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最後に笑えばそれでいい。

あとは、トントン拍子だった。

二度と魔王を街に入れたくない王と国民は、勇者の仲間、美優の提案である異世界人組合と国営住宅、あとは所謂ハローワークを創設した。

前の世界の知識を生かした法人の設立などもここで行える。

また、国の兵士と組合員が見回りで異世界人の新規者の保護を行うことになった。

これだけで魔王化率は下がるだろう。

もっとも、俺たちは完全に「お芝居」だったわけだが、意外とバレないもんだった。

それだけ、異世界人は馴染みがなかったのだろう。



俺たちはまず広場の周りに火薬をしかけた。

早速役に立ったねぇとシスが笑っていたのが印象的だった。

その手前で美優がバリアを張った。

被害が出ないように、商団の人間が全員バリアの内部に入るように誘導する。

俺は黒い衣装と画面を被り、爆発するタイミングで屋根から登場、同じ屋根にはジョージが待機し、俺がヘマしそうだったり劣勢になった場合、後方から支援する段取りであった。

そして当初予定にはなかったが、妻がバリア内全体に「移動不能」をかけた。

何か役に立てないかと色々試してみた結果、できるようになったらしい。

あとはパレードに臨んで今に至る。

一番意外だったのは勇者の剣だった。

硬化で勇者の攻撃が防げたのである程度攻撃されても大丈夫だと踏んでいたのだが、ふいに


「ポルコさん、腕出してもらえます?」

「え?」


恐る恐る腕を差し出すと、いきなり斬り付けられた。

うわ!!と思わず叫んだがなんともない。そして床を見ると、剣の破片が転がっていた。


「俺の剣、魔王以外は斬れないんですよ。」


と言うか魔王以外を斬りつけると折れちゃうんですよね。と海斗は笑った。

一応俺を最初に攻撃した時のように攻撃力を付加して斬りつけると屋台を壊せるくらいには攻撃力は上がるらしいがそのままだと豆腐も斬れないらしい。某怪盗の仲間を思い出す。


あとは予定通り、俺が魔王になり一芝居うったわけだ。急ごしらえの雑な案だったが意外となんとかなるもんだ。


海斗は本人の希望でそのままでいるそうだ。

正義感が強いから、一度受けた仕事を投げ出したくないんだそうだ。それも人生だな。


このゴタゴタついでに商団を出入り自由、関税なしにする法律も整えた。

実はこれ、協力してもらうために取り付けた事前約束だった。

自分たちのメイクから演出、情報操作や安全対策など多量に協力してもらったのだが、借りと手持ちの支払いだけでは割りに合わないと言われたため急遽約束したのだ。

日本の楽市楽座みたいなものだ。これで少しは閉鎖的な国民性も緩和されればいいと思う。


俺たちはというと、さすがに気ままにパンでも売るわけにもいかず、こっそり街を後にすることにした。

「なんだか、結局あなたたちに貧乏くじを引かせてしまいましたね。」


海斗が申し訳なさそうに言う。


「元々出ていく予定だったし、気にしないで。」


妻が笑いながら答えた。

正直5年間過ごした土地だ、名残惜しくはある。

先日は勢いで逃げたが、感傷に浸れる程度の余裕があると色々思い出してもしまう。


「それにポルがいれば私はどこでも生きていけるって証明できたし、どこに行っても平気よ。ポルは元々どこででも生きていけるしね。」

「いや、君がいなければ生きていけないよ、本当に。」

「ずっと思ってたけどその…仲良いですよね。」


照れながら海斗が言った。

確かに日本人でこんなにおおっぴらに言っているのは珍しいかもしれない。


「だからここまで魔王化せずにいたんですね。羨ましいです。」

「海斗君の方がよく頑張ってたよ。それに、同郷の人がいてくれるのは心強いし。」


それについて謝らなくてはいけないんです。と海斗が言う。


「ここは望むとその通りになると言いましたよね。色々制約はありそうですが入り口はみんな同じなんです。別の何処かへ行きたいと死ぬ前に思ってるんです。」

「え、でも俺たちは…」

「そうですよね。お二人を見てたらそう思いそうじゃないと思って、俺もこの仮説は間違ってると思ったんです。でも、もしかしたら…あなたたちは俺に引っ張られてきたんじゃないかと…。ほんとにすいません。命の恩人を、殺そうとしたばかりでなく、そもそもここに呼んだのはたぶん、俺なんです。」


深々と頭を下げて謝って済むことではないけど、すいませんでした。と彼は告げた。

俺はどうしたものかと返答に困っていると、妻が隣で爆笑し始めた。

俺と海斗は呆気に取られる。


「何、そんなことで、悩んでたのー!ほんっとに真面目!生きづらいわーそれは。

別にあなたのせいでもなければなんなら私たちの命の恩人でしょ?別に気にしなくてもおあいこだよー!」

「うちの奥さん、ちょっと感性面白いでしょ。」


ふふふ、と未だに笑っている妻を俺は半分呆れて眺めた。


「気にしないのは無理だと思うが、俺たちは気にしてない。妻とまたこうして笑いあえるのが何より幸せだ。

それに世界は若者たちのためにある。自分が若者のために働けたのならば光栄だよ。」

「先生らしいですね。」


小間使いの准教授だけどね。と俺と海斗も笑った。


「…もし、日本に戻ることができたら、瑞稀先生のところで学びたいです。先生となら、見識が広がりそうだ。」

「そうかな、でも、楽しみにしているよ。俺も君たちとまた会いたい。」


すうっと冷たい風が吹いた。

そろそろいかねば。


「名残惜しいがもう行こう。あっという間に夜になってしまう。」


妻が俺に身体強化を付与し、俺のリュックの上に乗った。

右手にある花束は、途中で慎司が亡くなったところに手向けるためのものだ。

すると、海斗がすっと俺のポケットに何かを入れた。

1人の時に見てください。と彼は小声でいったあと、顔を上げて少し大きな声で別の話題を出した。


「本当に、馬とかいらないんですか?」

「大丈夫、馬より俺の方が早いんだ!」


本当のこと言うと今回のことで海斗も俺も手持ちがほぼ0か赤字だ。

余計な出費は防ぎたい。


「じゃあね!勇者君!落ち着いたら連絡するからねー!」

「体に気を付けろよ!」

「お二人も、お元気で!」


手を振る海斗は、年齢相応の、屈託のない笑顔を俺たちに向けていた。初めて見る笑顔だった。

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