疑ったせい
私は今電車に乗っている。死のうとした電車に。誰にも見えない子供を連れて。
時を遡ること数十分前。
尻もち着いた状態で、少年を睨むと少年は、「あっ、僕の事はおねーさんにしか見えてないよ」
といい、めんどくせぇのに捕まったと思った。私は大袈裟に溜息をつき立ちあがる。
「信じてないでしょー。いいよ、ちょっとあそこのベンチで座ってよ」
ホームの階段のすぐ近くを指さした。何故か少年の言葉にこの時は従った方がいいという気持ちが強く、少年の指さすベンチに腰を下ろした。
今は乗り降りの時間で人が動く為ベンチは空いていた。
誰かが座っていたのだろう、妙に生暖かく気持ち悪いと思った。
先頭に居たのに電車に乗らずにどっかに行く私を周りの人は怪訝な目をして見てきたがどうでもよかった。多分周りの人達もどうでもいいんだろう。電車乗って降りたら忘れてる。
ベンチに腰を下ろしてぼーっと俯瞰しても、つまらない光景だ。友達同士て笑いあってる学生達や、スマホばかり気に取られ世界がそこで終わってる人達。
人が集まれば会話もただの音にしか過ぎず言葉を使ってるのかも怪しいんじゃないだろうか。
私も人の事は言えないし、何なら終わらそうとしてたくらいだ。
「今から誰にも見えないってしょーめーするよー!」
少年はバカでかい声を発して私に向けて叫んでいる。少年の声は言葉として聞こえた。こんな雑音まみれの中で透き通った声がその声だけが私には聞こえた。
周りは全く反応しないのは人間の冷たさ故か。人が真横で倒れても一瞥するだけで大半の人は助けないだろう。当たり前だ。自分すら救えない奴らしか日本には居ないのにどうして他人を助けれる。消防や救急だって金ありきだろう。
少年は次の電車を待つ人達の肩を叩いたり服を引張たりした。
その時少年は隠れもしなかった。振り返れば視線が合うように顔をジッと見つめるが、誰一人として反応はなかった。
「マジでか」
本気でめんどくさい事になった。だが、怖さはなかった。
教室とかの居場所のない窮屈さに比べれば些細な出来事だ。