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24 ガールズトーク

 女子の輪に混ざってケーキを頂くことになった。クリスマス期間限定のケーキとはいえ店内で出すならそこまで凝ったものは作れない。冷凍のロールケーキにホイップやチョコペンでデコレーションして『メリークリスマス』と書かれたプレートを添えるだけ。こっちの方が手作り感があっていいかもしれない。


「では私はお先に失礼します」


 ケーキにフォークを刺したところで小夏先輩がそう言った。小夏先輩が使っていた皿は生クリームまで綺麗に食べられていて洗った後みたいだ。


「え~ユキちゃんもう帰っちゃうんですかぁ?」


 由香ちゃんが駄々をこねる子どものように小夏先輩を止める。


「私はもうとっくに上がる時間だから。またね」


 時刻は九時。小夏先輩の定時より三十分経過していて俺の上がる時間でもある。


「またお話聞かせてねぇ~」

「次会うのを楽しみにしてますよ」


 鳴海さんと姫野さんにも会釈して小夏先輩は帰宅した。まだ遅い時間ではないから一人で帰れるだろう。

 俺はフォークを刺しっぱなしにしていたケーキを口に入れる。


「で、どう?」


 鳴海さんがニヤニヤしながら聞いてきた。

 由香ちゃんと姫野さんも俺に意識を集中する。


「美味しいですよ。この紅茶もよく合いますね」

「それはよかったです。そのケーキはユキちゃんが作ったんですよ」


 小夏先輩の手作りだと!? てことは小冬の手作り……。道理でうまいわけだ。


「ですがわたくしたちが聞いてるのはそうじゃないです」


 楽しそうに笑う姫野さん。今は帽子とマスクを外していて美人オーラ全開だ。上品な人のはずなのに目が鳴海さんと同じで下品になっている。


「なんのことですか」


 俺と小夏先輩のことを聞こうとしてるのは察したが何を知りたいのかわからない。逆に俺の方が聞きたいくらいだ。


「またまたせんぱいはすっとぼけちゃって~。本当はわかってるくせに」


 由香ちゃんまで煽ってくる。どうやら俺が呼ばれたのは仲良くお茶会をするためではなかったらしい。小田切さんと一緒に成敗された方がよかったかもしれない。

 俺が顔に疑問を広げると鳴海さんがわざとらしく咳払いをした。


「おっほん、まずは軽い雑談からね。あの夜はやっぱり何かあったんですか~?」


 手をマイクの形にして俺の口元に近づけてきた。

 うぜぇと思ったけど心にとどめる。


「あの夜ってなんですか?」


 小冬と電話した日の話か先日小夏先輩と帰った日の話のどっちだ。


「この前一緒に帰ったよね。若い男女が暗い道で二人きり。それはもう何か始まっちゃうでしょ!」

「接吻ぐらいは致したんですか?」

「せっ!? せせ、せんぱい! ユキちゃんはどんな味だったんですか!!」


 すっげえテンション高いなこの人たち。

 俺を押し倒すぐらいの勢いで身を乗り出してくる。


「別に何もありませんでしたよ。ただ送っただけです」

「「「またまた」」」

「いやホントですって。期待してるようなことは全くしてませんよ。指一本触れてません」

「「「え……」」」


 そんなガッカリされても困る。てかなんでそんな俺たちに興味津々なんだ。


「待って、本当に何もないの?」

「確かにユキちゃんも何もないって言ってましたね。真っ赤になってましたから、わたくしはてっきり恥ずかしい事でもされたのかと思ってました」


 あーやけに盛り上がってると思ったら小夏先輩も問い詰められてたのか。さっき目を逸らされたのもそれが原因だろう。


「あのーせんぱい。一個いいですか?」


 由香ちゃんが申し訳なさそうに手を上げる。なんだ。


「せんぱいってもしかして、その……ついてないんですか?」

「……」


 一瞬ピュアな反応が可愛いと思ってしまったが何を言い出すんだこの子は。


「え、ほんとについてないんですか? それとも機能してない?」

「違う。今の間は無言の肯定じゃない。女の子がそんなこと言っちゃダメでしょ」


 俺が恥ずかしいこと言わせてるみたいで妙な背徳感がある。


「じゃあ瀬川君、なんで襲わなかったんですか? 男の人はみんな狼さんなんですよね?」


 また姫野さんは誰に吹き込まれたんだ。

 このままだと質問攻めにされるから一旦ハッキリさせておこう。


「あのー、俺からもいいですか? そもそもなんで俺と小夏先輩をくっつけたがるんですか?」


 夜遅いから送っていけはまだ理由が通っていたが、今の状況は明らかに俺で遊んでいる。小夏先輩に頼まれたのだろうか。


「それは言えないかなー。ユキちゃんに何もしないでって言われたし」

「え、ならなんで俺たちをからかうんですか」

「「「面白いから(です)」」」


 このやろー! 女子は喋る生き物だって聞いたことあるけどまさかこんな本能で生きる生き物だったのか。


「ごめんなさい。わたくしたちも少しはしゃぎ過ぎました。外野は大人しくしてますね」

「そだね。余計なことして邪魔したら悪いか」

「せんぱいたちのことはニヤニヤしながら応援してます!」


 なんとなく話は分かった。

 できればそっとしておいてほしいな。


「で、好きなの?」

「まだ聞きます!?」


 完全に終わった雰囲気出してただろ。ガールズトーク恐ろしい。


「言いません。遊ばれてるみたいなんで」

「せんぱい逃げるんですか! ほんとに男ですか!」


 ええい鬱陶しいな。


「俺もそろそろ上がります。お疲れさまでした」


 ケーキはしっかり食べきったため俺がいる理由はない。

 さっさと帰ろう。と思ったのだが、


「な、なんですか」


 出口を三人に塞がれた。ここを通りたければ質問に答えろと言いたげだ。


「瀬川君、ケーキ食べましたよね? 紅茶も飲みましたよね?」


 なんて人だ。これが金持ちの交渉術か。


「じゃ、じゃあ皆さんの話も聞かせてくださいよ。クリスマスは誰と過ごすんですか」

「「「話を逸らすな」」」


 睨まれた。完全に人を殺す目だ。小悪魔ちゃんみたいで可愛げがあったのに魔女みたいに冷徹で恐怖すら感じる。


「……す、好きですよ」


 それは本心だ。小夏先輩のふりをしている小冬のことが好き。その気持ちは偽りではない。その気持ちを伝えるかどうかは別として。

 俺が答えると三人は道を開けてくれた。笑顔も俺の知ってる三人に戻っている。


「瀬川君、後悔はしないでくださいね」

「なんか複雑そうだけどお姉さんは応援してるよっ」

「せんぱいならギリ合格です!」


 言葉に含まれる想いや背景は想像するしかないが俺と小冬のことを考えてくれているのは確かだ。しかし、俺の選択はその想いを裏切ることになる……。


「お先に失礼します」


 12月20日。月曜日。クリスマス前最後のバイトはこうして幕を閉じた。

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