表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

悲しい別れと新たな情報

バリアが慎司を包む直前、光るものが影を突き抜けた。

慎司の動きが止まったかと思うと崩れるように影がなくなっていく。

俺と妻が呆気に取られていると消え行く影の向こうに見たことのある姿が見えた。


「勇者…。」


勇者は険しい顔で消え行く影を見ている。


「2人とも、見ていてください。これが我々の業です。」


無くなった影がまた集まってくる。

俺は警戒したがどうやら先ほどとは違うらしい。

中心に宝石が輝き出し、見知った日本人を形成し始めた。

妻が駆け寄り、すぐに回復魔法を唱える。が、効果があるように見えない。


「慎司君?戻ったのか?」

「いえ、もう彼は戻ることはありません。」


勇者は静かに横たわる慎司を見ながらそう告げた。

次第に慎司の目が開き、こちらを見た。


「慎司君。俺がわかるか?」

「ポルさん…俺、ポルさん達が最初にあった人で…本当によかった。」

「何言ってるんだ、元に戻ったんだからこれから色んな出会いがあるよ。能力の開花だって…」

「いや、もう俺助からないって、わかるよ…でも楽になった。黒いものに包まれた時は絶望しか感じなかったけど。

聞こえてたよ、ポルさんの声。もう少しさぁ…かっこいいこといいなよ。」


ははは。と力なく笑った。

彼の胸の宝石がどんどん曇っていき、それが細かいヒビだと分かる頃にはもう大きなヒビが入り始めていた。


「リンさんも、ありがとう。他の奴らが逃げるかしようとしてるのに…リンさんだけは俺を止めようとしてくれて。ほんと、いい人達に巡り会えたのに、なんで俺…」


慰める言葉がなかった。

宝石がどんどん割れたものから天に上がっていく。それとともに慎司の体も消えていく。


「あいつら、俺を見て変なやつって言ったんだ。会社の人間と同じで…なんか馬鹿にしたように…こっちに来る前のこと思い出して…そしたら黒いものが…」


「慎司君、大丈夫だ、もう俺らが知ってる君になっている。全然変じゃない!大体自分と合わないからって、それがおかしいわけではない!」


ははは、と慎司は力なく笑った。


「それ、あっちにいる時に聞きたかったな…ポルさんと、酒飲みながら愚痴言って…ポルさんなら笑って聞いてくれそうだ。

リンさんには…怒られそうだけど…それもいいなぁ。

ねぇポルさん、あっちに戻ったら…また会ってくれませんか。」

「あたりまえじゃないか。また会おう。今度は一緒にゲームしようよ。1Pは譲ってやるから。」

「やるならMMOですよ。たくさんプレイして、無双しましょう…。」


宝石が全て消えると同時に、慎司も消えていった。

妻が声を上げず泣いていた。

俺は、妻の頭をそっと撫でてやる。


「いつもこうなんです。」


勇者が口を開いた。


「魔王と呼ばれるものは私たち異世界から来た人間がベースなんです。

何かをきっかけに彼らは魔王になります。先ほどの方はまだ途中段階でしたが。

そして、魔王を正気に戻して…殺せるのが俺の剣なんです。」


憎々しげに勇者は自分の剣を見つめる。


「早くて数時間、遅くとも数ヶ月程度で皆さんさっきみたいな魔王手前までになってます。最後は正気に戻って、人間らしい感情で。なんでなんですか。完全な悪なら、諦めもつくのに。絶対悪じゃない。なのになんで俺は倒さなくてはならないんですか。貴方達はなぜずっと正気でいられるんですか?!」


カイト!と後ろの女性が声をかけた。


「落ち着きなさい!向こうも困るでしょ!」

「お前らしくないな!どうしちまったんだい?」


前にジョージと言われていた男も勇者に駆け寄った。

いい仲間を持っているのだな、と眺める。


「いや、気にしないでくれ。吐き出した方がよいものもある。見たところ君はずっと頑張ってきたんだろう。こんな見た目だが学生の悩みはよく聞いてたし、何より俺たちも情報が欲しい。」


2人の声をあえて静止した。

殺されかけたとはいえ今の彼らには殺意はない。まぁジョージの方は不快そうな顔をしているが、お互い様だろう。

他の2人は同郷だろうし、情報交換は悪くない。


「しかし場所が悪い。この先の街まで移動するか。」


少し距離があるがやむを得ない。


「でしたら俺たちの馬車でいきましょう。次の街なら懇意にしている宿もあります。…俺も少し冷静になってから話がしたい。」


ありがたいが、一緒に馬車に乗るのは断った。2人だけなら少し休めば馬車より早く走れるし、商団の方にも迷惑をかけた謝罪くらいは必要だろう。


…慎司を弔いたいが、その肉体すらもうない。

街に着いたら花でも買って手向けてやろう。


「あとで行く。宿の名前だけ教えてくれないか。」

「山猫の宿という名前です。店主が山猫に似ているのですぐわかります。」


どういう紹介の仕方だ、と思ったが山猫に似ている…ちょっと興味あるな。


「わかった。先に行っていてくれ。それからリン。」


俺は爆発しそうな感情を抑えながら妻に向かった。


「…二度とあんなことするな。」


なんとか振り絞ってそれだけ言ったが、十分妻には伝わったようだ。


「ごめん。」


言い訳もせず、謝罪する妻。潔いな。色々うじうじ考えた自分がなんだか女々しく感じる。


「…商団にも謝罪しに行こう。理由はどうあれ、攻撃をしたのはうちのほうだ。」


俺は妻の頭をそっと撫でて、商団の方へ向かった。


商団の方も事情は聞いていたらしい。またこちらから攻撃されるのを警戒したのか、謝罪を受け入れて、あちらからも謝罪があった。

そして、彼らに別れを告げ、俺たちは街へと向かった。割と整備された見通しの良い道を走ると大きな門のある街が見えてきた。

国境付近で警備は厳重である。逃げてた頃は、こっそり飛び越えようと思っていた門だが、勇者が何か伝えてくれたのかあっさり入ることができた。

よくわかったな、と思ったが「人と荷物を運んでいる人間はそうそういないでしょ。」という妻の言い分にもっともだと思った。


山猫宿は割と有名な宿らしく、門番に聞くとすぐ道を教えてくれた。

宿の主は大柄な体に眠っている猫のような細い目、愛嬌のある口をしていた。細い目あたりで俺はちょっと親近感を感じる。

案内されたのは奥の周りとすこし離れた部屋だった。VIP用らしい。

先にすこしラフな格好になった3人がいた。


「ポルコさん、リンさん。わざわざありがとうございます。」


落ち着きを取り戻したらしい勇者が俺たちを出迎える。

促されてソファーに座ると、女性がお茶を出してくれた。緑茶に似たその飲み物に、俺たちはすこし懐かしい気持ちにぬる。


「まずは自己紹介をしましょう。俺は青葉海斗といいます。こちらに来てすぐ、特性で魔王を倒してから勇者として王より魔王討伐を任命されています。

協力してくれているのは2人、ミユウとジョージです。」


ミユウは頭を下げて、ジョージはふん、と鼻を鳴らした。


「徳田美優です。現在は26歳。3年前、事故に巻き込まれてこちらに来ました。」


ミユウ、と海斗は制したが、話したほうがいいよ、と美優は答えた。


「情報交換したいんでしょ。ここに来る前のこともある程度話したほうがいいと思う。共通点とか、見つかるかも。」


美優は続けた。


「3年前までは東京でキャバ嬢をやってました。お客さんを送迎する時に暴走車に巻き込まれて気がついたらこちらへ来てました。特性は補助系、身体強化と簡単な傷の回復ができます。たまたまここにきた時にカイトがいたのでそのまま一緒に行動してます。」


だから男をたらしこむの得意だったんだな。とジョージは笑った。確かに独特の色気はあるが、そういう言い方をするということは自分の内情を話してなかったのかもしれない。


「ジョージ、あなたもいいなさいよ。」


暴言を気にせず、美優は言った。


「こういうのは無しにしようって言ってたのにな。」


ジョージは肩を竦めた。


「俺はジョージ・ルイス、24歳。2年前までカルフォルニアに住んでた。職業は特に無し。金がなくなれば働くくらいだったか。特性は」


すぅ、っとてを広げると光る細いものが出てきた。


「ナイフ。自分の体からこれを出して攻撃できる。まぁ魔王には効かないんだけどな。

こっちに来た時強盗しようとした奴がカイトだったんだ。ま、負けてしゃーないからしたがってる感じだな。」

「カルフォルニアということは、君の言語は英語かい?」


まぁね。俺からしたら全員活かすかない綺麗なアメリカ英語喋ってるぜ。とジョージは自分の座っているソファーにもたれかかった。


「…来た理由がデリケートだと思い、俺たちは過去について話さないきまりにしていました。すいません。」


海斗が頭を下げる。話を聞く限り、彼の気持ちもわかる。


「じゃあ次は俺たちかな。俺は水谷瑞稀。こちらではポルコと名乗っている。隣は妻の鈴音。こちらでリンと名乗っている。」


自分を殺そうとした人間に、複雑そうではあったが妻は頭を下げた。


「あとはなんだろう。俺こういうの苦手なんだが、うーん。」

「講義の時に話すみたいにしたらいいじゃない。」


妻よ、ナイスアイディアだ。


「年齢は今年たぶん42歳。歳の離れた妻がいる。料理はうまいしかわいいし、何よりよく笑う」

「え、そんな話してるの?」


若干引かれた。


「講義ということは、先生か何かですか?」

「そうだ。獣医学の大学で野生生物専攻の准教授をしている。まぁ教授の小間使いだよ、と学生にはよくいっている。実際専攻以外も基本授業も受け持っているしな。ここにきたのは5年前、山で散策していたところを自殺しようとしてた子とでくわして…。」

「もしかして、落ちる寸前に助けに来た方々ですか?!」


勇者は声を荒げた。


「俺、その時のやつです。5年前山の崖から落ちようとして…」

「え?!あの時の子?!でも中学生くらいだったよね?!学ラン着てたし。」


今年17です。と勇者は呟くように言った。

意外だったらしく、仲間の2人も驚いた表情をしていた。


「この世界、異世界の人間は望んだように姿変えられるみたいで…自分は来た時に舐められないようにってわざと歳とったんです。」


確かに今の勇者は20半ばくらいに見える。自分たちも同じくらいの見た目で、なんなら慎司はほとんど容姿が変わっていた。


「望んだように…か、この能力もそうなのかな。」

「たぶんそうです。俺、学校でも正義感が強すぎるって虐められて、もうこんな汚れた世界に未練がないと山に行ったんです。

助けられそうな時になんで俺のせいでこの人たちまで死ななきゃいけないんだって思ったら、もうこの世界でした。

それでたまたま魔王化した奴に襲われてる人を見て、生き残ったなら助けなきゃ!と思ったらこの剣が使えるようになったんです。」


それまで魔王を倒すことは不可能と言われていたため、彼は一気に勇者として祭り上げられたらしい。

12.3の少年には酷な話だっただろう。


そして、同じ異世界の仲間で最初は5人くらいのパーティーを組んでいたそうだ。

だが、魔王の戦いはいつどこで起こるかわからない。

そのため彼らは精神的に疲弊し、1人は逃走の末に捕縛、王により処刑された。

それを見たもう1人は魔王化してしまったそうだ。


「その時わかったのは魔王として完全体になるにはまず異世界の人間が絶望等負の感情がある程度リミットを超えてしまった時に初期の変化として先ほどのような影、エネルギーの塊になります。

その後、実体を得るために…人を食べるんです。」


仲間が魔王化したときは、処刑された仲間を食べたらしい。

美優とジョージも俯いた。


「エネルギー体だけならそこまで脅威ではありません。あの状態だと知能もほぼないので負の感情を抱いた先に向かうだけです。でも実体を得た魔王は全てこの世界を壊すために動きます。」

「この世界を壊す?」

「はい、なぜかまではわかりません。ただ今までの魔王は全てそうでした。」


何か別の意思が働いているのか。

「俺たちがわかるのはここまでです。何度も魔王や魔王未満と対峙しましたが、これ以上情報を得ることはできませんでした。」


悔しそうに唇を噛んでいる。

魔王の成り立ちのは悲惨だ。しかも自分たちもいつそうなるかわからない。

慎司君の顔が浮かんだ。


「そうか。ならばここからは俺の考えなんだが、海斗君、君、勇者やめようか。」


『はぁ?!!!!!』


妻を含めて全員が変な声をあげた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ