短編1 俺の決意
「ホントにたまげたよ。あんたって、商人に向いてるのかもね」
試食会の後、母さんはウッキウキだった。自分の息子に才能があることを喜んでいるのか、お金が入ってくることを喜んでいるのか。前者であることを願う。
『準備が整いましたら、坊ちゃまが大助様の家までうかがいます。それまでは、農作業に励んでくださいませ。大助様が良き商人となれることを願っております』
司会役の人はそう言っていた。守銭奴の母さんといったら、「ババア」と言っても怒られないんじゃないかとさえ思ってしまうほどの喜びっぷりだ。
「考えれば考えるほど、あんたって商人に向いてるわ。この前通っていた寺子屋では、算盤の天才だって言われてたものね。私、どうして気づかなかったのかしら」
ひとりごとを大声で言いながら、母さんは歩いている。周りの人から変な目で見られるのだから、
恥ずかしくて仕方ない。
「母さん、恥ずかしいよ。静かにしてくれ」
「あら、嫌なの?分かったわ」
意外にもあっさりやめてくれた。
御簾を押し上げて、家の中に入る。
母さんは満面の笑みを浮かべながら、台所に立った。
「試食したばっかりだけど、かなり歩いたから、お腹空いてるでしょう?今つくるから待ってて」
「ありがとう」
暇だったので、裏口から畑に行った。茎や葉を確認したが、虫はいない。
「草むしりでもするか」
ぼそっと呟いて、辺りの草をむしっていく。雑草があると、ブドウに必要な栄養分が届かなくなってしまうので、草むしりも大事な仕事だ。
根が頑丈なものは、引っこ抜くのに苦労するが、その分抜けたときの爽快感がすごい。虫がいないかチェックする作業と同じく単調だけど、こっちのほうが楽しい。
数十分ほど経つと、家から母さんの声が聞こえてきた。
「ご飯できたよー!戻っておいで」
「はーい」
戦国時代は玄米が主流だ。もちもちとした食感ではないけれど、噛みごたえがあっておいしい。
「そうだ。明日、那古野城下に行かないかい?買いたいものがあるんだけど、あなたが望むなら連れて行くわ」
「連れてって!やった~、お城だ!」
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 翌朝 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
小鳥のさえずり、母さんが台所で動き回る音。
チクチクの布団にはもう慣れた。
「おはよ、母さん」
「あら、おはよう。今日は早いのね。ご飯はもうすぐ出来るから、もう少し待って」
空は青く、雲は白い!なんて良い日なんだ。
名古屋城にいけるなんて・・・今は那古野という漢字だけど。
朝ごはんを食べた後、軽装で家を出た。日差しが強い。
母さんの後についてしばらく歩くと、次第に大きな店が増えていき、人通りも多くなった。那古野城下に近付いているのだろう。
更に歩いていくと、立派な城が見えてきた。あの城に、信長は住んでいるのだ。
いつかあの城で働けることを願っている。商家に奉公するのもその為なんだ。
10年、20年、もしかしたらそれ以上かかるかもしれない。でも絶対に諦めない。一度決めたのだから。
すみません、あまり良い話が思いつかなくて、短編という形で出させていただきました。
短編を三つほど書いた後、本編に戻ろうかと思います。
読んでくださりありがとうございました。