その6〜人の話を聞くんじゃ〜
夏休みがもう終わってしまいますね…
もうどっちが悪役か分からなくなっていた。
兄妹の圧倒的な戦いぶりに、リッカも、獅子峠一行も、逃げ遅れた村人も、身動きが取れなくなっていた。
殴る、蹴る、叩く、突く、投げる。
身体中のあらゆる部位を使って、彼らはゴブリンをなぎ倒していく。完璧に合理化された動きは、まるで踊っているかのようだ。
ほとんどのモンスターには痛覚というものがない。
何度もその体に攻撃を叩き込まれつつも、ゴブリンは何度も兄妹に向かっていく。
それをひたすら撃退する2人。
だんだんとゴブリン側の体力が尽きていく。骨を折られるなどして動けなくなったゴブリンも少なくない。
「まさか…こんなに強いなんて…」
リッカは呆然として呟く。
しかも彼ら兄妹は汗ひとつかいていない。
シュウなどは空腹に目が虚ろになりながらも、驚異的な速度で蹴り技を繰り出している。
とうとう残るゴブリンは1匹となった。
兄妹は勢いに任せるように、同時にゴブリンへ突進していく。
今更身の危険に気がついたのか、ラストゴブリンは踵を返す。返そうとする、が、間に合わない。
ケンの足裏と、シュウの拳が、ゴブリンの腹に叩き込まれた。
「え?逆じゃないのそれ」
リッカの疑問に答えるものはいない。
倒れ込んだゴブリンを前に、兄妹は揃って、勝利の雄叫びを上げた。
「なんてことだ…勇者様…」
呻きながらにリッカの側へ這いよって来たのは、ボロボロになった黒服を身に纏う老人。
「神父様!大丈夫ですか⁈どこか酷いところはありますか」
「いや、軽く振り回されただけだ。聖魔法を使って撃退しようと思ったが、私では力不足だった…」
悲しそうに目を伏せる神父。リッカは首を振って否定する。
「神父様が体を張って時間を稼いでくれたから、勇者様が間に合ったんです」
「ああ…ここを救ってくれたのは勇者様だ…。あの方々ならきっと…」
「誰だお前は」
「すごいタイミングでひでえこと聞くなお前!」
「夜ご飯はいつですか…」
「聞け!」
村人を救っても、彼らは彼らだった。
しかし、飢餓の極致に達しようとしていたシュウは、それでも神父の異変に気がついた。
「あら神父様!お怪我をされたのですか!私が運びましょう。さあ、背中に」
お手柔らかに…、と息も絶え絶えな神父の訴えが聞こえたのかどうか、老人を背負った少女は超特急で教会の方へ向かっていった。
「さっきの老人、俺たちのことを何か言っていたようだが、なんの話をしていたんだ?」
「ああ、多分、『聖剣』のことを言ったんだと思う。選ばれた勇者にしか抜けないんだ」
「流石にこの量のごぶりんは1人では無理だ。運ぶのを手伝ってくれ」
「聞いといて無視されるのが一番傷つくなこれ」
面倒くさいやつが残ったと思いながらも、リッカは手頃な押し車を探す。
ケンはゴブリンを5、6匹背負うと、シュウと同じくらいの速度でいそいそと走り去っていった。
「はぁ…、担当、変わってもらえないかな。多少弱くたって、話が通じる勇者様のナビゲートの方が楽しいよ、絶対」
誰にともなく流したリッカの独り言に、答える声があった。
「それなら、俺達の仲間になるといい」
獅子峠レオである。まだ倒れたままであった。見た目は完全に、ひっくり返って立てなくなった亀である。
「最初の仕事を与えよう。さぁ、俺を起こしてくれ」
爽やかな笑顔を浮かべるレオから、リッカはゆっくりと目をそらす。
「さて、そろそろご飯の時間だし、帰るか」
感想、アドバイスどんどんください!
作者が泣いて喜びます!
喜びすぎてシュウが脱ぎます!