あなたといればどんなところも都だね。
勇者が魔王を倒したらしい。
自分が知っているだけでこれで3回目だ。
人々は表通りで勇者一行のパレードを見るためにどんどん流れていく。
パレードはいいことだ。パンが売れる。
ふぅ、とため息をつきパンの入った台を屋台の袖に置いた。
ここの国にはなぜかなかった惣菜パンが、妻の手によって綺麗に盛り付けられている。
大切な妻が一生懸命作ったものだ、一つとして崩せない。
「ねぇー、ポル?あっちパレードやってるの?」
後から来た妻がリンゴを持ちながら興味深々に音楽の鳴る方を見ている。
よそ見をしているな、と思ったら案の定一つリンゴを落とした。
俺はすんでのところでリンゴをキャッチしてから「こちら」に来たときに世界観に合わせてつけた偽名に反応して答える。
「魔王討伐のパレードだよ。リン、リンゴ落としたよ。」
「ありがと!パレードかぁ、見てきていい?」
「だーめー。また迷うよ。ここは日本じゃないから道聞いてもよそ者に教えてくれないんだから。先週身をもって知ったの忘れたの?」
「忘れたな!」
不敵な笑みを浮かべて胸を張り元気よく答える。
あーうちの奥さん可愛いな。結婚してよかった。
じゃなくて。
「大丈夫、ポル、私探すの得意じゃん?」
「迷う前提。しかも反省なし。開き直り。スリーアウトです。はい、働く。」
妻は不満そうにリンゴをかごにいれ、三角巾を縛り直し、雑に入れたためよろめいた籠を持ち、一つリンゴを落とした。
大体予想はしてた。パンじゃなくてリンゴを持たせて本当によかった。
俺は落ちたリンゴをそっと自分の鞄に入れてから
「まぁこれが売れたら見に行けるよ。夜通しやるだろうし。」
と元気付けた。
結婚して10年。
ゲーム、料理、ものづくり。なんとなく2人とも趣味が合い(妻が合わせてくれることも多々あったが)楽しく過ごしてきた。
10年記念にゲームみたいな絶景を見に行こうという不純な理由で山へ向かった。
そこで自殺志願者を発見して妻が先に走り出した。
俺も後を追って崖から妻を抱きとめた。
あー俺の奥さんめっちゃお人好し。大好き。それに最後に大事な伴侶抱いて死ぬとか俺めっちゃリア充(笑)と思いながら落ちていって気がついたら見たことない絶景。
俺はあんまり漫画は読まないが流行りの異世界じゃない?!と妻ははしゃいでいた。
俺は何よりも、自分と妻が生きていて、また夫婦として生活できることに安堵していた。
それからもう5年。
正直日本以上に他者を受け入れない国民性とか、そもそも金も家も職もない状態から始まった生活は過酷だった。
俺は前職のおかげで獣も狩れるし何も持たないキャンプも若い頃からやっていたからすぐ慣れたがインドア派の妻には辛い思いをさせた。
俺に見せないように寝ながら泣いているのを見て、不甲斐ない自分を嘆いたこともあった。
転機があったのはこの世界に異世界からの人間が使える特性があることに気づいてからだ。
ここにきてから胸に宝石のようなものが埋まっていたが、それが触媒となり様々な能力が使えるようになっていた。
妻は回復、補助全般と簡単な攻撃魔法。
回復や補助は劇的な変化だったが攻撃魔法は火をつけられる、水を出せる、と他者になにかできるほどではなかった。
しかし、彼女にはMMOみたいだ!と大はしゃぎでメキメキと上達していった。
といっても本心は狩りに行くたびに傷ついたり病気になる自分を気遣ってだろう。
しばらくして自分の特性が硬化だと気づき、狩りでの怪我が格段に減ってから複雑そうな顔をしていた。
そこからが早かった。
特性を生かして道具なしの農作業、ものづくり、コミュニケーションが苦手な俺に代わり妻が営業をしてなんとか屋台を出すまでになった。
あっという間の5年。
日本では40代な自分だが異世界だからか20代ほどの体のままなのが功を奏してなんとか安定して暮らしていけるまでになった。
「思えば遠くにきたもんだ」
「あ、何それ。流行りの歌とか?」
妻とのジェネレーションギャップに俺は泣いた。
コスパを考えて惣菜パンを出しているがパンは手間がかかる。手芸品も考えたがこの土地の民芸品のレベルは高い。
国民性的に変わったものは受け入れがたい。今まで具材をパンに挟むという発想がなかったのかサンドイッチですら気味悪がられたっけ。
「今回のリンゴのジュース受け入れられるといいなぁ。」
「大丈夫じゃない?勇者さんの好物りんごだって。」
そんな単純なもんかな。と思ったが看板に書いてみることにした。
妻がニヤニヤしながらこっちを見ている。
「それ、私のアイディアだからねー。」
「はいはい。でも書いたのは俺だからねー。」
「張りあうとか、かわいいねー。」
…もう何もいうまい。
歓声が大きくなった。
そろそろ大通りを勇者一行が通るのだろう。