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蛍は焦げる  作者: 愛璃
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見方も変わる

木原さんが好きだと気づいてしまったら話が違う。

しかも、こういう時に限ってオフィスに着くと1番に木原さんと会った。


「おはよ!」


『お、おはようございます…』


昔から好きな人の前では上手くいかないタイプで、明らかに意識し始めているのがすぐにバレてしまうような気がする。


爽ちゃんとの距離感だっていつも通りに接してくれ、と言われてもやっぱり難しいもので……


「おはよう」


『あ、おはよ』


どうしても二人の間に流れてしまう微妙な空気。


前みたいに俊くんと爽ちゃんと3人でお出かけだとか、そういうイベントもなくなってしまう気がする。



もう一週間も奈美の調子がおかしいということに熊井は少し気づいていた。

彼が見てもわかるくらいに山崎への態度がおかしいし、中竹との距離感も変わってしまった。

それもそうだろう。

実はあのあと、中竹が天文部の奈美以外が入っているチャットグループに

【振られました】なんて送ってきていたのだ。

次の日、部活に現れた中竹だがあれは確実に凹んでいるということは一目見て当然の様子であった。

それを見越して彼が好きなお菓子買ってきてやった熊井は気の回る男である。



俺もそろそろ動かないとだよな。

わかってるんだ、俺だって振られるってこと。

けど、わかんないじゃん?言ってみないと。

言葉にしなきゃ伝わんないもんってあるからね。


熊井はそう心の中で決心した。

いつにもなく今日は天文部の解散も早く、奈美と2人だけの部室を見渡してそれがきっと自分へのタイミングなのだと悟り口を開いた。



「奈美ちゃん、なんかさー、俺思うんだけど最近爽ちゃんとの距離感おかしくない?なんかあった?」


『あ……いえ、実はあの…』


今日はいつにもなく解散が早くて、部室を見渡せば2人きり。


熊井さんなら他の人に話したりしないだろうし…そう思いながらも少し気まずそうに私は事の経緯を話した。


爽ちゃんが告白してくれたけど断ったこと、普段通りに接してと言われても難しくて悩んでいること……木原さんが好きだと気づいたこと以外は全部話してしまった。


彼と私は同じ部活仲間で学年も一緒だから、これからきっと長い時間を一緒に過ごすはずだ。


それだからこそ、私は相談する人もなく悩みに悩んだけれどずっとモヤっとしたままだったけど、熊井さんのおかげで少し晴れた気がする。


奈美の話を熊井は一生懸命に聞いていた。

もちろん、彼自身はなぜ奈美の調子が変なのか原因はわかっていた。

しかし、上手い話の切り出し方が見つからずにこの話題に頼ってしまったのだ。

すまん爽ちゃん、お菓子あげたから許してな、奈美の話が終わるまで心の中でひとり中竹に対して懺悔していた。




「そっかー、なるほどなあ。じゃあさ、俺は?どう?」


奈美は困った顔をして見せた。


ちがう、俺はそんな顔をさせたいわけじゃないんだ、そう思いながらも熊井は言葉を続ける。


「俺、実は奈美ちゃんのことが好きなんだよね。て、今言われたらさらに奈美ちゃんのことを困らせてしまうのはわかってる。ごめんな。」


彼はできるだけ優しくそう伝え、いつもみたいに頭を撫でた。


『熊井さん……』


この後、彼に告げられたのはもちろん断りの返事だった。

だから、熊井はいつもみたく言ってやったのだ。


「お兄さんは応援してますよ!」


うざったかった兄ポジションは結局捨てきれなかったようだ。

奈美の本当の兄のように、それはそれは優しく頭を撫でた。


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