ギルド
「申し訳ありませんが、ジンさんは本日よりDランクと受けたまっておりまして」
「はあ?」
ギルドに来て仕事を受けようとするも、受付嬢のナイルさんに門前払いを受けた。
「どういうことだ?」
「ジンさんがパーティー『銀翼』を抜けたと訊いています。なので、ルールによってパーティーが抜けた人はギルドランクが下がることになっています」
「でもよ、それはついさっきの話だろうが。まだパーティー脱退は申請されていないだろ」「いえ、二日ほど前から既にされていましたが」
「はあ?」
あいつら、まさか最初から俺を追い出すつもりで……。
「チッ――! だとしてもよう、ランクが下がりすぎだろう。Dランクなんて小銭稼ぎにしかならないじゃねか!」
「と、言われましても。決まってしまったことなので……」
ギルドのランクはS~Fと存在している。Dランクは下から二番目。以来の数も少なければ、一回の仕事で大金を稼ぐことも難しい。
ランクが下がるのは知っていた。だが、それは明らかに下がりすぎだ。Sランクだぞ、下がってもソロだとしてもB程度が適正じゃないか。
これからの生活を考えると、最後に稼いで落ち着いて今後のことを考えようと思ったがこれではどうにもならない。
「わかったよ」
受付のナイルさんには罪はない。突っかかっても仕方ない。
俺はギルドの受付から離れ、机に座った。
「クソ、あいつらめ、最初からその気だったのかよ」
「あのぉ? なにかご注文あります?」
「ああん?」
ここのギルドは酒場もセットで経営している。いつの間にかウエイトのねーちゃんが声をかけてきていた。
「あの注文を……。なんだかジンさんお疲れのようだったので……」
「………」
「ひゃ、に、睨まないでください」
「別に睨んじゃねぇよ。はあ、わるい。酒をくれ」
目つきが悪いのは知っているが、そんなに怯えなくても。顔見知りだろうが。
つか、こいついつもおびえているな。よくこの場でやって行けるもんだわ。
酒なんて飲んでいる場合ではないが、正直飲んでなきゃやってられなかった。
いきなりパーティーを追い出されて、お前はDランクだ?
ふざけろボケ……。
はあ、これからどうしろっていうんだ。
出された酒を飲んで、横目で、ギルド内を見渡す。
「今日はやけに多いな……」
様々な人がいるが、今日はやけに人が多く感じる。
それも、13,14ほどの子供。
「――そうか、成人したやつらがギルドへ登録する頃か」
この国の成人は14歳だ。時期は4月。ちょうど成人したガキどもがギルドに登録を済ませ、仕事を始めるころ。
あいつら、まさかこれを機に、貴族で若い連中で才能を持ってるやつを捕まえようってか?
「ハハッ――貴族も大変だな。」
どうせ、周りの貴族どうしの身内感につきあわされたんだろう。平民のパーティーと同じことをするぐらいなら、Sパーティーに加えて一緒にまなばさせると。
まあそんなこと実際はどうだか知らないが、この国の貴族連中は俺ら平民を見下す傾向がある。貴族の誇りだのなんだの。
結局は金と利権しか見えていない連中だ。
「ああ……よいが回ってきたな」
あまり酒は強い方じゃない。酒も回っていらないことまで考えてしまう。
◇
そうして、酒を飲みながら呆けていると。
「あのぉ」
「……あ?」
「あのぉ」
「ん? ただのチンピラに何か用か?」
「って、どれだけ飲んでいるんですかっ! だ、大丈夫ですか」
「うるせなぁ。俺は大丈夫だよ」
気づけばジョキ3杯ほどは飲んで酔いつぶれてしまっていたようだ。
まあ、酔いつぶれていたと言っても、ほんの数分だろうが。
意識が朦朧としていたところをナイルさんに叩き起こされた。
「とても大丈夫とは思えないですが。まあいいです。これを」
「なんだこれ」
差し出された紋章を手に取り、揺れる視界の中でそれをよく見る。
「それは監督役の紋章です」
「ガイド? なんでそんなもん」
「お仕事に困っていると思いまして。ギルド長にお願いして発行してもらったものです」
「いや、だからなんでそれを俺に」
「パーティー抜けたという処理になっていいますが、ぶっちゃけジンさん追い出されましたよね?」
「―――」
痛いところとついてくる。
「ジンさんがわざわざ自分から抜けるとは思えませんし、あの方たちの態度は以前から問題にもなってましたから。あっ、もちろんジンさんの態度がいいというわけではないですよ」
「喧嘩売ってんのか」
「いえいえ。悪いと言っても、ジンさんのは相手を気遣っているというのは窺えますので。他の銀翼の方はクエストを自分たち優先にするように言ったり結構腹黒かったからですからね。あっ、今のは聞かなかったことに」
「――で、だからなんなんだよ」
「はい。なので、仕事に困っていると伺えたので」
「それで、俺にガキのおもりをしろと?」
監督役というのは、文字通りギルド側のガイド役。大抵は初心者の冒険者が安全にクエストをこなせるように同行したり、新たな地へ行く時に同行し道案内する役になっている。
まあ、簡単に言えば新人の教育係なわけだが……。
そんなことを俺にしろと?
「はい。あと、ガキではありません。みなさん多少お若いですが、成人してますから」
「屁理屈はいい。そんなもの俺にできるわけないだろう。トチ狂ったか?」
「狂っているのは、今まさに飲んでいるジンだと思いますが。っとまあ、そんな屁理屈は置いといて。
今年はかなりの新人が多くて人手不足なのですよ。実はギルドとしても困っておりまして……。なので、できるかどうかは置いて置いて、頼めば引き上けてくれるだろう暇な人にこうして頼んでいるという名目で」
「名目で?」
「困っているジンさんを見過ごすこともできないと思いまして。ジンさんには個人的に、だれもやらないクエストを引き受けてもらったりしてますから、特例ということで」
「そう言えば俺が断れないと思ったのか?」
「はい。いまはそういうことでいいです」
チッ――。
また、調子よくこの人は面倒ごとを押し付けてくる。
けどまあ、実際仕事に困っていたのは事実だし、なんも言えないが。
「分かったよ。アンタいい性格してるよホント」
「はい。それはおほめに預かり光栄です。では早速。細かい書類登録はこちらで済ませすなので。二人とも、もう大丈夫ですよ」
しぶしぶ提案を受け入れると、ナイルさんさんがカウンターの方へ向き、誰かを呼んだ。