遭遇
今日も今日とて清陵祭の準備中。
部室に行く前に、頼まれたものを買って向かっている最中に偶然、本当に偶然、達斗が告白されている場面に遭遇してしまった。
ちょっと、ここ通らないと遠回りになるんだけど!
そんな考えはただの言い訳で、たぶんきっと事の次第で自分の気持ちをはっきりさせたいんだと思う。
達斗を追ってこの大学まで来た。
けど、会えなくて諦めかけてた時に現れた彼。
今も好きか…そう問われると口篭るのは私の気持ちがまだ決まっていないからなんじゃないかと思う。
「山崎くん…好きです、付き合ってください」
私の見た事もない可愛らしい女の子。
私の知らない間に達斗の世界は広がっていて、少し寂しく感じてしまうのは私だけだろうか。
自販機の後ろに隠れている私はそのまま成り行きを見届けている。
「ごめん、好きな人がいるから」
そう言って、その場を離れ部室に向か…わない!こっちに来る!
そう思いもっと身を縮めると、
「最初からバレてんだよなあ」
『ご、ごめん…何も、見て、ないよ?』
それは明らかに何かを見たやつが言うセリフだって言って笑っているけどいつもの笑い方じゃないよなあ。
うん。
でも、私はもうきっと達斗に未練はないんだ。
今だってこうやって友達として話すのが何より楽しいし、告白されているのを見てショックを受けたかと言うとそうでもない。
最近仲良くなったばかりの子に呼び出された時、告白される予想は着いていた山崎。
清陵祭前ということで大学内は少し色めきあっていた。
大学に入って告白されることは数回あった。
しかしそれを断わってきた原因が、幸か不幸か自販機の後ろに隠れて聞いていた。
好きな人がいるから、在り来りな断り方のようで紛れもない事実。
こんなことを言ってもきっと奈美はその真意には気づかない、そう思って断りを告げたあと、彼は何食わぬ顔をしてそこで聞き耳を立てている長年想い続けてきた相手の元へ向かう。
部室に入ると先程の出来事を、したり顔で話す奈美でさえも山崎は愛おしく感じてしまうのだった。
「告白シーズンだからねぇ」
感慨深く言う山浦さん。
そのタイミングで私へ一通のメッセージが届く。
『あ、ちょっと一旦失礼しますね。何か飲み物とかいりますか?』
皆さんが大丈夫だよー、と言ったので私はそのまま指定された場所まで向かった。
ドアが閉まるとすぐに山浦が一声を放つ。
「あれ、絶対告白だよね」
「ぜっっったいそう。セコム動きます。」
「木原は残ってて、いらんことしそう。」
「セコム隊出動ー!」
「おー!」
「邪魔はダメだからね?」
奈美の一番のセコムである木原が動こうとしたが、告白の邪魔をしかねないと見兼ねた熊井がそれを引き留めた。
結果、熊井と中竹と濱元ら(自称セコム隊)が興味津々で奈美の跡をつけることになった。
築田がそれに対して優しく注意をしたが聞く耳を持っていたかどうかはわからない。
奈美と少しの時間差をつけて部室を出ていく3人。
それを黙って見届ける山崎に、築田はそっと尋ねた。
「山崎は行かなくてよかったの?」
本当なら先程見られた分仕返しで見に行ってやろうかと思った。
しかし、想い人が目の前で告白されていて何も出来ない自分がいるということを想像するだけで達斗には辛く感じられた。
同じく、部室に残っている木原も不安の文字が顔に浮かび上がっている。
「榊さん、よかったら付き合ってください」
告白シーズンだからねぇ、という山浦さんの声が私の耳の中でエコーする。
まさか自分もその流行に巻き込まれることがあろうとは露知らず。
けれど、しっかりと答えは決まっていた。
『ごめんなさい、今の私には素敵な人たちがいるので…』
奈美のその言葉を聞いても諦めた素振りを見せない男。
いつまでもしつこく言いよるので、セコム所以、熊井が割って入ってしまった。
「おっと、ごめんね、うちの後輩がなんかした?」
『く、熊井さんん…』
もう大丈夫だよ、と言うかのように私を背中に隠すとその男は去って行った。
突然の助けに有難く思うも驚きが大きく、
『な、なんでここに…!』
よく見ると爽ちゃんと俊くんもいて、やっぱり飲み物頼んでなくて良かったって言って笑うふたり。
偶然にも飲み物を買いに来て、声が聞こえて見てみたら…って部室に帰る途中に話してくれた。
ドアを開けると
「どうだった!?…あ。」
木原さんが勢い良く問いかけてきたけど、どうだった、とは?
築田さんと山浦さんは何ともバツが悪そうな顔をしていて、そのままちらっと横を見れば3人の白々しい顔。
『もしかして…ついて来てたんですね?』
そう言うと、わーん!ごめん!と潔く謝る熊井さんに免じて許してあげることにした。
それに、達斗が小さい声で
「お前も見てたくせに」
なんて言ってきたしね。笑
でも本当に、このメンバーは素敵な人たちばかり。
そう、私が言った素敵な人たちとはまさに今、私に一生懸命謝っている彼らだというのはあとあと3人の証言でバレてしまうのであった。




