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下準備をしておけば安心ですね。

「shit!なんだあいつら!まるで事前にわかってたみたいじゃないか!」


毒々しげにジョージが叫んだ。

彼らも「身体強化」を使っていたおかげで爆発の被害はあまりなかった。

しかし、突然のことだったためか、彼らを見失ってしまう。


「冗談じゃないぞ、あいつら普通の顔してたけどもう魔王だったんじゃないか?!おかしいだろ!怪しすぎる!」

「ジョージ、少し頭を冷やせ。お前の悪いところだぞ。」


お前が冷静すぎるんだ!とジョージは噛み付いた。


「どうするんだ。街の外に出られたら追うのは面倒だぞ。」

「どうするも…たまたまこの世界にはないジュースを見かけたからカマかけただけだ。予定にはなかったことだし、とりあえずは王の謁見に行かなければならないだろう。あいつらはそのあとだ。」

「その間に力をつけるぞ!いいのか?!」

「ジョージ、うるさい。カイトを責めればいいってもんじゃないでしょ。」


後ろからロングヘアーの女が声をかけた。自身も「身体強化」をしてようやく追いついたようだ。


「あいつらの特性は攻撃ではないんだからそんなに慌てなくても大丈夫よ。」

「でも見ただろ!こんなにどでかい爆発を起こしたぞ!」

「単なる粉塵爆発じゃない。学校で習わなかった?」


小麦粉の袋の燃えかすを拾い、女は挑発するようにジョージよ前でひらひらとさせた。


「…ここにくる前のことは言わないって約束だっただろ。」

「あら、粉塵爆発もしらないほどの低学歴だったの。ごめんなさいね。」


ミユウ!と勇者…カイトが諫めた。


「特性は1人で複数持つことは稀だ。あいつらは防御系と補助系の特性だったから攻撃力は高くない。急いで討伐しなければならない程ではないだろう。

それより王のところへ急ごう。変に臍を曲げられると困る。」

「パレードの後は祝勝会だったっけ?対外的に魔王より強いことをアピールしたいんでしょうけど、こう何度も行われたんじゃ討伐よりも先にこっちでまいっちゃうわ。」

「魔王未満ならもっと討伐してるんだけどなぁ。それの褒賞はでないしブラックもいいところだよな。」


王に聞かれたら面倒だよ、とミユウとジョージの愚痴をカイトが笑いながら制する。

しかし女の方、最後に放ったのは小さいとはいえ火だった。

ジョージは気付いてないしミユウに言うと大事になりそうだからあえて口にしないが、彼女がその「稀な特性」の持ち主ならば、少々やっかいだな、とカイトは心の中で呟いた。



正直逃げるにあたって勝算はあった

元々異世界から来ているためなんらかの不都合が生じた際逃げる算段はとっていたのだ。


といっても周辺地図を隅から隅まで頭に叩き込み、今みたいに妻に能力強化と回復をかけ続けてもらい国境まで逃げるという至ってシンプルな方法だ。

前方を自分が硬化させておけば前方に何か障害物があろうが大体のものは防げる。

もう一つ大事なことは途中で必ず森を通過することだ。

早馬車だろうが1日はかかる距離を走ったところで森が見えてきた。


「もうすぐケルカの森だ!そこで物資を補充するぞ!」


いくら妻に回復魔法をかけてもらえるとはいえ俺も妻もエネルギー源がなければ死んでしまう。

予めどこで何が取れるか、水源はあるかなど下調べし、有事の際にはそこを使う。

まさに今だ。


「だったら少し休もう?ずっと走りっぱなしだから体が心配だよ。」


水源の近くに洞窟があったからそこなら休めるよ!

と妻は叫ぶように提案した。

まだまだ走れそうだが、心配をかけすぎるのもよくない。俺はその提案に乗ることにした。



森の中の一角に大きな崖がありそこから水が吹き出て湖になっている場所がある。

俺は竹のような植物を硬化で切り、水筒を作って水を汲んだ。

妻は落ちてる枝や葉を集めて火を起こしている。

ついでに拾ってきた食べられる木の実と果物も渡した。


「大丈夫?疲れてない?」

「ずっと回復魔法かけてくれてただろう?大丈夫だよ。リンの方が心配だ。」

「私は大丈夫、ずっと座ってただけだし。宝石もそんなに熱くない。」


そっと妻は自分の胸に手を当てる。こつっとした感触がある異物が手に当たっている。

特性は使いすぎると触媒の宝石が熱くなる。

自分たちが様々試してわかったのはこれくらいだ。


「ポルの宝石も大丈夫そうね。まぁ前に試した時は国境まで大丈夫ではあったけど。」


この世界はわからないことだらけだが、それに輪をかけてこの宝石のことはわからない。

なんとなくわかったのだがこの宝石は普通の人には付いていないらしい。自分たち以外に出会ったことがないので異世界から来た人間のみなのだろう。

それに伴って、特性自体はこの世界にあるのだが自分たちのように触媒がないせいか他の人たちの特性はそこまで強くない。


「それにしても、あいつなんなんだろうね。いきなり殺しにかかるなんて。漫画の世界みたい。」

「日本人だってすぐわかったあたり同郷な気もするけど。魔王候補って言ってたから異世界の人間は魔王候補なのかな。」

「えー、でもそしたら自分もだよね。なのに私らだけ殺すのひどくない?!」


女子高生かっ。

怒りながら木の実をモゴモゴ食べる妻に多少癒されるが。


「どのみち街から出られたからすぐには追って来られないだろう。王様の謁見があるだろうし、王の兵は街の外までこない。」

「だとしたら次の街で軽く行商して動いた方がいいかな。何にする??材料的に水筒つくり?」


何かを作るとなると途端に妻の目が輝く。


「いや、塩漬け肉を作って簡易ベーコンにしよう。いぶしながらならライブ感もあるしここら辺の材料でも下準備できる」

「え、でも塩がないよ?燻す木も…」


ふふふ…と俺は洞窟の奥から木箱を取ってくる。


「こんな事もあろうと、下準備しといたわけ。」


がこっ。と上蓋を外し、中からリュックと塩、蜂蜜、紅茶を取り出した。


「ポル!素敵!細目!愛してる!!」

「目が細いのは絶対褒めてないよね。」


一応気にしているのだが、妻的にはそこが好みらしい。


「今日の夜のうちに狩りをしてくるから、下準備までここで行い、一晩ここで過ごしてから次の街に行こう。

それを元手に行商できるものを仕入れよう。」

「修学旅行のプランを練る先生みたい。」

「さすがに大学で修学旅行はないけど、新入生の合宿とかはあったからそれのせいかなぁ。」

「あー近場のホテルに行く奴。最初にあなたが引率で行くって言った時、私絶対浮気だと思ってた。」

「…君、あの時なぜか昼ドラにハマってたよね。」


結婚して最初の年、しおりやらシラバスやら見せたのに全然信じてくれなくて半泣きで縋られたなそういえば。

そのあとも帰ってきたら革靴をステーキにするとか言い出したし…本当に一過性の流行でよかった。

とにかく今後の計画は決まった。

わからないことだらけではあるが、生き残ることを優先しよう。




「はぁ、疲れた。なんなの貴族だかなんだかしらないけど、二言目には口説こうとして。うざいったらないわ!」

首からドレープのかかった艶かしいロングドレスに長い睫毛、ロングヘアーを編み込み花の飾りを付けた女性が疲れた声で部屋に入ってきた。それから大きな音を立ててベッドに座る。


「それだけミユウが素敵な人ってことだ。」


カイトは机の上に置かれた書類にサインしながらミユウに笑みを向けた。報奨金の受領書のようだ。


「…お世辞はありがたく受け取っておくわ。どうせなら日本にいた時にモテたかった。合コン行ってもロクな男と出会えなかったし。仕事は女のくせにーって言われるし。」


はは、と困ったようにカイトは笑った。

カイトは日本にいた時もモテてそうね、とミユウは頬杖をついてカイトを眺める。

たぶん容姿をそう弄ってないと思われるカイトは、割と美男子だ。


「それは周りの見る目がなかったね。でも僻まれるほどちゃんと仕事してたんだからミユウは偉いよ。」

「ここにきてる時点で偉くはないわよ。」


はぁ、とミユウはため息をついた。カイトが目を細める。


「まぁいいわ、カイト、祝賀会の間に調査してもらった結果が出たけど、今聴く?」

「早いね。さすがだ。」


ミユウが羊皮紙を開く。ここの言葉は何故か読める。言語がまるで違うジョージも同じことを言っていたので、なにかしらの力は働いているのだろう。


「あの夫婦、郊外で畑やってて住み着いたのここ4.5年みたいね。」

「5年?!そんなにもったのか。」


驚いたようにカイトが声を上げた。


「よそ者の割には評判は悪くないね。奥さんの方が親切で困ってる人によく話しかけてたって。旦那さんはもの静かでよく後ろでニコニコしてたそうよ。2人でパン屋を始めて、商売もまずまずってところかな。」

「…夫婦で来たのが功を奏したのか?」

「いや、今までもそういう人はいたじゃない。でも大体もって数ヶ月。」


はぁ、とミユウはため息をついた。


「なんか夫婦で来てすぐ魔王化の第一段階とかになるの見ると結婚ってなんだろうなって思うわ。親に早くしろって言われてたけど、あんな風になるならもういいかなぁ。まぁあの夫婦は所謂オシドリ夫婦だったみたいね。」


よく2人でいるのを見かけたって証言が結構ある。とミユウは言った。

カイトは羊皮紙をミユウからもらい、隣に座った。

彼らの悪くない情報が、書かれている。


「そうか、全然魔王になる兆しはなかったんだな…俺は早まったのか…。」

「遅かれ早かれかもしれないじゃない。私たちが今までした苦労を思えば仕方ないよ。」


愕然としているカイトに、ミユウは肩を抱く。

「ねぇカイト、あなたいろいろ背負いすぎよ。次魔王が出たとしてもカイトが絶対やらなければならないわけではないよ。

魔王候補だって…。」

「しかしこの国で、この世界で与えられた役割を果たさなければ、期待されたように動けなかったよそ者はどうなったと思う?!」

「カイト!!」


女性は勇者…カイトを抱きしめた。

カイトは過呼吸のように激しく呼吸をしたが、次第に落ち着いていった。


「大丈夫、カイトは大丈夫よ。私たちがついてるじゃない。1人で矢面に立とうとしないで。」


カイトはしばらく目を閉じてから優しく体を離した。


「ありがとうミユウ。…とにかくもう一度あの夫婦に会いたい。それだけ長くいたなら何か知っているかもしれない。」

「そうね。…出会いが最悪だっただけに会ってくれるかな。」

「なんだよ、ミユウだって『魔王になる前なら余裕で倒せるじゃないあったまいー!』とかいってたじゃないか。」

「だってあれはジョージが…!」


もう!とミユウはそっぽを向いた。カイトがあははと屈託なく笑う。


「あの時は…魔王討伐の後でやるせない気持ちで、正直冷静ではなかった。もう一度、誰かを信じてみなければいけないのかもしれない。」


カイトは拳を握りしめた。

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