表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

第一話



 受験も終わり、離任式が訪れた。もうこれで学校に来るのは最後なのだろう。

 私は頑張って作ったチョコレートを鞄に隠し持ってきた。好きな人に本命ではなく義理のチョコとして渡す。相手を困らせたくないし、後悔したくない。


 離任式が終わり、周りが解散していく中、私は必死にあの人を探した。人混みの中、彼は立っていた。私は急いでそっちの方向に走った。


「先生!」


「おっ、美優みゆ。どうした?」


 先生は笑顔でこちらに向いてくれた。私は緊張して固まってしまった。その様子を見て、彼は笑った。


「なんか話でもあるなら聞くよ。うーん、教室に行こうか」


「はい!」


 先生は察しが良いと思った。私が言わなくても分かってくれるなんて、やっぱり大好きだ。

 連れて来られた場所は、私達が使っていたクラスであった三年三組の教室。ここにはたくさんの思い出が詰まっているのだろう。

 私は急いで鞄からラッピングしたチョコレートを出した。そして、先生に差し出す。


「先生、義理チョコです。あの……いつもお世話になったので、どうしても渡したかったんです」


 私の言葉に、彼は大きく目を見開いた。そして、彼は微笑んでチョコを受け取った。


「ありがとう、美優。生徒からチョコをもらうなんて初めてだ。ありがとう」


 先生はそう言って、笑顔で私の頭を撫でてくれた。そのせいで、体温が一気に上昇した。


「先生、大好きです!」


 もう最後だからと言ってしまった。きっと、恋として受け入れられていないだろう。


「そっか、ありがとう。俺も美優が大好きだよ」


 その言葉はただの生徒としか向けられていないだろう。それが悲しいけど、やはり嬉しさが勝った。そんなこと言ってもらえて嬉しかったのだ。


「お前さ、前になんか言ってなかったっけ?ホワイトデーにはあんなことがしたいって……」


「あっ、それは良いです。先生と話せただけで嬉しかったですから」


 今そうなっているので、私はホワイトデーのお返しなんか求めない。

 以前、恋愛相談だと聞いてもらった時に冗談で言ったのだ。『先生とデート』は無理だろうし、『形が残る物』も難しそうな物である。


「俺とデートとか言ってたよな。あと、形に残る物って。良いよ、全部叶えてやるよ」


「えっ!本気ですか?」


「ああ」


 まさかの展開に私は驚いているが、先生はやる気満々の様子だ。

 先生とデートか……。夢みたいな話だ。しかし、先生には奥さんが居る。大丈夫なのだろうか。

 すると、先生が自分のスマホを出した。


「連絡先教えて。チャットで計画して行けば良いだろ」


 先生の連絡先教えてもらえるの?なんか展開が飛び過ぎて、混乱してきた。私は自分の電話番号を告げて、アカウントを見つけた。


「さすが、アニメファン。カッコいいアイコンだな」


「いえ……」


 私のチャットアプリでのアイコンは、水を操る少年のキャラクターである。私の推しだ。でも、今は先生のファンだから。

 そして、先生のアイコンは娘さんの笑顔。可愛いけど、胸が痛い。


「娘さん、可愛いですね……」


「そうだろ?自慢の娘だよ」


 やっぱり、そう言われるのは悲しい。本当に私は先生とデートに行って良いのだろうか。


「まぁ、春休み中に行こうな。予定は……けっこうある気がするけど行こう。美優は行きたいところとかある?」


 行きたいところ……。遊園地とかカラオケとかあるのだろうけど、私にはよく分からない。私は首を横に振った。


「うーん……。じゃあ、俺が最高のプラン考えておくよ。ディナーとか行こうぜ。俺の奢りで」


「えっ、そんな……」


「良いんだよ。お前が今度彼氏と行く時の練習になるしな。一日だけ彼氏になれるとか考えると興奮するな」


 先生はすごい張り切ってるが、私はものすごく申し訳なさを感じている。先生には家族だっているのに、大丈夫なのだろうか。


「そろそろ時間的にヤバいな。帰ろう」


「はい……」


 先生とデート。そんな夢みたいなこと現実になるなんて思ってなかった。



「先生、さようなら」


「うん、バイバイ。またな」


 私は玄関まで先生に見送ってもらい、自宅へ帰った。胸の高鳴りはなかなか治まらなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ