
「おら、お前らにはこれぐらいがちょうどいい」
とってきた依頼書を渡す。
「なによこれ。薬草の採取? ふざけてんの!?」
うるせえ……。
「これでいいか?」
「はい。ありがとうございます。それじゃあ、二人のことお願いしますね」
「今からかよ。つか、マジで?」
「はい。マジです」
「チッ、おら行くぞガキども」
「は、はい……。よろしくお願いいします」
「ちょっと、何勝手に話進めてるの!?」
「あっ、待ってください」
「まだ何か?」
行こうとしたところ止められて、頭に手を当てられる。
「キュア――酔ったままではよくないですから」
光が瞬いて、次の瞬間には頭に響いていた酔いの鈍痛がきれいさっぱり消えていた。
「回復系のスキル。こう見えても使えるので。あ、でもこれを気に酔い直しに私を使おうなんて思わないでくださいね」
「あ、ああ。ありがと」
「いえ、ではよろしくお願いします」
こうして、不意に新人のおもりをすることになった。