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父はリストラ、町から追放、転生幼女は神になる!?

 


「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」


 剣を振り下ろした剣士、レオルカ・アーク。

 三メートルほどの大きさのその玉は、周囲の空気と魔力を大量に纏った一撃を受け、バリバリという轟音を響かせながら少しずつ砕け落ちていく。


『オオオオオオオォォォ!? なぜだ、なぜ受け入れない!? 我は神ぞ……!? この世界を創りし、創世の神であるぞ!? 増えすぎた人間を間引いたにすぎぬ。まだ間引き足りん。絶滅するまで――』

「はあ、はあ、はあ……」

「そういうとこだろ……!! それは間引きって言わないし、わたしたちは今こうしている間も生きているんだ! 神だからって、勝手に全部滅ぼしていいと思うなよ!!」


 そう叫び、最後の魔力を絞り出した賢者エルミア・リィズの一撃が、今度こそ創世神の体を粉々に砕いた。

 良心が痛むような悲痛な断末魔。

 いいや、たとえどんなに心が痛もうとも『人類皆殺し』などと一方的に決定する神とは、どちらかが滅びるまで戦うしかなかったのだ。

 ――そして人類は勝利した。生きるために、神を……殺した。


「っぐ……!!」

「レオルカ……! 大丈夫か!? ……ううっ!」


 どさ、と、エルミアもその場に倒れ込む。

 完全な神の消滅を確認後、レオルカが地面に血を吐いて倒れ込んだ。

 当然だ、相手は神。何度人体の限界を超えたことだろう。

 いくら強靱な肉体と精神力があっても、レオルカとエルミアは人間。もう限界だった。


「……エルミア……最期に、頼みがある……」

「……なんだ」

「神は、死――という、概念を、持たないと言っていた……きっといつか、復活する。……お前の魔法で、なんとか、せめて、後世の、者たちに……創世神の……危険性を、伝えることは、できないだろうか……」


 ごふっ、とレオルカの口から血が溢れる。

 それを眺めながら、妙に凪いだ心と鮮明になった頭で「ああ、せめてレオルカの妹、治癒の弓聖女ユーラが存命ならば」と目を細めた。

 彼も、自分も、もう――。


「……うん、そうだな……[記憶継承]で、記憶だけでも来世に持って行こう。私が後世に必ず伝えるから、大丈夫だ。安心しろ、レオルカ」

「……うん、ありがとう。……エルミア……」

「…………」


 最後の力を振り絞って、レオルカが伸ばしてくれた手っを――掴むことがかなわず、指先を掠めていく。


(レオルカ……)


 視界が霞む。

 悔いはない。悔いはないけれど――。


「……スゥーー……星の巡り、空を駆ける、輪廻の輪に、転がる。繋がる、繋がる、繋がる。惑星、真理、降り積もり、転がって、転がって……」


 頭の中に浮かぶ言葉は、神に祈る言葉ではない。自らに刻む呪いの言葉。

 死んで、輪廻の輪の中に戻る己に今世の記憶を刻み、残るように。

 もう、彼には出会えないだろうけれど、彼が望んだ世界に少しでも近づけるように。


(レオルカ、私頑張るよ。……だから……)




 ――この世界、『トミュールーズ・レーズ』。

 創世神『トミュール』によって創り出され、その子どもと言われる精神と魂の存在、三人の神霊によって命が育まれてきた。

 だが人間が生まれ、三神霊へ信仰を捧げ続けた結果、三神霊は創世神よりも力を持ってしまった。

 これが創世神トミュールの逆鱗に触れる。

 創世神は三神霊の力の源である人間の絶滅を決定。

 三神霊により創世神と戦うことを託された三勇者――レオルカ・アーク、その妹ユーラ・アーク、レオルカとユーラの幼馴染み、エルミア・リィズ。

 彼らの命を懸けた抵抗により、創世神は倒され、人類は存亡を果たす。

 しかし創世神とは世界の『エネルギー』そのもの。

 それが失われたことで、惑星は生き延びるために“人間を”エネルギーに換えることにした。

 魔物――他の生き物には目もくれず、人間を喰らい、エネルギーに変換するシステム。

 幸い、魔物は数が多いだけで倒すことは可能。

 人間たちは百年の歳月と磨き上げた技や魔法を用いて新たな時代を築き上げた。

 だが、人間が抵抗を続ければ続けるほど惑星は“世界を維持するエネルギー”が足りなくなっていく。

 作物は育たなくなり、生物は減り続けた。その影響は当然、人間にもある。

 さらに魔物の数は増加。

 ――世界は滅亡の危機に瀕していた。


 が、しかし!


「エルミちゃん~! エルミちゃん、ごめんね~~~! パパがあんまりにも、あんまりにも無能だから~!」

「おちついてください、パパ上。泣いてたらわかりません。ギルドでなにを言われたのか、ちゃんとせつめいしてください」

「うぐ、えぐ……う、うん……実はね……」


 自宅に泣きながら戻ってきたギード・ルールを宥めて、泣いている事情を聞き出すのは、エルミ・ルール。六歳。

 なにを隠そう【賢者】エルミア・リィズの記憶を受け継いだ者だ。

 びゃんびゃか泣きわめく父、ギードは冒険者ギルドの受付に就職して五年間――ずっと周囲の人に「仕事が遅い」「大して働けないくせに絶対に定時で帰る」「冒険者ギルドの受付と言えば、普通美少女と決まってるだろ。なんでしなびたおっさんなんだ」等、色々言われ続けてきたらしい。

 それはそれで「なんでもっと早くいじめられてるって言わなかったんだ」とか、「妻が病死して、幼い娘の世話をしなければならず定時で帰れる冒険者ギルドの受付に就職したのに、なんだその言われようは」とか、「美少女がいいなら受付嬢のいる窓口に行けばいいだろう。さすがにそれは理不尽がすぎる。ぶっ飛ばすぞ」と、言い返したいのはやまやまだがまずは話の続きである。

 そう言われ続けてきた父だが、今朝出勤したらこの町の領主に「無能を町の税金で雇い続けるのは、無駄だから」と、クビにされたらしい。

 完全なる不当解雇だ。だが、立場の弱い父に言い返す度胸はない。


「なるほど、つまりパパ上がエルミの育児でたいへんなのに、偉い人はそれがわからないんですね」

「う、うう……」

「え? まさか他にもなにか……?」


 あるの、と聞こうとした時だ。

 玄関の扉がノックもなく乱雑に開けられ、数人の男たちがドカドカと狭いワンルームに押し入ってくる。

 それだけではなく、男たちは無言で室内のあらゆるものを持ち出しはじめたではないか。

 母の形見の、鏡台まで。


「な、なにするんですかー!」

「ごめん、ごめんよ、エルミちゃん。パパ、横領したことになっちゃったんだよォ~~~」

「は――ハアァァァァーーーーーー!?」


 はてさて、あの戦いから百年。勇者たちは死力を尽くして人類を守り抜いた。

 しかし、人類はその日生きることに必死であり、明日の世界がどうなろうとあまり興味はないようだ。

 いや、興味がないというよりは、「それどころではない」という方がただしいだろう。

 かつて人類を守った【賢者】エルミア・リィズの記憶を受け継ぎし者、エルミ・ルール、六歳。

 父のポンコツっぷりにより、本日家なき子になりました。



 ***



「ささ、さっさと出て行け! 二度とこの町に入ってくるなよ!」

「税金もまともに払わないで、のうのうとしやがって!」

「魔物への生贄にさらなかっただけましと思えよ!」

「ま、待ってください! 娘はまだ六つなんです! 今『町』を追い出されたら――!」

「うるせぇ‼ さっさと消えろ!」

「冬を越すためだ、悪く思うな」

「そ、そんな!」


 バタァン‼ ――と、門が閉じられた。

『町』は魔物から生活を守るために巨大な外壁に覆われている。

 そんな『町』から出るということは、生贄にされたのとどう違うのか。

 年々下がる収穫。増える『町』同士の食料を巡った略奪戦争。

 討伐する冒険者の減少により増加する魔物。


(どうしましょう。創世神を倒しても、このままでは……)


 勇者に「後世の人々に人類を絶滅させようとする創世神の危険性」を伝える約束をしたが、これでは伝える以前の問題だ。

 根本的な解決策が必要だろう。

 ――根本的な解決方法――創世神の代わり。

 だが、どうやって?


「ううっ、うっ……ど、どうしようう……」

「はっ! ……パパ上、泣いていてもしかたありません。日が高いうちに安全なところに移動しましょう」

「エ、エルミちゃん……安全なとこなんて、外壁の外にないよう……」

「ないなら作ればよいのです。ほら、いきますよ」

「うううう……」


 顔面をびしょびしょにした父を引きずって、エルミは生まれ育った『町』を去る。

 仕方がない。この『町』も生き延びなければならない。

 食い扶持が減って、町民の生存率が上がるなら生産者としても魔物の討伐や外壁の外に採集へ向かう冒険者にも慣れな父と、幼い女児など追い出すに限る。

 これも生きるための選択だ。彼らを責めることなどできない。


「うう、うううううっ……どうしようぅ……これからいったいどうしたら……」

「もー、パパ上さっきから泣いてばかりでだめだめです。エミルがなんとかするので泣くのをやめましょう」

「そ、そんなこと言われても……い、いったいどうするつもりなんだい? エルミちゃん」

「まずはルナルお兄さまにれんらくをしましょう。エルミも魔法はたしなんでおりますが、体が小さいので高位魔法は使えません」


 魔法は全身に血管のように巡る『魔脈(まみゃく)』というものを用いて使用する。

 大気中に存在する『魔素(まそ)』を体内に取り込み、魔脈を通すことで『魔力(まりょく)』を生成。その体内で生成した魔力で魔法陣を生成し、使用する。

 魔素を取り込み、体内で魔力を生成するのは練度が必要。

 体が大きくなれば取り込める魔素は増えるが、その分生成に時間がかかるようになる。

 ただ連絡するならば今のエルミにも問題なく可能。

 [思念(テレパス)]という、どんなに長距離にいても特定の人物と念話が可能な魔法があるのだ。相手も[思念]を覚えている前提だが。


「連絡って……ルナルが今どこにいるかもわからないのに?」

「方法があるのです。……えー。もしもしもしもし~。ルナルお兄さま、ルナルお兄さま、こちらエルミ。おうとー願いまーす」


 誰も歩いていない街道を歩きながら、兄、ルナルへ[思念]を飛ばす。するとすぐに、兄の声が脳内に響く。


『どうした、マイスイートシスター。お兄ちゃんがいなくて寂しくなっちゃったのか? 今すぐ帰るから待っていなさい』

「あ、いえ、もう帰る家はないので」

『ん? どういうことだ?』


 事の顛末を説明する前に、一応「怒らないで聞いてくださいね」と前置きする。そうでないと、あの兄は『町』の人たちを攻撃しかねない。

 兄ルナルは強く優しいが、少々エルミに対して甘すぎる――過保護過ぎるところがある。

 理由は異母兄弟で、年も離れている。

 その上、エルミの母はエルミを産んですぐに亡くなってしまったからだろう。

 父は悪人ではないのだが、現代のような過酷な環境を共に生き抜くにはいささか――かなり頼りないと言わざるおえない。

 そんな父を見捨てて別な『町』へ引っ越したのがルナルの母で、そんな父がいいと言ったのがエルミの母だ。

 兄、ルナルは一時母と共に別な『町』で過ごしていたが、母の新しい家族と馴染めず早くに冒険者となり『町』同士の自由な行き来を行えるようになってからエルミたちのところへやって来た。

 今では冒険者ランクの最高峰、【英雄級位】――単身で【高位級】を討伐した者に、すべての『町』より贈られる称号であり、級位。


『なるほど、消そう』

「だから、それはご遠慮ください」

『だが事情は把握した。どこかで合流しよう』

「あ、でしたら——『悪辣な大地』にしましょう」

『悪辣の大地? なんであんなところに?』

「ちょっと試したいことがあるのです」


 ふむ、と兄は考え込む。

『悪辣の大地』……魔物の溜まり場となっており、最初に滅んだ地と言われている。

 なぜそんな場所へ、と言うのは当然だろう。

 だが、エルミはそこでとある儀式を行うことにした。

 この世界を、根本から救う方法。


(新しい創世の神がいればよいのです)


 それになる方法を、その『悪辣の大地』にいる()()()なら知っている。

 そしてそれに話を聞くのに、兄の力があれば確実。


『わかった、すぐ行こう。だが、あそこは魔物の巣窟だ。近づきすぎないようにしろ。お兄ちゃんが行くまで、絶対無茶しちゃだめだぞ』

「はい、わかってます」


 こうして、エルミは不安で顔を真っ青にした父を引きずりながら『悪辣の大地』を目指す。

 ——新たな創世神になるために。





 これは幼い転生賢者が神になって世界を救う物語。

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