プロローグ
広いグランドのある保育園。申し訳程度の遊具に人影はなく、建物の中にある1室に園児は集まっていた。
長い金髪の女性を囲むように集まった園児は、今か今かと待ち侘びていた。
「ねえ、早く絵本読んでよ」
その中の男の子が手を上げてお願いをする。
それにつられて、他の園児も声を上げ始めた。
「どんな絵本がいいですか?」
「聞いたことのないのがいい!」
女性がそう言うと、先ほどの男の子が大きな声でねだってくる。
園児の期待に満ちた目が集まってくる。
「そうですね。昔の絵本なんていいかもしれません」
女性は持ってきたカバンの中を青い瞳でのぞき込む。
そして取り出したのは、薄汚れた絵本。
使い古されたのではなく、ただの経年劣化であって、読まれた形跡はほとんどない。
「今日はこれにしましょう」
本のタイトルは『宝石の姫と雷光の騎士』と書かれていた。
新しく取り出された絵本に、園児たちは興味津々と言ったようで覗き込んでくる。
「知らない絵本だ……」
「ねぇ、早く聞かせて!」
そんな園児たちに囲まれて、女性は少し口の端を上げた。
本に目を落とすとゆっくりと口を開く。
『
宝石の姫と雷光の騎士
遠い遠い昔 魔法の国に サンステイと呼ばれる 王国がありました
その国は 小さくとも みんなが幸せに 暮らしていました
ですがある時 悪い魔法使いがやって来て 王国を乗っ取ってしまいました
魔法使いの 魔の手から 逃れた宝石の姫は 別の世界に やってきました
宝石の姫は 王国のことを知らず すくすくと 成長していきました
宝石の姫が 大きくなったころ 悪い魔法使いが 生きていたことを 知ったのです
悪い魔法使いは 宝石の姫を 亡き者にしようと モンスターを 送り込みました
何も知らない 宝石の姫は モンスターから 逃げることしか できません
モンスターに 襲われた 宝石の姫は 転んでしまいました
もうダメだというところで 雷光の騎士が やってきます
雷光の騎士は モンスターを 一撃で やっつけると 宝石の姫へ 手を伸ばしました
宝石の姫は その手を取ると 雷光の騎士に 引き上げられ 立ち上がります
これが 宝石の姫と 雷光の騎士の 運命の出会いでした
――