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婉曲的な
「月が綺麗ですね」
勇気を出して言ってみたけどそれが月が綺麗ですね、とはさすがにくさすぎたセリフだ。
『そうですね~』
奈美は空を見上げてそう答えた。
木原が求めていたのはもちろんそのような回答ではない。
「いや、そうじゃなくて。」
『???』
まるで、そうじゃなかったらなんなのか、なんて顔に書いてあるような表情で木原を見つめる奈美。
どうしてここまで鈍いものかと頭を抱えたいものだが、婉曲的に告ってしまったのは彼自身の勇気が足りないゆえである。
ここで言わなければいつ言うんだ。
振られる覚悟で口を開いた。
「奈美ちゃんが好きです。」
しっかりと、奈美の目を見つめてそう言った。
彼女は木原の目をしっかりと見つめ返し、
『私も、木原さんのことが好きです。』
その言葉を聞いた瞬間、木原は嬉しくてその場で奈美を抱き寄せた。
「俺と、付き合ってくれませんか」
『よ、よろしくお願いします……』
奈美は赤く染った顔で木原を見つめた。




